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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百三十九話 念願の燃斗は

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 アメーダの試合が終わると、ジェネスト、プリマの試合のはずだったのだが……。

「先ほどジェネスト選手の代理がお越しになり、辞退するとのことです! プリマ選手の
不戦勝です! 理由は……女王へ王女のお世話をしつける……とのことです! 僕、なん
か想像ついちゃったなぁ」

 場内に少しざわめきが走ると同時に、俺の額から汗が噴き出る。
 領域へと戻れば、きっとジェネストはシャル、イー、テトラで出迎えてくれるだろう。

 やや適当なところがあるメルザとは異なり、ジェネストはとにかくきっちりしている。
 いつ落とすともしれぬカルネをみて、毎回肩を落としているジェネストも、我慢の限
界なのだろう。
 当然俺が代わろうとしたのだが、メルザは「死んでもカルネは渡さねーぜ」と、団子拒
否された。カルネが駄々をこねたときだけは渋々渡してくるのだが。
 メルザにとって掛け替えのない存在となってくれたのは嬉しいが、カルネの方がメルザ
をしつけているようにもみえる。
 そんなことを考えていたら、タナトスが立ち上がって肩をつかまれた。

「君に伝えておかないとならないことがある。もう一度私の領域へ連れて行くよ」
「また勝手なことを……どうするつもりだ」
「あっちにメイショウがみえるだろう? 次に戦うなら君はもっと本気だろうから」
「本当だ。あれ? あいつ酷い怪我してないか」
「彼は肉体的な損傷より心の損傷が酷かったようだね。君のせいで」
「俺のせい? 何のことだ。さっぱ……」
「あなた様。今度はアメーダもついていくのでございます」
「だそうだけど、いいのか?」
「死霊族を連れて行く方が都合がいいかな」
「どうやら二人みたいだ」
「プリマ、暇になった。でもカルネのためならしょうがない」
「……ま、いいか」

 タナトスが突如として額に指先を合わせると、途端に意識がもうろうとする。

 ――気付くと、俺たち四人はあのときと同じ夕闇の場所にいた。
 そこには相変わらず檻があり、女性がその中で横たわっている。

「お、死んでる奴がいるぞ」
「死んでないよ。昏睡中だけどね。ちょっと問題がある存在だから、こうして檻に入れて
るんだよ。彼女のことは後回し」
「ふーん」
「こちらでお茶を楽しめそうでございますね」
「ああ。茶葉を全て食い尽くされたから茶葉が無いんだった。誰かのせいで」
「それも俺か?」
「茶葉は常に持ち歩いているのでございます」

 ベルローズ製タキシードから茶葉の包装を取り出すアメーダ。
 試合中でもそんなもの持ってたの!? 
 アメーダはどれほど奉仕好きなのだろうか。

「これは準備がいい。茶器は用意出来るから」

 タナトスが指を弾くと、上空の黒い鳥が黒い容器へと姿を変える。
 ……おいおい。最初に茶を飲んだときの入れ物もこれかよ。

「さて。茶は彼女に任せて……君の新たな能力について説明しよう」
「新たな……能力? 俺は、確かここでメルザとカルネを殺されたのをみて……」
「何だと! こいつがそんなことを!? 許せないぞ。お前ェーーー!」

 突撃していくプリマ。止める暇など微塵もなかった。
 プリマは歪術を使用……出来なかった。

「あれ? ダメだ。ここだと発動出来ない」
「それはそうでしょ。ここは私の領域なんだから」
「どーいうことだ。プリマには分からないぞ」
「君はラング族との混血死霊族……そしてプグリの子。本名はプリメーラ。ラング族の
名はランマか。二つに合わさりプリマ。死因は餓死」
「ルイン。こいつ嫌いだ。こいつ変だ。変なこと言ってる」
「落ち着けプリマ。カルネもメルザも死んでないよ。先に茶を飲んで来い。きっとア
メーダなら茶菓子まで持っていそうだ」
「わかった! でもプリマはこいつ嫌いだぞ」
「随分君に懐いているな……彼女はラングとの混血。そこまでカイオスの影響は無い
と思うんだけど」
「プリマはゲームで戦ったんだ。初めて会ったときは殺されかけたが……あいつは
きっとまだ子供なんだよ。純粋で何かに激しい怒りを抱えている。本人から話すと
きがくるまで、聞くつもりはない」
「そう。それなら私が知ることを言うのは止めておこう。彼女……アメーダについ
ても。死霊族なんて希少な種族だし……そうだ。話は戻るけど君の力についてだっ
たね」

 プリマが突っかかっていったからうやむやになるところだった。
 
「あなた様。お茶のご用意が出来ました。こちらでお話下さい」
「わかった。直ぐ行くよ」

 タナトスと共にテーブルへ向かい、そっぽを向くプリマ。
 ランマ・プリメーラか。随分可愛い名前だったんだな。
 
「君がもし次回、真化をするとその力は必ず暴走する。その暴走過程は絶魔王と匹敵する
形態となるだろう。絶魔。数ある魔族の中でも君は異常。妖魔の真化は本来、内に取り込
んでいった者の能力を発現する。つまり消滅させたモンスターの力だが、君の場合は取り
込んだ者を内蔵してしまう。妖術の向上と、妖魔を産み出したイネービュの力を用いるの
が君の真化だろう」
「確かに赤星へ頼り切った力の使い方だ。俺には黒星を上手く使うだけの技量が無い
し、技もティソーナ、コラーダ頼りだ。妖術はアネさんに教わった造形術メインだし、戦
う手数は多いが、制約や時間制限が多い」
「君が手にした新たな力、絶魔は星の力を最大限に使えるし、剣術も妖術も幻術も妖魔と
しての力も遥かに向上する。特に剣術は神にさえ匹敵するかもしれない。しかし制約をつ
けないと肉体が崩壊する。それと、魔の力が強くなりすぎて、かなり野蛮となるだろう。
制御するにしても容易くはない」
「星の力を最大限に? 幻術も使えるってのは本当か? よし……」

 俺は指先に集中する。以前は出来なかったことが出来るなら嬉しい。

「いくぜ! 燃斗!」
「……今は無理じゃないかな」
「……」
「なんだ。プリマも使えるのに。燃斗」
「ではアメーダも。燃斗でございます」
「じゃあ私も、燃斗」
「お前らそんなに俺をいじめて楽しいか……」

 結局俺と燃斗は相性が悪いと決めつけることにした。
 悲しくなんてない。便利だと思っただけなんだ……。
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