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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百四十九話 異変の実態を調べる

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「遠覗裏の鏡、ルイ・クシャナ・ミレーユ」
「映った……? いや、ミレーユじゃないぞこれ。誰だ?」
「ううん。映ったのなら間違いなく本人だろう」
「何だって? しかしこの姿はどうみても……」

 遠覗裏の鏡とやらに映し出されたのは、どう見てもハルピュイアのような姿をしていた。
 
「こちらの声を聞かせたりとか、出来ないのか!?」
「出来るけど、それを行えばしばらく一切私は喋ることが出来なくなる。それでもやるか
い?」
「……それは案外いいかもしれない。タナトスが口を開くとかなりの確率で禍いが起きて
る気がするし」
「酷いな。それは私のせいじゃ……いや、死の管理者ならそういった風に思われる方が都
合が良いか」
「だえー」
「それじゃ繋げる。私の口から発する言葉はその者の言葉となるし、私の耳はその者の耳
となる。死の伝達」


 物騒な言葉を発すると、映っているハルピュイアの様子が突如としてキョロキョロする
ような動きとなった。
 プリマもアメーダも封印から出て来て心配をした様子をみせている。

「おいミレーユ、聴こえるか。俺だ。ルインだ」
「ルイン? 嘘、何処にもいない。それに、こんな私がミレーユだなんて分かるはずな
い。今度は何なのよ! 私に何をしたの! 元に戻して! 早く!」
「落ち着けミレーユ。一体何があった? 俺はある奴の能力でお前に話しかけてる。あ
れだ、アルカーンさんに準ずる力の持ち主と言えば伝わるな?」
「アルカーン? 本当にルインなの? ……ねえ、お願い助けて。私、私……うわあー
ーーーー!」
「おい落ち着け……こっちの姿は見えないのか。あれだ、お前がどんな姿であろうと俺
の弟子に変わりは無い。どうにか戻す方法は考えるから、まずは冷静になれ」
「うう……私、私変な鳥の女に奇襲されて……必死に逃げたの。それでどうにか逃げ延
びて。気付いたらこんな姿で……一人で行くんじゃ、なかった……エンシュと一緒に行
けばよかったのに」

 変な鳥の女性? あのときのハルピュイアか!? 
 何故ミレーユを襲った? いやそもそも同一者かも分からない。一体何が目的だ。
 何かしらの攻撃を受けて姿を変えられたなら、呪術の類か何かか。
 こういうときはマァヤなら薬の知識がある。
 きっとどうにか出来るだろう。
 それよりも……「お前今何処にいる? 俺たちちょっと困った事態になっててそっちへ
直ぐに戻れない場所なんだ。それに、ルーン国もジャンカの町も、誰とも連絡が取れない
状況なんだ」
「私、カッツェルの町で休んだ後に大陸南東の散策に出掛けたの。そこに大きな洞窟が
あって、それで……調べようとしていたのよ。そしたら背後から襲われて……必死に南へ
逃げたの。途中でキメラが出せなくなって下に落ちて……木の上にいる。私、ここで死ぬ
のかな」
「馬鹿言うな。いつも言ってたことを思い出せ。何のために修行を付けたと思ってるんだ?」
「うう、だってぇ……先生、助けてよ……」
「あなた様。アメーダに一つ、任せて欲しいのでございます。少々、いえ大変ではございま
すが、アメーダだけその場所まで飛べるかもしれないのでございます」
「本当か? ミレーユの場所に?」
「はい。アメーダだけでございます。それにその距離を飛べば戻って来る力はもうないので
ございます。数日は役立たずとなるのでございますが、ミレーユ様を励ますことは出来ると
思うのでございます」
「そんなことしたら……いや、プリマでも同じことをしたかも。何も言えない。もし歪術で
変な移動すると、世界が割れるって前に言った通り、プリマには無理だ……」
「いいんだよプリマ。アメーダ、あいつを頼んでいいか。お前だけが頼りだ」
「あなた様の許を離れるのは少々辛いのでございますが……承知したのでございます」
「ミレーユ。今からそっちへアメーダが向かう。しばらくは動けないだろうが、一人よりは
いいだろう。落ち着いたら二人でジャンカの町へ向かってくれ。俺は……合流出来るかは分
からないが、どうにかして帰るから」
「本当に? 助けに来てくれるの? どうやって?」
「では、行って参ります、あなた様」

 最後にきつく抱擁をしたアメーダ。
 すると目の前からフッと消えたアメーダは、遠覗裏の鏡に、血だらけで映し出された。

「おい! ズタボロじゃないか。何でそうなると言わなかったんだ!」
「言うとお前が止めるからだろ。プリマも同じ立場なら言わないぞ」
「アメーダ! しっかりして! アメーダ! 何でこんな無茶を、私のために……」

 遠覗裏の鏡はその映像で途切れてしまった。
 時間切れ……か。タナトスの顔色が随分悪くなった。
 使い続けるのがしんどいのかもしれない。
 
「だえー。ターにぃ大丈夫だえー?」
「……」
「困った状況には変わりない。俺たちはクジラモドキの中。ミレーユはハルピュイアとなり
優秀な能力を持つアメーダもいない。ルーンの国もジャンカの町も状況がつかめず……外は
一面の海か……参ったな。ヒューメリー、何かいい方法あったりしないか?」
「だえー。眠るー?」
「それは諦めなんじゃ……」
「だえー。違うよ―。眠るといい考えが浮かぶようになるんだえー」
「ほう……ヒューメリーの能力か? 少々体力も回復したいし、しばらくクジラモドキも呼
吸はしないだろう。試してみるついでに休憩した方がいいか……俺はこういうときいつも考
えなしに焦り失敗してきた気がするから」
「だえー。ターにぃも寝るー」
「……」

 黙って頷くタナトス。
 どうやら俺は、このしおらしい状態のタナトスを気に入ったらしい。
 
 ヒューメリーが角を前に出し、「触るだえー」と言って頭をこちらへ向けた。
 恐る恐るそれに触れると、俺たちはその場で深い眠りへと誘われた。
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