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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百五十三話 何故此処に?

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 七壁神の塔――遠目に見ても分かる異様な雰囲気を放っている。
 巨大に聳え立つその塔には、神と思しき壁画が描かれている。
 全ての神が一体どうなっているのか、気になったのでぐるりと周囲を一周してみようと
したそのときだった! 

「おい! ベルドじゃないか! しっかりしろ。何でお前こんなところに! ……脈はあ
る。生きてるけど酷い傷だ。おいしっかりしろ」
「う……誰、だ……」
「俺だ。ルインだよ! お前、何でこんなボロボロで……誰にやられたんだ」
「ぐっ……常闇の、カイナの……だ」
「常闇のカイナ? それがここに? どうしてこんな場所へ……ミリルはどうしたんだ」
「妻は……子供の出産で……ドラディニアに、戻った……」
「妻? お前たち、結婚したんだな……なぜ……なぜルーンの町に戻らなかった。どうし
て教えてくれなかったんだ。なぜ……俺を頼って、くれなかったんだ……」
「ぐっ、ゴホッ、ゴホッ」

 おびただしい量の血を吐くベルド。まずい、このままじゃ……。

「しっかりしろ。大丈夫だ。俺がここにいるんだ。お前を死なせたりなんてするものか。
タナトス。薬か何か、持ってないか!? こんなことなら幻薬を拾いにいくべきだった
か……」
「……大丈夫、彼はまだ死なないよ。凄い生命力だね。彼の名前を」
「ベルドだ。おい、正式名を言えるか、ベルド」
「ライニ……マード」
「……そうか。オーガの血を引くものなんだね。随分と生命力が高いわけだ。その傷、相
当な深手だがそれを行った本人は殺すつもりじゃ無く遊びでだったろう」
「なぜ、そ……ゲホッ」
「おいタナトス。それ以上無茶させるな。俺は薬が無いか聞いたんだ」
「だえー。これ、触るだえー」

 そう言うと、ヒューメリーは角をベルドに握らせる。
 すると呼吸は落ち着き、ベルドは眠りに着いた。

「弟の角は回復効果の高い安らぎの眠りを与える。君も経験したろ?」
「そうか、だからあのとき……いや、助かったよヒューメリー。お前は頼りになるな」
「だえー」
「私も頼りになっただろう?」
「お前はベルドの名前を聞いて、オーガの血を引くっていう知ってる情報を伝えただけだ
ぞ」
「えっ?」
「つまり、全く役に立ってないってことだ……それより直ぐに塔へ突入しようと思ったん
だが、ベルドがこの状況だ。もう少し待った方がいいな」
「そうだね。彼も相当戦えるんだろう?」
「ああ。しかしベルドはシーブルー大陸に向かったんじゃなかったのか。一体何がどうし
てここへ……父親の仇討ちを追っていたらここへ辿り着いたということなのか」
「此処へは確かに悪しき者が向かう理由があるからね。私たちが向かう場所とは少々異な
る目的地となるけれど」
「……どういうことだ? 此処は単なる地底への道以外に何かあるとでも?」
「七壁神の塔。文字通り七つの神を祀る塔だ。君が向かうのは最上階だが、七つの階それ
ぞれに特徴がある」
「それぞれが独立した七階構造ってことか。一つ一つが随分高い階層なんだな」
「そうだね。そして彼が向かったのは恐らく二階層だろう」
「そこには何があると?」
「オーガに纏わる伝説だ」
「そこに何故常闇のカイナが……」
「それは知らないけどね。彼が望んていたのは力なんじゃないかな」
「力……ライデンを倒す力か。実は今回の闘技大会。目的が幾つかあったんだ。そのうち
の一つに敵をおびき寄せるという目的があった」
「随分と無謀なおびき寄せに思えるけど、戦争でもするつもりだったのかな」
「いいや。敵対者とそうでないものをはっきりさせたかったんだ。ロキは本当に敵なの
か。常闇のカイナが今何を目的にして動いているのか。ライデンはどんな目的をもって行
動しているのか。俺のまだ見ぬ大陸のものたちは、一体トリノポート大陸をどう思ってい
るのか。こういった情報は単純に調べるだけでは見えてこないんだ」

 タナトスは首を傾げると、理解出来ないといった仕草をとっていた。

「君は本当に魔族らしからぬことを言うね。力で粉砕し、従わせ、領土を広げる。弱いも
のは強いものに従い、統治される。それは人間の社会でも同じじゃないのかい?」
「確かにその通りだ。どれだけ言葉を並べ替えても、力というものを単純な暴力でなく金
や権力というものに変えて支配されるのが人間だ。だが……支配は協力という形にだって
変えられる。どうしても戦わねばならないケースはあるだろう。だがその後には必ず協力
出来ると俺は信じている」
「カイロスにしろ、ディーンにしろ、君の許を離れないわけだよ、まったく。聞いたこと
があるかもしれないが、ディーンもカイロスも、既に一つの生命体ではなく、何度も生ま
れ変わった存在だ。でも私は違う。タナトスは生まれながらにしてタナトスのままだ。何
故か分かるかい?」
「……いいや」
「怖いんだ。私が私でなくなるかもしれないのが。でも、今の君の話を聴いて……いいや
よそうか。そろそろベルド君を加えた形での作戦を練ろう」
「タナトス。言っておくがお前を見捨てて死なせたりはしないぞ。お前にも死という形は
あるのだろう?」
「どういう意味だい?」
「お前も、俺が守ってやる。俺に関わったもののよしみって奴さ」
「くっ……はっはっはっは。君はまた可笑しなことを言う。死の管理者を助けるなん
て、そんなこと言われたの初めてだよ」
「可笑しいか? まぁ今はそれでいい。ベルド……起きたら色々教えてくれよ。だか
ら今はゆっくりと休め……」

 第二階層にある力か……この塔自体はぐるりと螺旋階段で登る形となっている。
 つまり二階層には立ち寄らずとも最上階へは向かえるが……もしベルドが望むな
ら、そちらへも立ち寄る必要があるだろう。
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