上 下
1,014 / 1,085
第二章 地底騒乱

第九百五話 坑道で情報収集

しおりを挟む
 驚くことに今俺の背後にいるのはあのキゾナ大陸王子、エッジマール・ウル・キゾナ……らしい。
 まさかこんな形で再会するとは。
 とはいえ鉱山へ向け真っすぐ歩かされている。
 後ろを振り向くことは許されていないので、小声で会話を続ける。

「……本人という証拠はあるか?」
「そうだねぇ。君なら僕が誰を思っているか知ってるんじゃないかねえ」
「女性全般。ほぼ全ての女性」
「酷いねぇ!? まぁ女性は大事だと思うけどねぇ」

 こいつと俺くらいしか分からなそうな情報……うーん。

「俺が知令由学園にいたときに、お前に教わったもう一人は誰だったか、分かるか?」
「ベルディアちゃんでしょ? 可愛い子だったねぇ。元気にしてるかねえ?」
「俺の妻で、もう子供もいるぞ」
「……君、人のこと言えないねぇ」
「うっ……言われてみれば。だがあれはブネが勝手にだな……いやいや責任は負っている
しそんなことは」
「おっと。この辺にしておこう。入り口で手荷物検査が入るからねえ。君は何番かな?」
「二千二十四番だ」
「それなら作業指導として僕が間に入ろうかねえ」
「分かった」

 どうやら本物のジオで間違いないようだ。
 聞きたいことは山ほどあるが……こんな場所にまで知り合いがいるじゃないか。

 ――坑道に入り奥へ奥へと進まされる。
 この鉱山、相当巨大だ。
 そこかしこに穴が開き、多くの支柱がある。
 俺とジオは硬い金属類を掘れる体格をしているからか、最奥の発掘場へと通された。

「貴様らはここで作業しろ。名乗り出た千二百番。しっかり教えるように」
「承知したねえ」

 監視はゆっくりその場を去り、渡されたつるはしで採掘を開始する。
 かなり掘らないと、何も出ないような場所に思える。
 早速つるはしを持ち振るってみるが、思ったより掘りにくい。

「なぁジオ。一体何があったんだ」
「地底に天変地異が起きてねぇ。妙な建物が浮かびあがった。それに合わせるようにして
フェルドナーガの軍勢が攻めて来てねぇ」
「妙な建物?」
「フェルドナージュ様のお話だと、あれは魔大戦の頃の建造物じゃないかという話でねぇ」
「フェルドナージュ様はどうしたんだ!?」
「幽閉されてるねぇ……ニンファも同じく」
「何だって!? それじゃお前はニンファを助けるために……」
「声が大きいねえ。もう少し静かに。採掘の音へ紛れ込ませるといいねえ……残念だが抵
抗、出来なかったねぇ」
「なぁ、リルやカノンを見なかったか?」
「いや、見てないねぇ。フェルドナージュ様から捜索依頼は出てたけどねぇ」
「しかしあのフェルドナージュ様が簡単にやられるとは思わなかった」
「……奈落からフェルス皇国に戻るとき、女性を助けたんだけどねぇ」
「また女性か!?」
「いや、ちゃんと聞いて欲しいねぇ。その女性がねぇ、フェルドナーガの手先だったんだよねぇ。
記憶を失わせる術をかけ、解除と共にその周囲の能力を縛る恐ろしい術を発動させてくれてねぇ。
まんまとしてやられたってわけだねぇ」
「フェルドナーガってのは一体、何を……お、これが目的物か」
「もう掘れたのかい? おかしいねぇ!? こっちはちっとも出ないのに」

 大きめの金属塊、道中見て来た建物と同一の黒色で出来たものだ。
 かなり重く、鉄を連想させるが、鉄はこのような色はしていない。
 
「ノード黒霊鉱って言うんだけどねぇ。極めて硬い金属だねえ」
「何に使うんだ、これ?」
「列車の建造に使うみたいだねえ。あれは妖魔が霊を憑依させ走らせる特殊なものらしい
からねえ」
「そうかそれで……そーいやお前、ドワーフ一族だったな。それで詳しいのか」
「まぁ、ドワーフといっても色々だけどねぇ。僕は王族だから鉱山で採掘って経験は少な
いんだよねぇ……僕も尋ねたいことがあるんだけど聞いていいかねえ?」
「キゾナ大陸のこと……か?」
「そうだねぇ……その様子じゃ、酷い状態かねえ」
「ああ。上位神ロキによって、誰一人住んでいない場所になってしまった。そしてキゾナ
大陸にいたバルフートとバルシドニア。双方がトリノポート大陸を襲ったんだ」
「そうか、それで君はここへ避難しに来て捕まったのかねえ?」
「いや、どちらも俺に取り込んだ」
「なんだってぇ? あの伝説の生物を取り込んだのかねえ? これは驚いたねえ」
「だが、奪われてしまった。ロキもバルシドニアと共に取り込んだんだ。つまり……」
「フェルドナーガの手中にバルフートとバルシドニア、それにキゾナを滅ぼしたロキがいる
わけだねえ」
「そういうことになる。すまない、俺はタナトスって奴の裏切りでここへ」
「君、相変わらずお人好しで信じやすいんだねえ」
「そーいやお前にも一度騙されて牢に放り込まれたな」
「あれは正直参ったねえ。父上がもう父上で無いなんて思わなかったからねぇ……申し訳なく
思っているんだけどねえ」

 少し暗い話になってしまった。
 俺はこいつを恨んではいないし、ある意味こいつのお陰でマァヤ・アグリコラと知り合えて
命も救えた。
 あの場所に行け無かったら、イーファはスライムのままだっただろう。
 シュイオン先生の奥さん、メルフィールも助けられなかったに違いない。
 何一つ解決せず歯車は狂っていた可能性がある。

「運命ってのは本当、何がきっかけでそうなるか分からないもんな。お前の行った行動ですら
俺の道筋を変えて……もしかしたらこれもそうだというのか」
「ん? どうしたのかねえ」
「いや、今はいい。それより俺は力を奪われていてさ。その力をどうにかして取り戻し、ここ
から脱出したいんだ」
「それは賛成だねえ。ちなみにだけどねえ」

 つるはしを置いて構えるジオ。
 何をするつもりだ? と思ったら、正面の岩壁を素手で殴りつけた! 
 すると、ドゴォ! という強い音と共に岩壁がバラバラと崩れる。

「僕は屈強な種族でねえ。物理攻撃が殆ど効かない。覚えてるかねえ?」
「ああ。瞬剣のジオ。お前の存在は本当に頼りになる。俺が認める数少ない強者だ。お前の力を
借りたい。条件は……お前がニンファと結婚出来るよう俺も力を貸すことだ」
「承ったねぇ。この瞬剣のジオ。今日から君の仲間となろうかねえ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...