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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百五十四話 義兄弟

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 ベルドが目を覚ますまで、俺は能力の確認や、パモに預けていたものの確認をしていた。
 死の淵に落とされていたベルドは深く眠りについていたが、圧倒的な回復をみせ、目を覚
ます。
 これが……オーガと人魚の血を持つ者の能力か。バリアントオーガと呼ばれる極めて人に
近い亜種族。
 ベルドは人魚のような優しさと、オーガのようなたくましさ、力強さを持ち、知識も高く
おまけに高い回復力を持つ。確か人魚は癒しの力もあるはずだが、ベルドやベルディアから
はそういった能力をまだみていない。
 そのベルドがこんなにやられるとは……相手はどれほど強い相手だったのか。

「なぁ義兄弟。兄貴として頑張るのはいいけど、もう少し俺を頼れよ。特にお前は孤独に
行動する癖がある。昔の……俺をみているようだよ……」
「うっ……」
「気付いたか。加減はどうだ?」
「……僕は、何故、生きている」
「ヒューメリーっていうあの横たわって寝てる坊やのお陰だよ」
「だえー。坊やじゃないんだえー」
「……なぁルイン。強さって何なんだ。何故僕はあいつより弱いんだ」
「あいつってのは誰のことだ?」
「……常角、アクソニス。僕を、襲った常闇のカイナの幹部だ」

 常闇のカイナの幹部が何故ベルドを襲うんだ。
 目をつけられているのは俺のはずだと思っていたが……何か理由があるのか。
 しかし、ベルドはかなり自信を失ってるようだ。

「なぁベルド。俺はお前を弱いと思ったことなど一度も無い」
「よく言う。君に勝ったことが一度としてないんだ。そんな僕が、君に助けを乞うなんて
出来ない」
「お前に勝ったと感じたことなんて一度も無い。俺には目の力があるのかもしれない。
けどな……この体はきっと、俺のものじゃないんだ。ベリアル……お前はベリアルに負
けたんだ。そして俺も、あいつにはきっと、勝てない。だから、俺と目標にしないか? 
ベリアルを倒すことをさ」
「ふっ。はっはっはっは。誰だい、それは。君は突然本当に可笑しなことを言う。ごめ
ん……何か、懐かしくて……うぅっ……見苦しいな」
「そんなことはない。悔し涙ってのもいいもんだぜ、男同士だけでいるときはな。女の
前じゃそうもいかないだろ。ところでミリルはどうしたか、聞こうとした途中だったん
だが」

 あれ、泣いたと思ってたら今度は赤面したぞ。
 ベルドも随分と忙しい表情変化が出来るようになったもんだ。

「僕たち、結婚したんだ。その……ミリルに助けられているうちに……元々好みだった
し……それで、子供が産まれそうで。シーブルー大陸からトリノポートに戻るのは大変
だったから、デイスペルにいるよ」
「そうだったのか。俺もデイスペルに少しいたんだけどな。幻魔神殿を調べるために。
ニアミスだったのか」
「君もデイスペルに?」
「おーい。そろそろ私とヒューも混ぜてくれない?」

 俺とベルドの話を羨ましそうに聞いていたタナトス。
 ヒューメリーは相変わらず横になって寝ているだけだが、あの羽毛のようなもふもふは
無限に放出出来るのだろうか。
 ベルドは起き上がり、挨拶と礼をすると、簡単な自己紹介を済ませた。

「君のその顔なら、妹は元気そうだね……と君とは本当に義兄弟となったわけだが、僕
らってどっちが年上なんだ?」
「さぁ……何せ俺は自分の年齢が分からないから。まぁどっちでもいいだろそんなこと。
それよりも常角、アクソニスとやらの情報を」
「ああ。それと、僕がシーブルー大陸で得た、ライデンや常闇のカイナに関する情報も伝
えよう」

 ベルドは常闇のカイナ、元本拠地と思われる場所を発見し、そこにいた奴を捕縛。
 そいつから情報を聞き出したという。
 ライデンと思しき男は、二年後に神殺しを試みると話をしていたという。
 
「まさかそれって」
「ああ。僕らがイネービュに招集され、再度行う予定の闘技大会だろう」
「そこにライデンや、常闇のカイナの中枢が現れると?」
「恐らくね。だが、常角のアクソニス。あれは異常な強さだった。ライデンでも本当に太
刀打ち出来る相手なのか……」
「そいつはまだ、此処にいるのか?」
「いや……恐らく僕に成りすまして潜入するため、僕の存在を写したのだろう。僕は、あ
そこから放り落とされて、随分と経つ。奴はきっと……いない」
「ええっとベルド君だったかな。君は二階層で力を手にしたのかい? オーガとしての純
粋な形態となる力の魔をさ」
「手に入れていない。その前に奴は……」
「それじゃ目的地は決まったようだね。まずは第二階層、力の魔という部屋を訪れた
後、第七階層、異能の魔へと向かおう」
「力の魔に異能の魔? どういうことだ」
「力の魔。即ち魔に属するものが本来持つべき腕力を手に入れる。異能の魔、それは魔に
属する者の異能力を産み出す。七壁神の塔。それ即ち抑制をするための塔。神魔対戦の
折、七柱の神がその身を壁に埋め、魔の能力を大きく下げたのだという伝説」
「おいおい、なら相手をするのはその神ってことか」
「まぁ、行けば分かるよ」

 歯切れの悪い話の終わり方だったが、何時までも此処で悠長にはしていられない。
 町のことなどもベルドに伝えて、いよいよ七壁神の塔の間近まで来た。
 
 ……雰囲気は、まるで魔王の住み着く塔であるかのようだ。
 そもそもタナトスのいう魔族の力を弱めるという点において、疑問があった。
 だが、これはそもそも魔族はほぼ知らないことだという。
 
 大きな螺旋階段をゆっくりと登りながら、七壁神の塔二階へと辿り着くと、青紫色の彫
刻が施された前へ辿り着いた。

「この先が力の魔となる場所だ」
「気を付けろルイン。生半可な力じゃない相手だ」
「お前がそれを言うかベルド。アルキオネウスの腕輪を手にしてから、相当な腕力だろう
に」
「相手の次元が違うとだけ言っておこう。あいつに襲われなくても、きっと一人では勝て
なかったんだ」

 あのベルドが冷や汗をかいているってことは、相当なトラウマを持ったか。
 だがそれは、邪魔をされたからに違いないと俺は思っている。
 そう簡単に諦める性格でもあるまいし。
 それに……頼りたくなかったのかもしれないが、今ここには俺がいる。

「あれから色々あってな。俺も次元、越えたと思うぞ、ベルド」
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