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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百七十四話 最強の管理者、冥暗のタルタロス戦その一

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 その男、長身にして美丈夫なれど覇気強し。
 冥暗のタルタロスを表現すなら、そういったところだ。
 霧神に支配されていたときとは別次元すぎる。
 魂を管理し、作り替える者。冥府の番人、奈落の管理者そして……絶対神におけるやり
すぎた魔族の存在。
 それが冥暗のタルタロスだ。

「始める前にいっておくぞウナスァーよ。俺の能力には俺の魂以外も含まれる。つま
り、一対一での戦いではない」
「その言葉に意味はない。冥府の出来事であればいざ知らず、地上で起こることなど余程
特殊な方法を用いぬ限り、見通すのは容易だ」
「ちょっと聞いたかい、ヒュー。あのウナスァーが地上のことについて話してるよ。信じ
られる? しばらくネタにしよう」
「だえー。神の雷が頭に落ちるんだえー」
「不吉な予言を立てないでおくれ……」
「タナトス。勝敗の判定はお前に任せる。下手な小細工はするなよ」
「構わないけど、勝敗条件は?」
「そうだな……降参って言った方が負けとか?」
「降参? 冗談でしょ? タルタロスがそんな恥ずかしいこと言うわけ無いよ。見てあの
顔」

 あの顔を見ろと言われてプイッと横を向くタルタロス。
 こいつ、あんな雰囲気で意外と可愛いとこあるな……。
 多分タナトスにはよくいじられていたのだろう。
 これと友達としてやっていくには確かにこういう無口そうな男の方が合っている。
 たまに激昂してぶっ飛ばされていそうだけど。
 
「タルタロス。降参した方が負けで本当にいいか?」
「……ああ。依存はない」
「じゃあ、離れて……もっともっと……よし、開始!」

 
 夕闇に臨むヒューメリーの空間。
 広く展開するため距離を取り、タルタロスの動きを観察する。
 まずはお手並み拝見って雰囲気だ。
 どことなくベルローゼ先生を思い出すな。
 雰囲気は少し似てる。ベルローゼ先生よりツン率は高いだろう。

【絶魔】 
「良し。来い、ベリアルーーー!」
「キュピィ?」
「はっ?」
「キュピィ?」
「おいおいおい! ちょっと待て何だこれ」
「キュピィ?」
「……」
「キュピ……」

 何だと!? 可愛らしいトウマモードに戻ってるよ! 
 一体何があった? 良く考えろ……落ち着け。
 タルタロスは……額に手をあてている。
 頭痛状態か助かった。
 いや、俺の行動が頭痛の原因か。

 俺の肩に乗る小さなトウマがじっとこっちを見ている。
 よせ……お前はあのベリアルだろう! 
 肝心なときにいつもいつも……「た、たんま!」
「どうした」
「なんか、能力が封印されてるみたいなんだけど……」
「……これを飲め」

 何か瓶のようなものを離れた距離から思い切り投げて寄越すタルタロス。
 受け取らなくても構わんって感じだよ、危ないな.
 しかし、敵に塩を送るってまさにこういうことだよな。
 塩を送らせたのは俺なんだけど。
 気味の悪い紫色の液体を受け取ったのだが、これ……毒じゃないよな。
 物凄く不味そうだ。しかしあの顔は真剣そのものだ。

「そっか。魂の器って単純に魂を消滅させるだけじゃないんだね」
「食うことも出来るからな」
「魂を、食う? ああ、ギオマもそうしているのか」
「ギオマ? 魂吸竜のことか。あれは違う。魂を吸い上げその場で力として用いる。さぁ
飲め」
「分かったよ……うげー、不味い……青汁に納豆混ぜて生魚を加えたような味だ……うげー」
「お腹が苦しい……はぁ、はぁ。あー、可笑しかった。君たち本当に勝負するつもりある
の? あんまり笑わせないでよ」

 俺がベリアルを呼び出そうとしたときから、床に転がってゲラゲラ笑っていたタナト
ス。
 タナトスは後でゲンコツを落とすとして。
 これでようやく……ってベリアル、戻ってないんだけど? 

「おい、戻らないぞ?」
「時間は掛かるだろう」
「ってことはプリマも呼べないのか。なら……来い! スノーバウルス!」
「フモォー」

 白いふさふさした小さな獣が現れた。
 違う、これじゃない。

「……来い、ガードネスクロウル!」
 
 でんでんむしみたいなのが現れた。
 これも違う! 

「……全部戻れ。仕方ない、今の形態で最大限の妖術を見せてやる!」
「そろそろ動いても……いいか?」
「妖氷雪造形術…ジャイアントペンギン!」
 
 にゅーっとした長い首を持つペンギンを造形術で構築。
 これは実在したかも分からない、化石レベルでのペンギンだ。
 背丈は人間程もあり、若干間の抜けた顔をしている。

「ウェーイイイイイイ!」
「怖い……もう少し穏やかに喋ってくれ」

 俺はジャイアントペンギンにまたがると、準備が完了したことを告げる。
 ふうと大きくため息をついたタルタロスだが、あちらも着々と準備を重ねていたことを
知っている。 
 触角が怪しく蠢き、空中に二本の手が浮かびあがっている。
 片方の手の平はアイスピックのような形状をしており、もう片方の手には斧が握られている。
 自らの左手には意味ありげな空中に浮かぶ玉を持ち、利き腕と思われる右手には剣が持
たれていた。
 両肩にはさらに何かを発射させられそうな装備を身に着けている。
 よく観察すると……触角の数が増えているようにみえた。
 全部で六……いや八はあるだろうか。
 まじでこんなのとやりあえるのか、はなはだ疑問だが……。

「封剣、剣戒。この形態であるならば、負けるわけにはいかない!」

 相手の動きを確認し、まずは接近。
 数十メートルは離れた距離だが、こちらの駆け出しから直ぐに攻撃が始まった。
 増えていたと感じた触角がぐんぐんと伸び、上空から斜めに俺へと降り注ぐ。
 一発一発が地面をえぐるほどの威力。直ぐにコラーダで防ぐが、衝撃の重みが尋常ではない。
 並大抵の非アーティファクトなら一発でペチャンコとなるだろう。
 
「痛ぁー!」

 上部ばかりに気を取られていたが、左右、いや地面からも触覚の同時放出攻撃してきた。
 せっかく出したジャイアントペンギンもろとも吹き飛ばされる容赦の無い攻撃。
 そもそも容赦など期待するだけ無駄だ。
 勝負を挑んだのは俺。
 相手の強さも認識していた。
 開幕、秒でこんなダメージを受けるとは。

 そのまま直ぐに触角の追撃が来るが、幸いにも攻撃を食らった際ジャイアントペンギンが
わざと大きく吹き飛ばしてくれたお陰で距離を取れた。
 先制を軽くつぶされた……仕切り直しだ。
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