上 下
962 / 1,085
第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百六十八話 流星

しおりを挟む
 ベリアルに怒鳴られ、渋々動き出すタナトス。
 俺の言うことは聞かないが、ベリアルの言うことは素直に聞くな。
 地面に這いつくばるタナトスは、何か妙な文字をその場に書き始めた。
 何してるんだこいつは? いや、そもそも冥府ってのはこいつの住処があるような場所
だったか。
 タナトスにしろヒューメリーにしろ慣れっこの場所なんだろうな。
 俺は断じてこのような場所に住みたくはない。
 居心地が悪いってより、見えない何かがうようよしてるなんて、怖……卑怯なだけだ。

「これでよし。仕方ないなぁ。此処で手を貸すつもりはないんだけど。先急いでくれなそ
うだしね」
「馬鹿言ってんじゃねえ。おめえが何をやらせようとしてるのかは、俺には想像つくんだよ」
「ふうん。君、随分変わったね。彼の影響?」
「うるっせえな! おいルイン。奴が書いた文字の上に魂の意識を集中させておけ。
俺も協力してやる。プリマだったな! そっちはおめえらで大丈夫か!?」
「プリマはずっと一人だったんだ。大丈夫に決まってる」
「だえー。手伝うんだえー」
「……もこもこしてて暖かい奴なら手伝ってもいい」

 プリマは案外ヒューメリーを気に入っていたようだ。
 無理もない。あの寝心地は病みつきになる。
 タナトスは置いていってヒューメリーだけルーン国へ持って帰りたいくらいだ。

「何か変なこと考えてなかった? 君」
「いや。寝床は大事だよなってことだけだ。それよりそろそろか?」
「ああ。来るぜぇ。スピリットミーティオル。絶魔と星の力を使え!」

 言われた通り絶魔状態となり、星の力を……ってどんな星の力使えってんだ。
 これ以上質問したら頭を使えって言われるのは明白か。
 えーと、見えない相手、斬れない、文字の上えーと、囲えばいいのか? 
 いや、もしかしたら食い尽くせってことか! 

「両星の殺戮群……」
「おい、そいつじゃ食っちまうだろ! 捕縛するような術を使え!」
「先に言えよ。どうすんだこいつら……いや待てよ。捕食も捕縛も似たようなもんだろ?」
『全然違う!』

 多方面から怒られた。なぜだ……いやいや、散々捕食してきたこいつらなら出来るはずだ! 

「食わずに捕食し尽くせ! ヒトデ共!」

 口だけのヒトデ共は全員てっぺんの頭を横に傾けた後、五つの輪となり
タナトスが記した文字の場所に立つ。
 その滑稽な様子を見てベリアルも小首を傾げる。

「おめえ……何したんだ?」
「何って、命令……いやお願い?」
「能力にお願いってのは何なんだ……相変わらずデタラメだな、おめえ」
「頼めば言うこと聞いてくれるかなって。長い付き合いだからな、こいつらも」
「まるで人格があるみてえに言うんだな……いや、人格を構築してやがるのか!? それも
おめえがもつ可笑しな能力かもしれねえ……来たぜ! 三、二、一、行け!」
「捕食しろ!」
「……」

 無言のままヒトデ共は口を大きく膨らませている。
 どうやら何かは捕まえたようだが、その何かということしか分からない。
 とにかくほっぺを全開に膨らませた子供のような形をとったままだ。
 しかし捕縛したのは目には見えないようなもの。
 これがスピリットミーティオル? 
 捕まえた実感が無いが……封印出来るのか、これ。
 それにしても殺戮群ってちゃんと俺の意思をくみ取って動くんだな。

「ちゃんと封印出来たか……? 分かり辛い。一人じゃ絶対封印出来そうにないな」
「はっきり言ってそいつを封印した妖魔を俺は知らねえ。そいつの存在しか知らねえ」
「いいなー。それ、結構希少な能力を持ってるモンスターの部類に該当するよ」
「だえー」
「ほう。タナトスやヒューメリーがそういうなら、この冥府でもそんなに珍しいのか」
「そいつは馴染まなくても直ぐ技が使えるだろ、きっと。存在が能力みてえなものだ。試
してみろよ」
「ええっと……流星? 何だこれ」

 感覚的に使えるのは分かるが……流星って赤星みたいな技名だな。
 試しに使って……あれ? 

「何だ此処は。一瞬で移動した? 瞬間移動のようなものか? いや、瞬間って程じゃな
いな」

 流星というのを使用してみると、先ほどまで立っていた場所と大分離れた場所まで移動
していた。
 これは便利だ。便利だがどうやって調節するんだろうか。

「流星! あれ、元の位置に戻らない。流星! ……流星! 流星!」

 俺がビュンビュン移動しまくるのをぼーっと眺めるベリアルたち。
 まともに行きたい位置に戻れん! 
 これ、使えるのかよ、本当に。しかも凄く疲れるぞ。

 仕方なくとぼとぼと元の位置まで歩いて戻る。

「おいおめえ。能力に踊らされてやがるな……」
「ああ……その自覚はある。毎回こんなもんだよ」
「妖魔によって技は大分変ったりするからね。それにしてもおあつらえ向きの能力だった
んじゃない。使い勝手は悪く無さそうだ。空中にも行けたりするのかな?」
「封印出来たなら試すのは終いだ。あいつらも倒し終わったみてええだし、そろそろ先へ
進もうぜ」

 いまいち使い勝手が分からないまま新たな能力を手に入れた俺は、戦ってくれたプリマ
を封印して先へ進む。

 
 ――そして「奈落が見えて来たね」
「冥府が妖怪百鬼夜行みたいなところじゃなくて良かった」
「奈落は案外その部類だぜ。タルタロスの部下がわんさかいやがるからな」
「そーいや先兵のアルチュウみたいな奴がいたな……」
「それ、先兵のアルケーのことを言ってるんだよね……」
「ああ、そんな名前だったか。出来ればあまり会いたくはないんだけど」
「……早速噂通りに現れやがったみてえだぜ」

 前方を嘴で指し示しながら、ベリアルがぼそりとそう呟いた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...