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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会
第八百五十七話 絶魔と伝書の合わせ技
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力が捻りだされる……そんな感覚だった。
そして……我を完全に失った。
「くたばれ。|ギルアデ・イワート】
青白い爆炎が天井に放出されると共に、巨大な歪みが発生して塔を突き抜けていく。
最上階まで到達する大爆炎は、まるで活火山が爆発するかのような狼煙を巻き起こした。
「ふん。これでもまだこの程度の威力しか出せんか」
二階より先全てを破壊し尽くすと、直ぐに雨が降り始める。
しばらくその雨を受けて、ルインはバタリとその場に倒れた。
「思ってたよりやり過ぎたね。どうしよう。七階層も吹き飛んじゃったよ」
「だえー。いいんだえー?」
「まぁ、いいんじゃない。しばらくしたら勝手に直るだろうし。それにまとめて五か所も
攻略しちゃったんだから、手間が省けたよね。一階層は戦闘しなくてもいいし。残るは七
階層だね」
「だえー」
「……何だ今の力は。彼は一体どうなってしまったんだ? 先ほどの戦闘形態は一体……」
「ベルドだったね。君も上位種の魔族だろうから、変身出来るんじゃないの?」
「変身? 僕がかい? そんなこと出来るなんて考えたこともなかったけど」
「オーガの種類は、バリアントオーガだったね。うん……私が後で解放を試みるか……そ
うでなければ七階層は厳しいし」
「一体さっきから何を……二階より上は全て跡形も無くバラバラで燃え尽きて……あ
れ、炎は何処へ消えたんだ」
ベルドたちは現在雪崩で押し流されたヒュプノス、タナトスと共に外にいる。
上空での大爆炎を目にし、恐怖を覚えていたところだったが、タナトスたちと話してい
る間にその炎は消えていた。
そればかりか、塔の部分にだけ雨が降り注いでいる。
周囲は静まり返り、日もまもなく暮れようとしていた。
直ぐにルインの許へと駆けつけようとするベルドを、タナトスが静止する。
「寝るまで待ってくれ。あの形態は危険なんだ。ところ構わず攻撃する。今はまだ、まと
もに制御出来ていない。強い力を使えば使う程、それだけ早く意思を奪われる。それを分
かっていて探りながら戦闘しているんだ。つまり絶賛修行中ってわけ」
ベルドは槍を握り、タナトスに向けて構える。
その形相は酷いものだった。
「君は一体彼に何をさせようとしているんだ。返答いかんによっては君を許さない」
「怖いな。私はただ、約束を果たそうとしているだけだ。だが、そうだね。いいやついで
だ。そのままかかっておいでよ。えーと……バルドスだったっけ。君の父親は情けなくも
体を奪われて死んだんだったよね。君も後を追うかい?」
「……取り消せ!」
「取り消すってのは少し可笑しい話だろう。事実なんだから」
「許さん! 例えルインの知合いでも、僕はお前を許さない!」
「ふうん。口だけで勝負するつもりかな。まぁ君では私に指一本触れられないだろう」
「ギガ・ネウス!」
ベルドは両腕を肥大化させ、タナトスに襲い掛かる。
挑発だったとしても、父親のことを言われると自分を抑えられなかった。
「爆輪! 双破連輪」
「ギガ・燃刃斗!」
爆発する輪を両腕から三つずつ投擲するタナトス。
それはそれぞれが回転するフラフープのようにバラバラにベルドへ向け飛んでいく。
それをみたベルドはすぐさま肥大化した両腕で、幻術を打つと、横薙ぎに巨大な燃える剣が輪を薙ぎ払った。
しかし薙ぎ払われた輪は、爆発することなく再度ベルドへ向けて突撃していく。
「……風臥斗!」
「無駄だね。風で動きを制御出来るようなものじゃない。安い攻撃だね。今後その程度の
術や技で戦っていけるとでも思っているのかい?」
「ぐっ……黙れ! だから此処へ力を求めにきたんだ! 僕だけ置いて行かれるの何て
真っ平ご免だ!」
「君に一体何が出来る。実は仲間の足を引っ張ってるだけだって、気付かないのかな?」
「黙れーーーーーー! 重空槍!」
ベルドは我を忘れ、上空に飛翔し、爆輪を身に受けながらタナトスへ突撃した。
その槍を簡単に回避されて、槍は地面へとめり込んでいく。
「捕捉、終末の牢獄!」
「なっ……何だこの檻は」
「見込み違いだったかな。あの程度しか怒れないなんてね。その程度の憤怒じゃ到底君
は戦っていけない」
「ふざけるな! 僕は怒っている!」
「ただの怒りじゃないんだよ。君は父親に対し尊敬の意をもっていた。だから父のことで
けなされると怒る。でもね、それじゃ弱いんだ。本当の怒りは我が身にありて喪失と絶望
を覚える。君はまだ一度も、絶望していない。喪失していない」
「何を……言っているんだ。じゃあ何か? ルインはその両方を味わっているっていうのか」
「ああ、その通りだ。彼が絶望しているのは他者に向けてじゃない。自分にだよ」
「自分に……絶望……そんなの、乗り越えられる訳が、ない」
「君、結婚したんだよね。子供が出来たんだっけ? じゃあさ、君の子供を私が殺したらど
うする? 君はどうなるかな」
「ふざ……けるなよ」
「だって君、そこから出れないでしょ。私は死の管理者だ。この手で……」
「ウワアアアアアアアアアアアアアア!」
我慢の限界だった。
ルインはこいつが冷たいと言っていた意味が分かった。
こいつは性格が悪い。そして、発言していること自体、嘘にならない可能性だって十分あ
る。
「ウ、オオオオオ……アッガ……」
「これは驚いた。終末の牢獄を突き破る角か。オーガ族独特の大きな角に牙。それが君の
形態変化か。魔神に近いね」
「殺ズ……お前ヲ殺ズ……許せ……ない! 許せん! 断じて!」
「あ……嘘だって。君の家族に手出しなんてしたり……ぐはっ」
檻をぶち破ったベルドは、既に人としての形を失っていた。
蒼黒い角が二本頭から生え、肌は浅黒く牙が生えている。
目からは瘴気が失われ、あらゆる筋肉が膨張している。
その巨体から繰り出した拳はタナトスが回避する間もなく、その腹を砕いた。
「降参……私の、負け……落ち着いて……」
「だえー。ターにぃをいじめちゃだえー!」
「う……彼には……助けてもらった……恩が……」
ヒュプノスが間に割って入り、少し落ち着きを取り戻したベルド。
ヒュプノスは急いで自分の頭角をベルドに触れさせ、ベルドも眠りに落ちていった。
「だえー。ターにぃ、怒らせすぎだえー」
「ああでも言わないと彼はいつまでもうじうじしてるだけだろうからね。それにしても
本当、魔族ってのは正気を失うと怖いね。いや……それは人間や神兵でも一緒かな」
「だえー。ルインが心配だえー。みてくるんだえー」
「ヒュー。しばらく暖かく寝かせてあげてくれ。彼も一緒にね。どうやら彼もルインに
とって大事な者らしいから。気付いたかい? ヒュー」
「だえー?」
「彼を救ったとき、本当に心から喜んでいた。彼に欠けていた大切なもの。それはきっと
まだいるのかもしれないね……」
そして……我を完全に失った。
「くたばれ。|ギルアデ・イワート】
青白い爆炎が天井に放出されると共に、巨大な歪みが発生して塔を突き抜けていく。
最上階まで到達する大爆炎は、まるで活火山が爆発するかのような狼煙を巻き起こした。
「ふん。これでもまだこの程度の威力しか出せんか」
二階より先全てを破壊し尽くすと、直ぐに雨が降り始める。
しばらくその雨を受けて、ルインはバタリとその場に倒れた。
「思ってたよりやり過ぎたね。どうしよう。七階層も吹き飛んじゃったよ」
「だえー。いいんだえー?」
「まぁ、いいんじゃない。しばらくしたら勝手に直るだろうし。それにまとめて五か所も
攻略しちゃったんだから、手間が省けたよね。一階層は戦闘しなくてもいいし。残るは七
階層だね」
「だえー」
「……何だ今の力は。彼は一体どうなってしまったんだ? 先ほどの戦闘形態は一体……」
「ベルドだったね。君も上位種の魔族だろうから、変身出来るんじゃないの?」
「変身? 僕がかい? そんなこと出来るなんて考えたこともなかったけど」
「オーガの種類は、バリアントオーガだったね。うん……私が後で解放を試みるか……そ
うでなければ七階層は厳しいし」
「一体さっきから何を……二階より上は全て跡形も無くバラバラで燃え尽きて……あ
れ、炎は何処へ消えたんだ」
ベルドたちは現在雪崩で押し流されたヒュプノス、タナトスと共に外にいる。
上空での大爆炎を目にし、恐怖を覚えていたところだったが、タナトスたちと話してい
る間にその炎は消えていた。
そればかりか、塔の部分にだけ雨が降り注いでいる。
周囲は静まり返り、日もまもなく暮れようとしていた。
直ぐにルインの許へと駆けつけようとするベルドを、タナトスが静止する。
「寝るまで待ってくれ。あの形態は危険なんだ。ところ構わず攻撃する。今はまだ、まと
もに制御出来ていない。強い力を使えば使う程、それだけ早く意思を奪われる。それを分
かっていて探りながら戦闘しているんだ。つまり絶賛修行中ってわけ」
ベルドは槍を握り、タナトスに向けて構える。
その形相は酷いものだった。
「君は一体彼に何をさせようとしているんだ。返答いかんによっては君を許さない」
「怖いな。私はただ、約束を果たそうとしているだけだ。だが、そうだね。いいやついで
だ。そのままかかっておいでよ。えーと……バルドスだったっけ。君の父親は情けなくも
体を奪われて死んだんだったよね。君も後を追うかい?」
「……取り消せ!」
「取り消すってのは少し可笑しい話だろう。事実なんだから」
「許さん! 例えルインの知合いでも、僕はお前を許さない!」
「ふうん。口だけで勝負するつもりかな。まぁ君では私に指一本触れられないだろう」
「ギガ・ネウス!」
ベルドは両腕を肥大化させ、タナトスに襲い掛かる。
挑発だったとしても、父親のことを言われると自分を抑えられなかった。
「爆輪! 双破連輪」
「ギガ・燃刃斗!」
爆発する輪を両腕から三つずつ投擲するタナトス。
それはそれぞれが回転するフラフープのようにバラバラにベルドへ向け飛んでいく。
それをみたベルドはすぐさま肥大化した両腕で、幻術を打つと、横薙ぎに巨大な燃える剣が輪を薙ぎ払った。
しかし薙ぎ払われた輪は、爆発することなく再度ベルドへ向けて突撃していく。
「……風臥斗!」
「無駄だね。風で動きを制御出来るようなものじゃない。安い攻撃だね。今後その程度の
術や技で戦っていけるとでも思っているのかい?」
「ぐっ……黙れ! だから此処へ力を求めにきたんだ! 僕だけ置いて行かれるの何て
真っ平ご免だ!」
「君に一体何が出来る。実は仲間の足を引っ張ってるだけだって、気付かないのかな?」
「黙れーーーーーー! 重空槍!」
ベルドは我を忘れ、上空に飛翔し、爆輪を身に受けながらタナトスへ突撃した。
その槍を簡単に回避されて、槍は地面へとめり込んでいく。
「捕捉、終末の牢獄!」
「なっ……何だこの檻は」
「見込み違いだったかな。あの程度しか怒れないなんてね。その程度の憤怒じゃ到底君
は戦っていけない」
「ふざけるな! 僕は怒っている!」
「ただの怒りじゃないんだよ。君は父親に対し尊敬の意をもっていた。だから父のことで
けなされると怒る。でもね、それじゃ弱いんだ。本当の怒りは我が身にありて喪失と絶望
を覚える。君はまだ一度も、絶望していない。喪失していない」
「何を……言っているんだ。じゃあ何か? ルインはその両方を味わっているっていうのか」
「ああ、その通りだ。彼が絶望しているのは他者に向けてじゃない。自分にだよ」
「自分に……絶望……そんなの、乗り越えられる訳が、ない」
「君、結婚したんだよね。子供が出来たんだっけ? じゃあさ、君の子供を私が殺したらど
うする? 君はどうなるかな」
「ふざ……けるなよ」
「だって君、そこから出れないでしょ。私は死の管理者だ。この手で……」
「ウワアアアアアアアアアアアアアア!」
我慢の限界だった。
ルインはこいつが冷たいと言っていた意味が分かった。
こいつは性格が悪い。そして、発言していること自体、嘘にならない可能性だって十分あ
る。
「ウ、オオオオオ……アッガ……」
「これは驚いた。終末の牢獄を突き破る角か。オーガ族独特の大きな角に牙。それが君の
形態変化か。魔神に近いね」
「殺ズ……お前ヲ殺ズ……許せ……ない! 許せん! 断じて!」
「あ……嘘だって。君の家族に手出しなんてしたり……ぐはっ」
檻をぶち破ったベルドは、既に人としての形を失っていた。
蒼黒い角が二本頭から生え、肌は浅黒く牙が生えている。
目からは瘴気が失われ、あらゆる筋肉が膨張している。
その巨体から繰り出した拳はタナトスが回避する間もなく、その腹を砕いた。
「降参……私の、負け……落ち着いて……」
「だえー。ターにぃをいじめちゃだえー!」
「う……彼には……助けてもらった……恩が……」
ヒュプノスが間に割って入り、少し落ち着きを取り戻したベルド。
ヒュプノスは急いで自分の頭角をベルドに触れさせ、ベルドも眠りに落ちていった。
「だえー。ターにぃ、怒らせすぎだえー」
「ああでも言わないと彼はいつまでもうじうじしてるだけだろうからね。それにしても
本当、魔族ってのは正気を失うと怖いね。いや……それは人間や神兵でも一緒かな」
「だえー。ルインが心配だえー。みてくるんだえー」
「ヒュー。しばらく暖かく寝かせてあげてくれ。彼も一緒にね。どうやら彼もルインに
とって大事な者らしいから。気付いたかい? ヒュー」
「だえー?」
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