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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百三十五話 絶魔の変貌、月下美人・風車

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 これが、彼の本当の形か。
 蒼黒い髪を靡かせるその瞳は閉じているにも関わらず紅色の光を発し、三本の剣を携え
ている。
 一本はコラーダ。
 一本はティソーナ。
 一本は……クルージーン・カサド・ヒャン、いや、光剣ソフド。
 操るはレピュトの手甲か。
 
 左腕にびっしりと赤い星の刺青。
 右腕にびっしりと黒き星の刺青。
 背後にあらゆる魔獣や竜の幻影が見える。これは幻と妖双方の力。
 そして……吸い込まれるような威圧感。これは妖の力。
 そして、何よりも強い意志を感じる。これこそ人の力。

「魔幻妖人のルイン。そう呼ばせてもらおう。さぁかかって……」
瞬閃シュンセン両星リョウセイ斬秋雨キリサザメ

 一瞬で私の懐へ斬撃が走ると、更に斜めから降り注ぐ豪雨のように斬撃が浴びせられる。
 十分な距離はあった。だが、私の黒き鳥たちは軒並み墜落していく。
 ……見えない。この攻撃は避けられない。

両星の殺戮群クロスデッドスターナル

 次に解き放ったのは……赤と黒の巨大な化け物。そいつらは地面に落下した黒き鳥を
咀嚼していく。
 彼の顔は無表情。全てに絶望し、己の不甲斐無さを嘆いていた顔はもう無い。
 ただ目の前の敵を倒す。無情さを感じさせる、実に私好みの顔だ。

「爆輪、連鎖五百、終章!」

 こちらの光輪を、いつ終わるとも分からぬほど相手にぶつける技の一つ。
 以前の彼なら到底耐えられるものではないが……どうかな。

「両星の吸収、放出、爆輪のターフスキアー」
「何っ! 己が取り込んだモンスターに私の技を植え付けた!?」
「我が無慈悲なる僕よ。我が意を持ち我と同化せん。死竜ドラゴントウマ」
「行動の手打ちが早い! 死の番兵よ、祖を守護する盾と化せ!」

 巨大な死竜が背後に見える。これが、同化だというのか。
 力のみを供給されているようだが……耐えられるか、次の攻撃に。

【壊死の竜息】

「ぐ、オオオオォォオオオオ! 黒鳥よ、あの檻を埋めよ! 急げ!」

 思った以上にまずい攻撃だ。この身でありながら竜の息を防ぎきれん。
 黒鳥もかなり食われた。しかも食っている間彼には一切の攻撃が無傷だ。
 なんという魔の力……いや、人の知恵、そして幻魔、妖魔双方を併せ持つ力だ。
 
「今一度、ありし我が力を受けるがいい」
 
 三本の剣を目の位置で構えた? まるで風車のような……。

「この世界に無き美しい色を咲かせてやろう。月下美人・風車」

 なんだ……黄紅色の光が剣に差し込み……勢いよく三本の剣が回り出した!? 
 死竜の息で身動きが取れない……これは、まずい! 

「死者の双璧……いや、領域の絶壁!」

 三本の剣が鋭い回転と紅光を浴びながら差し迫る。
 領域そのものを防壁とする最大防壁……それをも切り裂いてこちらへ迫るのを
どうにか時間を作れたので回避出来た。

「死ね」
「待て! 私の負けだ!」

 止まらない! 瞬時に近づいた彼に遠方へ蹴り飛ばされ、上空に浮かされた。
 狙いをこちらに一直線へ定め……くっ、ここまでだ。

「終末の雨」
「……死ね」

 瞬時に黒い豪雨が吹き荒れる。
 次の行動はどうにか封じた。
 死の管理者へ奥の手まで使わせるか。
 これは確かに目覚めさせれば危険過ぎる力だ。
 依頼された通り、制約は付けさせてもらった。
 だが……「安心しろ。その雨で死んだりはしない。君が落ち着くのを待つため
凶悪な麻痺作用のある雨を用いた。ただ人であれば浴びるだけでも死ぬ可能性は
あるのだが、君なら動きを封じる程度だろう」
「死、ね……雷刃斗!」
「っ!」

 巨大な電撃刀が上空より振り下ろされる。
 まだ動けるどころか、上位幻術の中でも特に難しい雷撃系とは。
 ひとまず彼を落ち着かせよう。
遠覗裏エンショウリの鏡、メルザ・ラインバウト……すまなかった。君の大切な者は死んでいない。ほら……見えるだろう」
「死……ね……」
「本当に大切なんだな。この子たちを失えば、君は破壊神にでもなるだろう。それは避けね
ばならない。我が友、タルタロスの依頼だ」
「死……もう……殺……せ」
「やれやれ。難儀な依頼だね。黒衣も完全に吸収されたか。これでよかったんだ。
後は少し休むといいよ。明日までに制御出来るようになるかは君次第だ。一度付いた灯火は
消えないだろう。後はどうやって守ってやるか……やっぱイネービュにカイロスと頼むしか
ないか……おっと」

 彼女を埋めたんだった。こっちはこっちで問題有りだ。
 もうじき繋がるだろう。
 私も共に行動しようか。
 本当に面白い戦いだった。
 
「次は私も変身して戦いたいね。本気の君と私たち四柱管理者。どちらが強いのかをさ」
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