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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

戦パート 混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 バルフートと熾烈な戦場

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「おいルイン! 準備は出来てやがるんだろうな。一気に突っ込むぜぇー!」
「出来てないって言ったら待ってくれるのか? それなら少しじゅん……」
「待つわけねえだろ! んな余裕かましてる暇なんぞねえんだよ! さっさと行くぜぇーー!」
「だったら最初から聞くなよ!」

 ゲラゲラと笑いながらも俺のことは気にせず突撃していくベリアル。
 楽しそうにしているが、楽しめるような相手ではない。
 ソレに近づけば近づくほどその絶望ともいえる差に驚愕する。

 はっきり言って魚などとは到底思えない程無数の足があり、海を泳いでいる。
 その巨体は果てしなく続く長蛇の列車のようだ。
 不気味な動きで海嘯をものともせず突き進み、何もかもを蹂躙するであろうその姿。
 ベリアルですらバルフートからすればアリのような存在だろう。
 そして……その上に乗る一匹の巨大な牛とも言い難い存在。こちらが恐らくベヒモスだ。

「ベヒモスの奴は束縛の鎖で動かされてやがる。誰か乗ってるぜ」
「何? まさかロキか?」
「ちげえな。ありゃ恐らく七刃って奴の一人じゃねえのか」
「ここからじゃ分からないな」
「あいつは俺が相手をする。おめえは……」
「何度も言うな。やりゃいいんだろ! こっちは空も飛べないってのに!」
「氷術使えんだろうが! やばくなったら拾いに行ってやる。せいぜい海の藻屑とならね
えように気を付けるこったな」
「そりゃどうも! 全く、俺は海の生物でも空の生物でもないってのに。行くぜ! バネジャンプ!」

 かなりバルフートに接近したので、ベリアルから飛翔して奴の背中に乗ることにした。
 とはいっても定期的に部分部分が水に沈んでいく。
 ……こんなの封印出来るのか? あのクジラよりはるかにデカいぞ? 

 着地して直ぐ感じたのは、こいつにとって俺はコバエ以下だということだ。
 俺の存在を意に介さず、何かの命令でトリノポート大陸を目指している。
 つまり存在無視だ。
 
「封剣……おいティソーナ。こいつの封印方法を教えてくれ」
「ババ、バルフートでごじゃろ! ふざけてるでごじゃろ? 伝説の生物でごじゃろ! こんな生物どうにもならんでごじゃろ!」
「そうはいってもな……うわ、ベヒモスとまじ殴りバトルを開始しやがった」

 遠目に見えるベリアルは、意気揚々と巨大なベヒモスを爪で引き裂きにかかる。
 あいつ、絶対面倒な方を俺に押し付けたよな……。

「試しに剣で削って封印値が上がるかどうか試してみるか……」

 ティソーナでがりがりと削ろうとしてみるが……表皮が硬く何のダメージも与えられない。
 当然っちゃ当然だがどうすればいいんだ? 
 幸い定期的にジャンプすれば海に飲まれたり振り落とされたりはしなさそうだが。
 術も試してみたが何一つ効いている気がしない。
 言うなれば海に向けて攻撃しているようなものだ。
 いや待てよ……海に向けて攻撃か。
 だが海底に潜るのは危険かもしれない。

「こいつ、海の生物だよな。ティソーナはこいつについて知ってることあるか?」
「海の神獣とも、空の神獣とも言われてるでごじゃろ。実際海を泳ぐ姿を目撃されたことしかないでごじゃろ。何処で見つけてきたのでごじゃろ?」
「さぁな。それこそキゾナ大陸の地底にでも……こいつの長さってもしかして大陸級か?」
「きっとそうでごじゃろ。尻尾が見当たらないでごじゃろ」
「そうすると……こいつの体内に入れる場所探すか」
「何を狙ってるでごじゃろ?」
「いや、クジラも体内からの攻撃に弱かったからさ。こいつの体内にお前を……」
「嫌でごじゃろー! 殺生でごじゃろ! エーナちゃんの口にして欲しいでごじゃろ!」
「んじゃ、エーナムートって名前にしてやるからさ」
「名前の問題じゃないでごじゃろ!」
「仕方ない。俺も一緒に入るか」
「ほ、本気でごじゃろ?」
「このまま外から攻撃しても埒が明かないからな。ものは試しだ」

 しかし問題はクジラと違って噴気孔があるわけではない。
 つまり入るとしたら尻か口からだろうが……こいつの尻まで向かうのがまず困難だ。
 入るとしたら口からだな。

 バネジャンプを駆使して奴の顔付近まで来る。
 長い髭が二本生え、目は血走っていて怖い顔をしている。
 この部分だけ切り取れば、確かに竜のようだが。
 目に斬撃を加えたら効いたりしないかと思ったが、ここで暴れられたら大変なことになるだろう。
 陸までは今の速度ならもう数分程で到着してしまう。
 
「さて、どうやって口から入るかだが……妖雪造形術、ゴマキチ!」
「ファウー」
「奴の顔面部分まで頼めるか?」
「ファウー!」

 ついにこのときが来た。
 俺は愛くるしい顔をするアザラシ、ゴマキチにまたがり海を疾走する。
 ずぶ濡れになりながらも奴の口許まで寄ってもらった……後はこいつの口を開ければいい……と考えていたら、奴と視線が合う。

「あ……やばいかも、これ」
「ギ……」
「やっべ、ゴマキチ、退避……」
「ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 つんざくような大声をがなり立てて、バルフートは俺へ吠えた。
 爆音で耳が破裂するかと思ったが、ゴマキチはそのまま海底へと沈みだす。
 俺は慌てて奴の口目掛けて飛び込んだ! 
 
「うわ、予想よりやばいぞこの体内、喉元過ぎたら助からないかもしれん!」
「無茶でごじゃろ! 溶けるでごじゃろ! いくら何でも危険すぎるでごじゃろー!」
「もう決めたことだ。こういった場所でしか試せないこともある。眼の力が本当に俺の
ものなのか。三本の神剣で試してみる。相手として不足はない」

【絶魔】
 
 今の俺に出来る最大の力。それをもってして封印出来ないなら、こいつを封印するのは不可能なのだろう。
 
「だから試せってんだろベリアル。俺が海に落ちることを想定した上で。いいよ、やってやるよ。何ならお前ごと海に沈めてやるからな! 剣戒! レピュトの手甲解放」

 時間も無いし安全対策も無い。
 しくじれば死亡。そんな緊張感はある。

「ベリアル。お前の言葉を借りるなら、成功しない道理はねえ! お前の腹ん中に、綺麗な色をつけてやる。くたばれ、月下美人・黒緋くろあけ!」

 両腕にある赤と黒の刺青が浮かび上がり、それは身体を通じて眼に侵食する。
 まだ意識がはっきりとしているルインは、それを見て恐怖した。
 自分の身体は明らかに魔族。
 それを今一度痛感した。
 そして……「ぐ、うおおおおおおお! だから何だってんだ。今の局面を乗り切ラなきゃ、大切なあいつらを守れないだろうが、くそがーーー!」

 全力で撃ち放った技は、バルフートの体内で激しい斬撃となり、対象を切り刻む。
 同時に激しい揺れが起こるが、ルインはその場に倒れこんでしまった。

「封印……出来ないのか。俺の力じゃ、届かないのかよ。もう、眼が開かない。この頬を伝うのは……俺の血か……」

 自分の頬を舐めると、濃い血の味がした。
 絶望を感じたまま、ルインはバルフートの喉を通り抜け、腹の奥へと流されていった。


 ――ルインがバルフートの口内に入り込んだ頃、トリノポート大陸全域では激しい戦闘のぶつかり合いが起こっていた。

 ミズガルド・ビーはルッツと対峙し、銃撃戦となる。
 冷静なビーはルッツと対峙しているときだけ、その冷静さを失い、まともな判断が出来なかった。

「どうして今更お前が生きてるなんて言うんだ。あのとき、死んだじゃないか!」
「だから言ってんだろ。いつまで死体にへばりつき、自慰の念に浸ってやがるんだてめえは! そんなに俺の死を嘆きてえなら、とっととくたばれや!」
「黙れ! お前なんかがルッツであるはずがない! 絶対にお前だけは許さん!」
「落ち着きな。戦場において冷静さを失っちゃ隊長失格だぜ、お前さん」
「紛らわしい偽物狼野郎は俺に任せな。ったく何でこの俺が偽物共のためにこんな格好せにゃならんのよ」
「ハーヴァルさん、ベルディスさん……でも、俺」
「お前さんを隊長にしたってのは俺たちより統率を取るのが上手いからってことだ。現にあいつと対峙するまでのお前さんは相当優れた統率力だったぜ。一軍どころか四軍は任せられる器だ。本当に俺たちの町にもらっちまっていいもんなのかね」
「おめえは貴族だろ? 貴族の位を捨ててまでこの町に来た理由は何だ。それを忘れるんじゃねえ! いくぜハーヴァル! 巨爆烈牙斧!」
「そういうことだ。敵さんの言葉も一理ある。過去にこだわり過ぎず、今の大切なものを守りな。出来るはずだぜ。お前さんならな!」

 ハーヴァルとベルディスは巧みな連携で敵の神兵をなぎ倒していく。
 遠くから狙撃をするルッツの攻撃をハーヴァルが防ぎ、驚異的な範囲攻撃でベルディスが周囲の敵を確実に減らしていった。
 その動きに呼応するように、ジュディとピール、テンガジュウ、ビローネも一斉に攻撃態勢を取る。
 
「援軍に来たよ! 地下に落とした部隊は片付いたみたい!」
「おう、イビンじゃねえか。ご機嫌だなぁ! おい」
「おいおい、片付いたっていうか伏兵引き連れてきただけじゃねえか!」
「えっ!?」

 合流したイビンたちの後ろから、二名、剣を携えた将がやってくる。
 一人は長すぎる程の剣を持ち、もう一人は剣を二本構えていた。

「二天のマーカス。誰か相手をしな!」
「ふっ。貴様に遅れは取らん。我が愛刀の錆になるものはいないか!」

 戦場は更に激しさを増し、大きくぶつかり合っていた。
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