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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百五十八話 託すべき友

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 ……また、眠っていたのか。
 眠るたびに焦りが強くなるのが分かる。
 あれから一体何日経過したのか。
 メルザたちは大丈夫なのか。
 寝ている場合じゃないんだ。
 でも、今の俺にどうにか出来る事象なのだろうか。
 アメーダやミレーユも心配だ……本当に、理不尽なことばかり起きる。
 これなら前世の方が幾分かマシか? 
 ……そんなことはないか。前世は、マシな国に生まれただけだったはずだ。
 世界的にみれば、未だに奴隷のような生活を強いられる国や、産まれた子供を全く救え
ない国だって存在していた。
 それは、木を見て森を見ていないだけに過ぎない。
 神という者を遇層し、祈りを捧げ、不幸から逃れたくなる気持ちだって、分かる。

「しかし、あの神にすがりたくはないな……」
「どの神だい?」
「……いたのか。イネービュだよ。いや、他の絶対神もかな」
「それは同感だね。私もそう思うよ」

 目を開けると、そこには檻に入っているベルド、そしてヒューメリーとタナトスがいた。
 ベルドは檻の中で眠っているようだった。何かあったのだろうか。

「此処、何処だ?」
「第二階層。空が綺麗だろう?」
「ぶっ壊れたのか、この塔」
「ぶっ壊したの、君だけどね。明日には元に戻るよ」
「元に戻る? 何なんだこの塔」
「七壁神の塔だって。君の考えていた通り、神は死なないから。でも君、試練は乗り越え
たことになるよ」
「俺にそんな願望はない。今成すべきことをやっているだけだ。地底にも今すぐ向かいた
いわけじゃない。メルザたちの下へ帰りたいだけだ」
「それじゃ泳いで帰るつもりかい?」
「いいや。お前は必ず邪魔をするだろう。だからお前の約束って奴を達成してから向かう。
ベルドを、起こしてもらえないか」
「彼に何か頼むのかい?」
「ああ。俺はベルドを信用している。義理堅い男だ。それに……」
「それに?」
「恐らくベルドは、海を渡る力を持っている」
「へぇ……そういえば人魚の血が流れているんだったね」
「きっとこの場所へ来れたのも、その力の影響なんだろうな」
「それじゃ何故、直ぐに頼まなかったんだい?」
「此処に来た目的を果たしてやりたかった。俺にとってはいいライバルでもある」
「そう。そうか……それで比較されて……あれで力が出るとは思わなかったけど」
「……? お前、ベルドに何かしたのか?」

 タナトスをぎろりと睨むと、そっぽを向かれた。
 こいつは性格が悪いし冷たい。
 ベルドが檻に入ってるから、きっとこいつが暴走させたんだろう。
 全く……なるべくこいつと他の面子を引き合わせるのは避けたいな。

 しばらくしてヒューメリーがベルドを起こすと、随分落ち込んでいる顔をしていた。
 
「大丈夫かベルド」
「……ああ。少し気分がすぐれないだけだよ」
「力は……手に入ったのか?」
「分からない。どうなんだろう」
「安心しなよ。解除されているはずだよ、この場にいた者全ての魔はね」
「それは封印されてたパモやプリマもってことか?」
「そうだね。恐らくは。でも時間が掛かるよ。凄く溶けづらい氷が徐々に溶けるように
ね」

 タナトスの話によると、二から六階層までの相手全てをかき消したという。
 どれほどの力を行使したのかさっぱり分からない。
 そして、俺自身の力なのに全く制御出来ていないことに恐怖を覚える。
 真化を最初に行ったときでも回数を重ねればかなり制御出来た。
 しかしこの力は……直ぐにリミットをオーバーしてしまう。
 更に力の魔というもの次第では更に強化されたのだろうか。
 一応タナトスに聞いてみるか。 

「それで、どんなことが出来るようになるんだ? 力の魔……とそれ以外の解放ってやつ
で」
「二階層、単純な腕力の上限解除。気付いてた? 君たちの能力値って限界があるんだ」
「どういうことだ? 例えば俺の場合、モンスターを吸収して取り込めば、力なんかも引
きあがると思っていたんだが」

 タナトスの話に疑問を呈していると、ベルドは理解しているらしく、直ぐに応じた。

「腕力の限界。それは僕が認識している。どれだけ鍛錬しても、力の限界値が上がらないん
だ。つまり此処へ来た目的はどれだけ鍛錬しても上がらない能力を引き上げるため」
「オーガ族は特に上限へ達しやすい。強い魔族だからね。ちなみにルイン。君の体は妖魔。
妖魔は本来最低の能力値しかない種族だ。何故かは君がさっき言っていた通り、モンスター
を取り込みそれを己の能力として還元する。君の場合は少し還元方法がおかしいけどね。そし
て、恐らく君の場合、たった一匹のモンスターで能力の限界に来ている。最近どれだけモンス
ターを取り込んでも、能力向上していないんじゃないかな。感覚的に」
「そういえば……ベリアルの力を感じて以来……いや、海底で戦闘を行った辺りからだ。これが
限界値っていうのか」
「そうだ。二階層から六階層までを表すと、力、器用さ、体力、素早さ、魅力の五つだね」
「七階層は新たな能力って言ってたな。じゃあ一階は知力か」
「その通り。出来れば二人とも、一階層は突破すべきだろう。七階層に関してはベルド君は
必要ない」
「なぜだ?」
「彼の特異能力が抑制されていないからだ。君は別。無数の能力をこれでもかという位封印
してある。その多くは……」
「……ベリアルの力か」
「もう、皆まで言わなくても大体分かったようだね」

 この体は本来、あいつの体。俺の力なんて……。

「勘違いしているようだけど、君の力はちゃんとある。私が最も興味を惹かれるのは君の
持つ人の力なんだけどね」
「……それよりベルド。一つ頼みがある」
「何だい?」
「タナトス。ミレーユを映してもらえないか」
「いいよ」

 タナトスにミレーユの状況を映してもらうと、相変わらず何処かの洞窟で隠れているよ
うだった。
 無事であることが分かれば今はそれだけで安堵出来る。
 だが、このままではまずいだろう。

「彼女は俺の弟子なんだ。何者かに襲われて、ハルピュイアというモンスターの姿になっ
ている。もう一人俺の信頼のおける仲間、アメーダと共にいるが、状況が良くないんだ。
それにルーン国にも戻れずジャンカの町もおかしな状況に巻き込まれている。ベルドは一
人なら海を渡って移動出来るのだろう? 可能なら、彼女を助けてもらえないだろうか」
「それは構わないが、君はどうするんだ?」
「タナトスの目的が、どうやら最上階の攻略と地底に向かうことらしくて。今は頼れるの
がお前だけなんだ。一階層を攻略したら、向かってもらえないだろうか」
「分かった。必ず探し出して保護すると約束しよう。それとジャンカの……町になったんだ
な。そこにも訪れて調べてみる。連絡方法が無いが……」
「無理に連絡を取らなくても、お前が向かってくれるだけで心強い。現地は危険かもしれ
ない。俺も出来る限り早く駆けつけるから……頼む」
「任せてくれ」
「恐らくなんだけど、ベルド君を襲った奴は地底に向かったんじゃないかな」
「そういえばその話も気にはなっていたんだ。本来地底って地上からは向かえないんだろう? 
地底から地上へも十年に一度しか出れないと聞いた」
「地底、にはね。これから君が向かう場所は、冥府だから」
「冥府!?」
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