上 下
924 / 1,085
第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百三十話 魔の真実は

しおりを挟む
 雷帝、ベルベディシアが医務室を訪れる少し前。

 ――らしくない。ずっと、自分らしくない。
 ベリアルの声が聴こえなくなってから、自分を半分失ったようだった。
 覚者の言葉に苛立ちを覚え、自分を失う。
 先生にしろ師匠にしろ、笑われてしまう。
 安い挑発に乗るな……と。

 戦いで冷静さを失えば敗北を意味する。
 あの戦いは……俺の負けだ。
 もっと自分の力で上手く立ち回れた。
 魔を覗くな……あれはただの警告ではないのだろう。
 それ程、危険な力。扱い方を覚えなければ、周り全てを破壊する力かもしれない。

「ルイン! ルインーー!」
「女王様。病室ではお静かにといつも言っているでしょう?」
「先生、それは無理だ。女王はあいつに何かあると直ぐこれだぞ」
「困りましたね……はい、消毒はこれでいいですから。カルネちゃん。女王を止めて
あげてくださいね」
「うん。メルちゃ、めーする」
「いい子です。ルインさん似かな?」
「酷いぞシュイ先生。俺様だっていい子だぞ!」
「では、ちゃんとお静かに。包帯を巻き替えてもらってもいいですか? まだ意識は無
いと思いますから」
「わかった。やってみる」

 ……そういえば決勝、見られてたんだった。
 女王を一番守らないといけない俺がこの様だ。
 情けなくて涙が出てきそうだ……。

「ルイン、入るぞ……やっぱ寝てるな」
「……いや、意識はある。だが、目が開かないんだ」
「またか。もうその力つかわねーほうがいいんじゃねーか。俺様心配だぞ」
「ツイン。お鼻、お鼻」
「カルネダメだぞ……傷とかは大したことねーな。あの二人静っての、新技だろ?」
「それより、俺の体、可笑しくはないか。黒い翼とか、生えてないのか」
「なんともねーぞ。戦ってるときそんなの見えた気がしたけどよ。かっけーってより
ちょと怖い感じのやつだったな」
「そうか……なぁメルザ。俺は……」
「けどよ。ルインはルインだからな! あんまり怖くなるのはちょっとやだけどよ。それ
でも俺様のルインだ! にははっ」
「カルネ、怖くない。ツイン、お鼻」
「……聞く必要なんて、ないよな。メルザは昔からメルザのままだよ……」
「なぁルイン。俺様が居ない間、寂しかったか?」
「メルザのことは、ずっと考えないようにしてた。半年があまりに長くて……でも、その
間俺は助けられてばかりで。多分俺はアースガルズで死んでいた。それほど、オズワルは
強かったんだ。さっき見せた力はそのときの力だ。そして、死にかけた俺を助けたのは俺
の中のもう一人」
「ベリアルって奴だよな……じゃあ俺様が今度はその、ベリアルってやつを助けねーと」
「メルザが、ベリアルを助ける?」
「ああ。だってそいつがルインを助けてくれたんだろ? だったら親分の俺様が礼をして
やらねーといけねーだろ? どうやったら会えるんだ?」
「俺の、魂の片割れなんだ。だから俺じゃないと……」
「だってルインじゃねーんだろ? だったら俺様にだってそいつを助けられるんじゃねー
か?」
「あ……」

 気付いてしまった。
 また自分が自分だけで解決しようとしていることに。
 全て一人で抱え込もうとしていることに。
 我が主はいつも俺に気付きをくれる。
 俺がメルザに強く惹かれるのは、そういった自分に無いものを持っているからかもしれ
ない。
 他の仲間とはどこか違う、俺の内側に眠る者にまで慈しむ心。
 それが……メルザだ。

「有難う。何か少し、肩の荷が降りたよ」
「へへっ。俺様はルインの親分だからな。さて、包帯を変えるぞー。服脱がせるからな。
よいしょっと」
「わわっ。全部脱がせなくてもいいって。上半身だけ……」
「ななななっ! 破廉恥ですわ! 破廉恥ですのよ! 破廉恥ですわね! 破廉恥に違い
ないのですわぁー!」
「ななっ。電撃ねえちゃん!? なんでいきなり入ってくるんだ!?」

 おや、誰か来たのか。なんて間の悪い……あんまりシュイオン先生の下で騒ぐのは止め
て欲しい。
 病室っていうのは静かにするものだ。

 ……入って来たのは雷帝、ベルベディシア。
 盟約を結んで以来、しょっちゅう領域へ来てリンドヴルムを追いかけ回す、絶魔王。
 魂吸竜ギオマと並び、領域を出入りする中でも三本の指に入る実力者。
 今の俺では太刀打ち出来ない相手の一人だ。
 しかし暴れることはなく、こちらの言うこともちゃんと聞く。
 ある意味ギオマより大人しい。ギオマは突然暴れたりするから少々困っている。

 彼女の話では、俺たちの能力を調べる術があるそうだが……今の俺は目が開かないので
何をしようとしているのかさっぱりわからない。
 幻魔のことや妖魔のことも知っているようだが……こいつもギオマと同じく太古から存
在する魔族なのだろうか? 

「それでは質問ですわ。魔族について、どれほどのことを知っているのかしら? 正直に
答えなさい」
「俺様はよくわからねー。ルインが妖魔で俺様が原初の幻魔ってことくらいか」
「無数の魔族が存在し、神の手により造られた亜人の一種……じゃないのか?」
「多少は理解しているというだけの答えですわね。いいかしら。まず絶対神とアルカイオ
ス……いいえゲン神族によりこの世界は成り立っているのですわ。ゲン神族は元々ゲン
ドールに住まう神族。ゲン神族により創造された太古の種族こそ原初の幻魔。その後幻魔
は模倣され、絶対神スキアラの持つ管理者により創造されたのですわ。これはなぜか分かる
かしら?」
「アルカイオス幻魔の大半を滅ぼしたのが、スキアラの手の者に寄るから……か」
「そうですわね。神兵ギルティによる惨殺。彼の者は封じられて久しいのですわ」
「神兵ギルティ……聞いたことが無いな」
「当然ですわ。原初の頃の話ですもの。管理者は管理出来なかった罪を償うためか、幻魔の
住む世界を構築したのですわ。それが幻魔界。あなたが連れ歩くあの者たちの世界ですわね」
「なぜアルカイオス幻魔をそいつは惨殺したんだ?」
「ゲン神族との対立。これは侵略者である絶対神には避けて通れないものだったのですわ。
ゲン神族側は新たな魔族を構築し、地底に、地上に派兵し対抗たの。けれど絶対神の勢力は遥
か上をいく存在。かたや互いに協力出来ないゲン神族側は破れ、世界は今もなお争いに満ちて
いるのですわ」
「俺様、むつかしくてよくわからねー……」
「これはメルザに聞かせる内容じゃないかもしれない。少し……いや、傍にいてくれ……
雷帝ベルベディシア。こんな話をするってことはまさか、あんたや俺の中に眠るベリアル
は、ゲン神族側の魔族ってことか?」
「あら、察しがいいですわね。その通りですわ。でも一つ言いますわ。妖魔は絶対神の手
により造られた魔族ですわ。つまりあなたの本質は絶対神側の魔族。けれどあなたからは
どう考えてもゲン神族側の魔族が持つ特有のものがあるのですわ。それが先ほどメイショ
ウとの戦いでわたくしが感じた違和感ですわ。あなたは一体何なんですの?」
「俺にもよくわからない。親も、兄弟も、何もかも。その答えは地底にあると思っている。
イネービュに聞いても確信は得られなかった。タルタロス……全ては奴が握っていると
思っているのだが……」
「わたくしがある程度は調べられます。無論兄弟や親族のことなどわからないですわ。
ただ、あなたがどのような魔族であるか……それはわたくしが調べられる。少しだけ血を
もらいますわよ」
「なっ!? ダメだぞルインから血を吸うなんて!」
「何を言ってるのかしら。わたくしは血を数摘もらうだけですわよ」
「メルザ。大丈夫だ。こいつは絶対変なことはしない。指先を」

 人差し指を前方に突き出すと、わずかな痛みと共に血が垂れる。
 それをどうしているのかは見えない。

「これは……鉄分が少ないですわね!」
「……何の話だ? まさか飲んだのか?」

 一体ベルベディシアは何の魔族なんだ? くそ、見えないから余計気になる……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...