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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百八十四話 万華鏡角眼

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 事前にナナーへは話をしておいたベリアル。
 武器屋を抜けると間違いなくループが始まるだろう。
 そのため再度元に戻った場所から皆と前へ向かう道で合流する。
 ベリアルは闘技場から始まり、ナナーの場合外へ出てループが始まると、港へ向かう道から始まる
ようだ。

 歪みから外に出てしばらくすると、何かの叫び声と共に何発かの銃声が鳴り響く。
 そして再びタイムリープした。
 ここは……闘技場だ。

「グッハッハッハァー! やりおるな小娘ェ! 随分と成長したようだなァ!」
「あら。わたくしはまだまだ可憐な小娘のままですのよ。あなたのように老け込んで年を
とったりしないのよ。しないのね。しないに違いないのだわ!」
「またこれかよ。こいつらの台詞も聴き飽きたぜ……」

 今度は港方面へと飛んでいくベリアル。
 上空には確かに石化した奴がいやがる。
 ……おめえが味方でよかったよ。
 そして、港付近には着物姿の幼女、ナナーがいる。
 角眼鬼族という特殊な魔族。
 父を餓鬼に殺され、弱っていた頃のルインの体に取り込ませることで一命を取り留められた。
 四人の幻魔と違い、こいつは取り込む予定じゃなかった。
 今では美味い団子も作れるようになったかもしれねえな。
 ことが片付いたら、作ってもらうとするか。
 
「ご主人様、あそこだ!」
「ああ、見えてらあ。あいつらに俺は見えてねえだろうがな」

 ようやく現場まで着いたぜ。
 確かにメルザがいやがる。それにジェネスト、クリムゾンもちゃんといる。
 対象は此処にはいねえな。
 なるほど狙撃だったわけか。完全に気配を断ってやがる。
 肝心の奴がいねえがナナーは分かってやがるんだな。
 初撃は確か庇ったと言ってやがった。狙うとしたら二発目を防ぐべきだ。
 事前に全部防いだらそいつを捕まえられる道理がねえ。
 まぁ、死なないようには出来んだろ。
 にしてもこいつら、何処へ向かおうとしてやがったんだ? 
 
「そろそろ撃つだ!」
「何っ? 何処にもいやがらねえぞ?」

 一番高い建物は……宿屋の上だが、ナナーが向いてやがるのはそっちじゃねえ。
 傭兵斡旋所の方面だ。
 あっちに高い建物はねえ。
 一体何処から……「よせ、ルッツーーーー!」

 半端ない轟音と叫び声と共に、銃声が鳴り響く。
 こんなデカイ音が鳴ってやがったのか。
 闘技場からは全く聞こえなかったぜ。
 しかも弾丸が見えねえ。倒れた奴も周囲に居ねえ。
 一体どうなってやがるんだ? 
 
「ご主人様、どうすればいいだ?」
「待て。狙ってる奴は一体何処で撃ってやがる。倒れた奴は何処だ……」
「もしかして、見えてない……だ?」
「くそ、そいつも結界と同時に何か細工しやがったな! つまりナナー。おめえだけが頼り……」

 やべえ。見たくねえ場面まで見ちまう! くそが! 音は全部あいつにも伝わりやがるはずだ! 

「おいルイン! 耳を塞げ! 聞くな! 聞くんじゃねえぞ!」
「……ダメだ。現実から目をそむけて、お前にだけ辛い思いをさせたくはない」
「このバカ野郎が。どうなってもしらねえぞ!」

 冷静に判断しやがったが、もう一回ループ確定じゃねえか……。
 だが確実につかんでみせる。
 そう考えていたら、二発目の銃声が無常にも鳴り響いた。

「カルネ? カルネ! カルネ! カルネ! 俺様のカルネが! カルネが! 
うわあーーーーーーー!」
「急ぎ、止血を! いや治癒術……クリムゾン何をしているのです! 早くシュイオンを!」
「分かっているが周囲の警戒が先だ。女王の命が危ないだろう」
「メルちゃ……だいじょぶ、ツイン、助けて、くれるから」
「カルネ? 何言ってんだ……ああ、こんなに血が……嫌ーーーー!」
「女王、落ち着いてください! これは……幻魔の、卵? 不味い! 暴走している。このま
までは町を!」
「メル……ちゃ。大好き……指、握っ」
「カ、ルネ……ルイン……何処なの。俺様、俺様、どうしよぉ……助けて、助けてよぉー!」

「メルザアアアアアアア!」

 ルインの魂の叫びが聞こえてきやがる。
 無理もねえ。直接見たらもっと地獄に叩き落されるに違いねえ。
 あいつと共に過ごした俺でも、この状況はきつすぎる。

「バカ野郎、だから言わんこっちゃねえ」
「……タルタロスだ。聴こえるなベリアル。次のループで決めろ。スイレンの暴走が半端
ではない」
「わーってるよくそ野郎が! てめえが状況を伝える道具なんざ出すからだろうが!」

 そう伝え終わったところで再度闘技場まで戻される。
 ……胸糞悪いシーンを見ちまった。
 だが、はっきりしたぜ。奴が何処から撃ったのか。
 小細工したところで無駄だ。

「グッハッハッハァー! やりおるな小娘ェ! 随分と成長したようだなァ!」
「あら。わたくしはまだまだ可憐な小娘のままですのよ。あなたのように老け込んで年を
とったりしないのよ。しないのね。しないに違いないのだわ!」
「この台詞を聴くのも最後になんな……」

 再び羽ばたき先ほどの位置へと戻るベリアル。
 ナナーに何事かの指示を伝えると、港への続く道近くの、闘技場の塀に共に立つ。
 
「準備はいいな、ナナー」
「大丈夫だ。絶対止めてみせるだ!」

 角眼鬼族の角にはめ込まれたその装備は装着型の望遠鏡のような形をしている。
 以前ナナーに渡された筒は、吹けば恐ろしい武器となる魔が放出されたが、こちらは全くの別物。
 ベリアルは魔族として異質なる能力を持つ存在だ。
 産み出されるそれらはアーティファクトではなく、魔そのものの能力を根底から引き揚げてしまう。
 つまり……「わっ。沢山見えるようになっただ」
万華鏡角眼まんげきょうかくがんってとこだな。その角は飾りじゃねえんだ。今日からおめえの最大の武器だぜ、ナナー。眼をこらせ。削り飛ばしたい部分に照準を合わせてみやがれ」
「やってみるだ……」
「奴が一発目を撃った瞬間を狙え……それで奴の視界を完全に食い尽くせる。二発目まで随分間があっ
たからな。おいタルタロス! てめえにも聞こえてやがるんだろ! 俺が合図したらルインに解放させ
やがれ! いいな!」
「……ああ。どうにか、なるだろう」
「あん? 歯切れが悪ぃぞ! ルイン、おめえも聞こえてるんだろうが! きばりやがれ!」
「……必ず、俺がこの手で……」

 状況が読めねえが……後は一か八かだ。これ以上は引き延ばせねえ! 
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