上 下
921 / 1,085
第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百二十七話 メイショウ対ルイン・ラインバウト。お前が全てを守るのか?

しおりを挟む
 試合開始と同時にラモトを展開する。
 まずは様子見といきたいところだが、あちらが先手を打たないのはわかっていた。
 光に包まれたあの状態。完全に受け身の姿勢。
 そして、何らかの効果を待っている。

「ラモト・シャルシャレット」

 シュルシュルと青白い文字がメイショウへ近づき、鎖が巻き付くように蠢いていく。
 それを意に介さないかのように、こちらを真剣な目で見据えるメイショウ。

「伝書の力で戦うのに慣れていないようですね。見ていなさい。こう使うんですよ。
あなたはその力に頼った方がいい……」

 何をするつもりだ? ラーンの捕縛網程じゃないにしろ、束縛力はあるはずだ。
 くそ、まだ解放させるには早い。

「ラキシュ・パラドメラヒム雹王!」
「何ッ! こいつも伝書の力を!」

 奴は縛られた体で俺の正面に五人の……文字で象った何者かを呼び出す。
 そいつらは天高く手を翳して俺へ向け……ヒョウの塊を降らした! 

「ぐっ……あ、つっ……真化!」
「それはよくない手だ。光調の吸引」
「なっ……真化出来ない!? 粒の一つ一つが何て破壊力だ……」
 
 このままだとまずい! モアユニークの装備じゃ耐えられない!

 装備ががりがりと破壊されていくのが分かる。
 頭部を抑えている腕にめり込んだ雹から出血。
 まずい、このままじゃ試合を止められる。まだ何もしてない! 

「解放!」
「光調の吸引」
「なっ……発動しない!? ……ぐっ……神魔解放!」

 囲まれていたうちの一人を吹き飛ばしてその場から離脱。
 すると雹は収まり、残りの四体も消滅した。
 ……いや、正しくは消した……だ。

「ふぅ……ふぅ……」
「おやおや。良くない出血量だね」
「あーーーっと! メイショウ選手強い! どうしちゃったのルイ……ツイン! まだ試
合始まって間もない出来事に、観客一同茫然です!」
「ちょっと! それでもベルディスの弟子なの! ちゃんと戦いなさい!」
「はぁ……はぁ……言ってくれる、確かに俺は師匠の弟子……まてよ……そうか」
「来ないのかな。それならば今一度」
「シッ……」

 一気に距離を詰めて肉弾戦に打って出る。
 伝書の欠点はその発動までの時間だ。
 互いに余裕ある状況でなら出しやすいが、接近戦になると機能し辛くなる。
 文字が腕を覆ってる間は問題ないはずだ。

「それも、愚策じゃないのかな」
「こんだけ近いと避けられないだろ! 氷塊のツララ!」
「……光調の吸引」
「またかよ! 何なんだその光は」

 一度少し距離を取って仕切り直すが、出血量がやばい。
 これが覚者か。アーティファクト無しでこんな化け物倒せってのか。
 冗談きつい。おまけに神魔解放だけじゃ、こいつのけん制に対応する
ので精いっぱいだ。
 コウテイやアデリーを出してみるか? ……いや、その隙に伝書の力でやられる。
 一体どうすれば……。

「君に一つ教えておこう。私がここへ来た目的は、ベルベディシアの監視。それから君た
ちの監視。シフティス大陸の均衡を乱すわけにはいかない。これ以上絶魔王を増やしては
ならない」
「何言ってんだお前。俺は魔王にすら成ってない」
「いいや君は一度魔王に近しい存在となっている。君自身の力でモンスターを強化しただ
ろう」
「……あれは俺の力じゃ無いと思ってる。ベリアルの……」
「いいや君の力だ。君は自分の危うさをもっと認識すべきだ。この大陸ごと消滅させる程
の力を保有することになる」
「……それじゃ何かい? あんたの忠告を聞けば、全てはあんたが一人で守ってく
れるとでも? この先多くの増えるであろう国民を、命を、土地を。全部あんたが守って
くれるのか?」
「答えはいいえだ。すまない。私一人の力では到底成し得ぬことだ。だがこれ以上……」
「結局、あんたにとって都合のいいことしか言ってない。俺は力を求めてるんじゃない。
襲って来る奴らがいなくなるようにしたいだけだ。だがこの世界はどうだ? 俺を、メル
ザを、仲間を狙う奴らで溢れている。あんたの言うように大人しくしてれば死ぬだけだ。
ふざけるなよ。俺が弱いままだったら、全員見殺しにするだけだろ」

 ……らしくない。こいつに怒りをぶつけてもしょうがないことはわかってる。
 引っかかっていたことは幾つかある。
 大会が始まってからも、その前も。
 応じないベリアル。せっかくメルザが戻って来たのにずっとすっきりしなかった。
 俺だけの力でここまで戦ってこれたわけじゃない。
 ブレディーのことだってそうだ。
 あいつがいたから俺は戦ってこれた。
 今だってきっと、本来ならあいつが戦っていただろう。
 俺に代われと。俺のことを認めながらもあいつは……。

「何で、何で何で黙ってるんだ、ベリアルーーーーーーー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...