上 下
946 / 1,085
第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百五十二話 七壁神の塔付近

しおりを挟む
 ……また眠っていたか。
 あの形態になるたびに眠らされているようじゃ、始末が悪すぎるな。
 目の力は使っていないから、目は開くか……しかし海の上だったはずなのに助かったよ
うだ。
 ヒューメリーが助けてくれたのかな。
 それにしても……「何という寝心地の良さなんだ。しばらくこうしていたくなる」
「だえー」
「いやすまない。ヒューメリーが助けてくれたのか? ここは……何処だ」

 周囲を見回すと、少々切り立った崖付近。草木が生えている場所だ。
 外は一面の海。ということはやはり七壁神の塔付近か。
 
「タナトスはどうした?」
「だえー。偵察しにいってるんだえー」
「あの檻に入れた女はどうした」
「これだえー。眠らせてあるだえー」
「しかし、こんな形で此処へ来ることになるとは予想してなかった。どうやら無事にクジ
ラモドキから逃げられたんだな」
「だえー。覚えてないだえー?」
「ああ。途中で意識に飲み込まれた。ヒューメリーが眠らせてくれたんだろう?」
「だえー。違うよー。ターにぃだよー」
「そうだったのか……どうやって町に戻るか、その術を考えないといけない。何かヒュー
メリー、何かいい案はないか?」
「だえー。何かいい道具持ってないのー?」
「道具か……アップグレードさせるために殆どアルカーンさんに渡しちゃったんだよ。
ルーニーがいればこうはならなかったんだけど」

 ヒューメリーと話していると、偵察にいっていたタナトスが戻って来る。
 こちらに気付き、手をふって応じている。
 近づくと、元気そうな顔をしていた。

「やぁ。目が覚めたのかい」
「あれ? お前もう喋れるのか? 数日は喋れないと言っていたような」
「何言ってるんだい。もう数日経過しているよ」
「何だって? 一体何日……」
「ほらそれよりも。確認しなくていいの? 君の大切な人たちのこと」
「それはそうだが……」
「そうそう。ちなみに遠覗裏エンショウリの鏡で一度でも覗いた相手が死ねば、私には
直ぐ分かる。だから安心していいよ。君の大切な人たちは死んではいない」
「死んでは……か。嫌な言い方だな」
「どうする? もう一度誰かに声を繋げる?」

 そうタナトスに言われ、少し思案する。
 あのときとは……俺が地底へ初めて訪れたときとは状況が異なる。
 ヒューメリーは優しいが、知識的な行動はあまりとっていない。
 タナトスは信用出来ないが、その行動や言動は今必要だと思う。
 こいつが喋れなくなると静かでいいんだが……静寂を求めている場合じゃない。

「止めておこう。状況確認だけさせてもらってもいいか? 二人が、心配なんだ」
「構わないよ」

 ミレーユを映してもらうと……どこかで眠っているようだ。
 しかしアメーダは映っていない。
 代わりにアメーダを映してもらおうと思ったが……。

「彼女は正式名称じゃないね。プリマ君と同じく別名がある」
「それ、今分からないのか?」
「本人がいないんだから分からないよ。ここにいる間に調べておくべきだったね」
「そうか……俺はよくよく考えてみたら、プリマのこともアメーダのことも、詳しく尋ね
なかった。主として、失格だな……」
「君のことだから、単純に過去の話をえぐるのは良くないって考えたんでしょう。私なら
尋ねるけどね」
「それ、嫌われないか?」
「本人が聴いて欲しいと思っているかどうかなんじゃないのかな。少なくとも私には、彼
女らが聴いて欲しそうにしていると感じたけどね」
「……言い返す言葉も無い。確かにその通りだ。もう少し真剣に話し合う時間を設けるべ
きだったよ……なぁタナトス。これからどうすべきだと思う?」
「そうだね。七壁神の塔を攻略しようか」
「俺も馬鹿じゃない。ここへ誘導したのはお前だろう。そろそろ目的を話してくれない
か」
「うーん。ちょっと分かり易すぎたかな。でもね、これだけは言っておくよ? 君の町に
ついては本当に知らない。もう少し万全な状態でここへ来るつもりだった。だから例えこ
こを攻略しても、君らの領域へ戻れる方法を模索した方がいいのは間違いないんだ」
「どういうことだ。それだけじゃ話が分からない。領域が誰のせいでどうなっているかは
この際後回しでもいい。どうしたら領域へ戻る方法があるか。そしてこの塔は何なのか。
教えてくれ。頼むよ」
「この塔は地底へ通じる道がある。君には言って無かったけど、私の領域が置いてある場
所……と言えばいいのかな。それは地底の奥底にある場所なんだけど、あの七壁神の塔最
上階も、そんな地底の奥底にある場所へと繋がっているのさ」
「まさかそんな方法で地底に行けるとは、思わなかった」
「ただの地底じゃない。想像を絶するような場所だと思う方がいいよ。だから君の知合い
が持つ多くの能力があるにこしたことは無いんだけどね」
「その地底の奥底ってやつから地底のフェルス皇国へはどのくらい日数を要して辿り着け
る?」
「さぁ。そもそも無事に辿り着けるのかな、今の君で。いや、それ以前に……」

 そう言いながら遥か後方にある塔を見るタナトス。
 不気味な塔だ。モンスターの鳥類がうようよ飛んでいるのがみえる。

「あれを攻略出来るかなと思って。ここに魂吸竜ギオマがいないのは想定外だ」
「無い者を嘆いてもしょうがないだろ。人ってのは、持てる力を工夫して困難を乗り越え
るんだよ。それが何故かお前に分かるか?」
「いや。全然その辺が分からないんだ。工夫なんかしてどうなるの?」
「人は弱い。直ぐ死ぬし直ぐ諦めもする。でも、どうにもならない状況を、どうにかして
きたのも人だ。それに俺には……目の前に協力してくれそうな管理者もいるだろ。頼むぞ
タナトス」
「呆れた。君は此処へ連れて来た私を信用するのかい?」
「信用してるのはお前の知識と能力、そして目的だ。はなっから俺を殺す目的だったらこ
んなことしてないだろ。時間が惜しいんだ。さっさと行くぞ」
「ふふっ。こういう人間もいるのか。大抵は欲塗れでそれを隠す生物だけど……いいね。
管理者としての能力を少し、貸してあげようかな」

 こうして俺とタナトス、ヒューメリーは七壁神の塔に向けて出発するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...