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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百七十一話 タルタロスでありタルタロスで無い者との闘いその一

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 この場所まで来て今更話など必要ない。
 そう言わんばかりにトウマの姿へ変貌したベリアルは、一気にエゴイストテュポーンブ
レスの構えに入る。

「命名したぜ! エゴイストベネッジ自己主義者の激しいブレス!」

 ベルーシンを一飲みにした息が先制でタルタロスに直撃した……かのようにみえたのだ
が、その姿が掻き消えることはなかった。
 やばいと判断したベリアルが咄嗟に口を押えて息を止めると、タルタロスはゆっくりと
体を動かし始める。

「懐かしい力だ。テュポーン……そもそもこのタルタロスが産み出した力。返してもらお
うか」

 口を押えてエゴイストテュポーンの放出を行っていたベリアルの前足がほどかれて、ベリ
アルからエゴイストテュポーンが抜き取られてしまった! 
 こいつ、一体どうやったんだ? 

「何ぼさっとしてるのさ! 相手は操られているとはいえ、あのタルタロス何だよ! 早く
戦闘体制をとりなよ!」
「分かってる!」

【絶魔】
「妖魔の力を濃く感じる……」
「あれはっ!?」

 タルタロスが両手を引き上げると、上空より見覚えのある奴が次々と降って来た。
 それは、闘技大会に参加していたあの女。
 現在は檻に閉じ込められているはずのあの女と全く同じ顔をしている奴らが数十降りて
来た。
 あいつ一人でもかなり強かったはず。それがあんなに? 
 あいつ自身ホムンクルスか何かだっていうのか。

「あの中のどれかが本体で、この檻の奴は分体か。参ったね……彼女たちは私とヒューで
どうにかする。
君とベリアルはタルタロスを!」
「不幸が足りない。絶望も足りない。混沌などいらない。残虐なる死と理不尽な死。怨念
と復讐。もたらされる血しぶきの中に最大の充実感を得る。汝らの魂のみ美味しく頂くと
しよう。このタルタロスをもってすれば如何なる魂も我のもの。屈辱を舐めとり今、愚か
なる最高の妖魔を我が手中に!」
「行くぜベリアル!」
「俺に乗りやがれ! 連携で攻めるぜ!」
「プリマ、歪術で動きを抑制してくれ。攻撃は……両星の吸盾! こいつである程度防ぐ!」
「分離崩落」

 タルタロスが何か霧が詰まったようなものを放り投げると、急ぎ回転して尻尾で薙ぎ払う
ベリアル。
 だが、霧は尻尾に纏わりつくようにして尻尾に残る。

「ちっ。魂の侵食系だ。ルイン。思い切り上へ打ち上げる。俺を一度封印へ戻せ」
「分かった。行くぞプリマ!」
「おお。こんな強そうな奴プリマ初めてみたぞ」

 上空へ思い切り打ち上げられ、その位置から地上を見下ろす。
 封印へ戻すと、どうやら霧は封印内へは来れないようだ。
 しかし驚いた。既に周囲一帯ほぼ薄い霧が包んでいる。
 この中で戦えば不利に決まってる。
 ベリアルは勘が鋭いというか何というか……「霧を払うぞ、息を合わせろ」
「歪術、双鎌の分離衛!」
「赤歪閃!」

 赤閃を複数放ち、それにプリマの歪術を合わせると、赤い閃光が周囲の霧を歪ませて
その霧を切断していく。
 しかし後からどんどん吹き出していく霧は濃くなる一方だ。

「駄目だ。霧がすげー勢いで濃くなるぞ」
「まずいな。タナトスやヒューメリーは良くあの中で戦えるな……」
「魂の回廊者、魂の歪者。魂を要求する。汝が欲しい。我と結び交わり、永劫苦しませた
い」

 青白い手が地上からグングンと伸びる。
 それは地上の霧と繋がり複数本上空へ伸びて来た。
 俺は空を飛べるわけじゃない。つまりそろそろ落下体制に入るわけだが、何故上空へ打
ち上げたのか。
 それは……「行け、ベリアル!」
 絶魔の形態は最大限己の持つ力を封印者に分け与えて用いることが出来る。
 つまり……「ぶっつけ本番だが出来ねえ道理はねえ! ディストーテッド歪んだベネッジ!」

 上空に現れたベリアルは、地上へ向けて空間を歪ませる強烈なブレスを放出してみせた。
 あの先にタナトスたちがいるはずなんだけど、完全におかまいなしだ。
 むしろそうしたくて仕方が無かったような、容赦の無い一撃。
 そのまま巨大すぎる翼を羽ばたかせ、空中へ浮き続けている。
 更に上昇を続けると、もはや霧はその規模をこえて、モヤのようになっているのが分かった。

「なんつー規模だよ。おめえあそこにカタストロフィだったか? あれ打ち込んでみろ」
「この形態じゃ使えないだろ。あれはベリアルの……」
「おめえの力だぞ、ありゃよ。大体おめえ、戦車とかいうもんはこの世界にあると思うか?」
「いや、無いか……もしかして獣化したのも俺の力か?」
「いいからやってみやがれ。俺とプリマも続けて攻撃するからよ。周囲一帯を破壊し尽くせ」

 言われた通り、何度も行って来た獣戦車化を試してみる。
 すると、この絶魔形態でも部分的に変化させることが可能だった。
 しかし恐ろしく体力を持っていかれる。
 がくっと力が抜けるような感覚だ。

「魔をかなり行使したな。いけ!」
「カタストロフィ!」

 地上へ向けて放出された昔の切り札。
 その威力は凄まじく、地上で大爆発を起こさせ迫り来る気色悪い青白の腕を爆散させて
いく。
 続けざま、プリマとベリアルが攻撃を繰り返していくが、霧が晴れることはない。
 
「くそっ。離脱したのはいいがどうなってやがる。一向に霧が晴れねえ」
【求むるは汝の魂。奪い尽くすまで逃れる術叶わぬと知れ】

 空に響く畏怖の声。
 本当に邪神の類はしつこくて胸糞悪い。

「おおーーーーい! 下はひとまず片付いたっていうか大体バラバラだよ。まったく、私
ごと殺すつもりかい?」
「あ、生きてた……っておい。何でヒューメリーが飛んでるんだ?」
「だえー」
「弟は気分次第で飛べるのさ」
「……だったら最初から弟にそうさせろよ! って言ってる場合じゃなかった。あの霧どうに
か出来ないのか」
「あれほどの霧、君ならどうしたら消えると思う? ……っと爆輪!」

 悠長に話してる暇がない程、下から青白い手が伸びて来る。
 俺たちの今いる高さは相当なものなのだが、的確にこちらを狙ってきているようだ。
 タナトスの言っていた五分という時間は余りにも短い。
 急ぎこの状況を打破しないと、まだ一太刀すら浴びせられていない。
 予想以上のムリゲーじゃないか、これ。
 
「あれがただの霧なら風や温度でどうにかなるだろうけど、ただの霧じゃないだろ?!」
「そうだね。一つ一つが魂の集合体みたいなものだ」
「ちっ。そんじゃエゴイストテュポーンで飲んじまえばよかったのかよ」
「残念ながら既にタルタロスへ封じられたようだよ、その能力」
「んじゃ、打つ手なしじゃねえかよ!」
「いいや。全部君のものにしちゃいなよ。君は取り込み使役する者なのだから」

 俺に近づき、額に指を当てるタナトス。何かを塗りつけられた?
 まさかこれは、タナトスの角から放出された液体……か。

「お前……この状況で何を!」
「無理やり眠らせてただけだから。解放したのさ。さぁ暴れなよ、常闇のカイナって奴も
もうじき来るかもしれないだろうから、全力で……ね」
【さぁ目覚めなよ。Αφύπνισηアリーシア
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