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第二章 地底騒乱

第八百九十六話 妖魔導列車内

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「フゴ……フゴゴゴ」
「本当に立ったまま寝てる……」
「さっさと行こうよ。ほら」

 俺たちは立ったまま寝ている妖魔の横をすり抜け、妖魔導列車内に潜入した。
 あいつはあの場所に立っている意味があるのだろうか。
 というかよくあの姿勢で眠れるな……。

「うわぁ、中も思ってたより大きいね」
「見とれてないで隠れられそうな場所を探すぞ。ここは客席があるから妖魔が乗る場所だ
ろう」
「積み荷は前の方かしら?」
「いや、後ろじゃないか。紛れるならそっちの方が都合がいいな」
「積み荷に紛れるってよりよ……こいつが走り出したら乗っ取っちまえばいいんじゃねえ
か?」
「あら、わたくしもその意見に賛成ですわ」
「確かに。現地に着いても降りる時点でばれるよね」
「しかしな……いや、それもそうか。無断で乗り込んだ以上積み荷に紛れていたら捕縛さ
れる対象になり兼ねない。其の案に乗るか……出来れば穏便にいきたいところだけど」
「穏便ねえ……そう都合よくはいかねえだろ。俺たちは潜入者だぜ」
「こうなっちゃったら仕方ないよ。それじゃ向かうのは列車の前方だね。ここは真ん中辺
りかな?」
「先頭は俺が行こう。なるべく騒ぎにならないように対処する」

 列車は上下に伸びていて、まだ出発していない。
 今なら比較的動きやすいだろう。
 俺を先頭にベルベディシア、タナトスが後に続く。
 念のため妖魔ラビットを抱えたまま進んでいく。
 歩き始めて直ぐ気付くのは、この車両に乗客が今のところいないことだ。
 
「誰もいないな。このバカでかい列車、どうやって動かしてるんだろう」
「そりゃおめえ……妖魔の能力だろうよ」
「でも、複数列車があるわけだろ? だとするならそれぞれが同じ妖術で動かすってこと
か?」
「さぁな。どちらにしても妖魔複数で動かすんじゃねえのか」
「こんな大きいものを妖術で動かすとは考えにくいよ。何か装置とかがあるんじゃない?」

 確かに……物質を燃焼させて動かすものだろう。
 何せ列車の上部に煙突のようなものが見えた。
 恐らくそこが動力室だろう。
 そう考えていたらガクっと大きく揺れて列車が走りだした。
 
「あら、動き出しそうですわ」
「わ、結構揺れるね。でももう安定して走りだした……っと急に曲がった?」
「ん? これは……路線を切り替えたのか?」
『逆に走ってる?』

 慌てて外を見てみると、列車のスイッチが切り返られたのか、俺たちの乗っている列車は
北側の路線に移っていた。
 そして、もうかなりの速度で走り始めている。

「まずい、このままこれに乗ってたらフェルス皇国に辿り着けないぞ」
「どうしますの? 飛び降りれば……」
「無理だな。この列車、そういうことか」
「列車周囲に電撃が走ってる。まさか電撃を迸らせて走行してるのか」
「そうじゃないとモンスターに襲われるんだろうね。列車自体は何かを燃やして動かしてる
みたいだよ、ほら」

 紫色の煙を発しながら走行しているのが確認出来た。
 列車の下や周囲は稲光が走っている。これが周囲のモンスターを寄せ付けないバリアの
役割か。
 さて困った。いよいよこの列車を占拠しなければならない。
 タイムリミットは……ノースフェルド皇国に到着する前だ。

「おい……誰か来たぞ」
「まずい、乗客が乗る場所にひとまず隠れよう」

 俺たちが外を見て話している間に、何者かがこの車両内に来たようだ。
 丁度全員外を覗いていたので、乗車席に身を隠す。

「……ありゃレイスじゃねえのか」
「ええっと……レイスって何だ?」
「レイスってのはおめえの知ってる世界でいうところの幽霊だ」
「ば、ばかいうな。幽霊なんているわけないだろ? そうだよな?」
「言い聞かせるようにいってんじゃねえ。いいか、幽霊ってのは分かり易くいやあ、タ
ルタロスの下へ辿り着けなかった哀れな霊魂ってことだ」
「ちょっと待てって……要するに実態が無い人型の……」
「だから違ぇって言ってるだろ。何で霊魂が人型なんだよ。ほら覗いてみてみろ」

 恐る恐る見てみると……白く濁った勾玉のような形をしたものがふわふわ浮いていた。
 まごうこと無き霊です。有難うございました。

「見るんじゃなかった……」
「何であんなのが乗車してるんだい?」
「そーいやフェルドナーガってのは邪眼の使い手だったよな」
「それが関係あるのか?」
「邪眼ってのはよ。見えねえものを見る力が強ぇ。そのため見えねえような存在も集まっ
て来る。あいつは目視出来る霊魂だが、この列車にゃもしかするとよ……」
「よ、よせ。それ以上聞きたくない。その存在はター君って言ってくれ」

 見えない霊体だけは勘弁だ。
 そう、あれは全部ター君が進化したんだ。
 それなら大幅に緩和されるから。
 
「……おめえ、びびってねえか?」
「別に? びびってないけど? 今の俺なら戦う方法だってあるわけで。見えなくても
きっとターゲットにも反応するしな?」
「声が大きいよ! 気付かれちゃうでしょ! あっ。ごめんね……」

 よりによって立ち上がって大声で注意してきた。
 霊魂には目は無いだろうが、目があったと思われるタナトス。
 というかお前……わざとやってんだろ! 
 そのお陰で、レイスがすーっとこちらに近づいて来てしまった……。
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