上 下
884 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百九十七話 催し物を企画する

しおりを挟む
 ――翌朝。
 久しぶりに主と目覚める。
 いつもの通り小さい手。
 そして……もう一つの、もっと小さい手。

「おはよう、メルザ。そしてカルネも」
「うーん、もうちょっと……」
「ツイン……おあよ」
「ああ、お早う。お母さんは相変わらず寝坊助のようだよ。
なぁカルネ。どれくらい喋れる?」
「ツイン、カルネ、メルちゃ」
「まだ話し言葉がおぼつかないな。いや、話せるだけで凄いんだけど」

 カルネは……紅色の髪に紅色の瞳だが、髪が部分的に蒼黒い所がある。
 これは、俺に似たのだろうか。それともブレディーの影響なのか。
 よくはわからない。
 でも、この子は確かにブレディーの影響を受けている。
 
 なぜなら……この子の片目に映るもの。それは間違いなく、賢者の石だ。
 
「カルネ。目はちゃんと見えるか。光は感じるか?」
「ツイン。カルネ、寝る」
「……ああ。ゆっくりお休み。お前を……愛しているよ」

 額にそっと口づけすると、まだ寝ているメルザの額にも口づけしてやる。
 しっかりと布団を掛け直して、部屋を後にした。
 それぞれの子供の部屋を回る。ファナ以外は眠りに着いたままだ。
 
「ファナ。お早う。俺が代わるから少し休んでくれ」
「ありがとう。私は平気よ。マーナがいてくれるから。マーナは眠らなくても
平気みたいだからね」
「おはよ、ルインお兄ちゃん。昨晩は大変だったみたいだね。あの魔王のところ、行かなくても
いいの?」
「いや、行かないとならない。やることも一杯だよ。だけど、子供を置いて仕事
ばかりしてる親じゃ、全員に軽蔑されるだろ? マーナならわかるんじゃないか」
「うーん。マーナのお父さん、マーナの事なんて全然みてくれなかったよ。
いっつもスマホしかみてなかったの。だからマーナもそれでいいんだって」
「そうか……子供としっかり向き合う事は大事なんだけど。そうだよな」
「何の話? スマホってなぁに?」
「ごめん。ファナにはわからない話だったな。俺がエイナを見てるから、食事を
済ませて少し体を動かして着たらどうだ?」
「うふふっ。早速優しいのね、ルインは。メルザはまだ寝てるの?」
「ああ。相変わらずだ。寝ている我が主は幸せそうだよ」
「そう。私も少しメルザを見て来てもいいかな? 昨日はサラとベルディアに
殆ど取られちゃったから」
「ああ。なんだかんだでいつも後ろに下がるのはファナの良いところだな。
ゆっくり懐かしんで来てくれ。エイナとここで待ってるから」

 ――ファナを待ってる間、エイナを抱っこしてよく観察する。
 本当にファナに似てる。これは美人になるだろう。
 手指反射もばっちり。健康そうで元気そうな赤ちゃんんでよかった。
 こういうのは前世で一通り勉強したな。覚えておいてよかった。
 首もまだすわってないから、慎重に扱わないと。

「ルインお兄ちゃんて、本当何でも出来るよねぇ。前世でも子供いたの?」
「いや、ずっと一人だったよ。誰にも迷惑を掛けたくないから一人で生きたかった。
でもそれが、間違いだって気付かされたんだ」
「そうなんだ。マーナだったら一人は嫌だよ。ずっと地下牢で一人だったんだもん。
寂しくて死んじゃいたかった。でも、そんな事できなかった。でも今はね。
お婿さんも出来て……」
「ぐっげほっごほっ……マーナ。ニーメと婚約したのか!?」
「うん! 見て、ほら!」

 ぬいぐるみの指にしっかりとはめられた指輪。
 これ、アーティファクトか!? ニーメ、凄いな……。
 
「よかったな、マーナ。どうにかマーナを人の姿に戻せてやれないものか……
この世界ならそういった力もあるかもしれない。調べるには……そうか! 
ジパルノグの町に図書館がある。交流が出来たら利用できるかもしれない。
少し嫌な思い出がある場所だが……お願いしておこう」
「本当? マーナ、本読むのも好きだよ。フェドラートさんっていう恰好いいけど
怖い先生が字の読み書きを教えてくれてたの」
「そうか……フェドラートさんが。有難いな。俺は一体どれほどの者に
お礼を言わなければならないのか……」

 しばらくマーナと話をしていた。
 戻って来たファナは、サラとベルディア、レミを連れて部屋に来る。
 結構時間がかかったが、どうしたんだろう? 

「皆お早う。子供たちはいいのか?」
「うん。私たち、ちゃんと伝えたい事があって。全員で話し合ったの」
「どうした? 俺にか?」

 何かやらかしたか? 全員出てくとかいわないよな……言われたら俺は
明日から放心状態で宙を見続ける人になりかねない。

「あのね。ルインはとっても忙しいでしょ。メルザの事もあるけど」
「主ちゃんも帰って来たばかりで大変だけど、主ちゃんはほんわかしてるし
強いから大丈夫だと思うの」
「私たち、邪魔したくないっしょ。少しは構って欲しいっていうのはみんなあるけど」
「レミちゃんは、アイドルとしてこの子を頑張って育てたい!」
『それは違う話でしょ!』
「うぅ、手厳しいよぅ……」
「それでね。子育ては私たちに任せて欲しいのよ。もちろんたまには見に来て欲しいけど。
後お金もいっぱい欲しいけど」
「そうそう、夫は稼ぐ。女は育てる! そして夫は妻が欲しがる好きなものを
買う!」
「私はそんなに欲しいもの無いっしょ」
「そんなわけだから、こっちは心配しないで! 立派なアイドルに育てる!」
「だが、それじゃ子供から何と言われるか……子育て放棄パパ! 何て
言われたら俺は膝から崩れ落ちるぞ……」
「そうならないように、たまに面倒見てくれる日を作ってね。
でも、お金は稼いでくれないと嫌よ?」
「その件なら心配ない。後ほどルジリトに確認するが、既に大量の資金が
手に入ったはずだ。俺のお金っていうより町全体で使うお金になるだろうけど」
「それはダメよ。ルインが稼いできて欲しいの。ちゃんと養ったって感じするでしょ?」
「う……確かに。わかった、それは確実にこなしておこう」
「町の運営資金はそんなに増えたのかしら?」
「ああ。何せシカリーとメイズオルガ卿双方の依頼をこなしたからな。
それ以外にもカッツェル、ロッドの町を含めた取引も行った。更にこれから
ジパルノグと雷城とも取引を行う。この町の資金源に関しては、相当なものに
なるはずだ。それらを用いてジャンカの村を町にまで発展させる予定なんだ」

 これは予定だが、確定でもある。
 ベッツェンが無くなった後、住むところを追われた者たちが、ジャンカの村
に集まり過ぎていて、既に家などが不足している。
 仮説的にモラコ族に穴を掘ってもらい、そちらに移住してもらっているが、到底
足りる者ではない。
 家を建てるのには資金が必要。
 家を建て、住んでもらう代わりに食糧生産などを手伝ってもらう。
 お金が無くても労働力があれば、それらで産まれたものを物流で流し、暮らしを
豊かに出来る。
 今のところはカッツェルの町への陸路を使用している。
 ここで一躍かったのが、まさかのエレギーたちだ。
 あいつら、なんだかんだで真面目に働くし、仲間思いだ。
 うまく事を運んでくれているらしい。

「それで、一応町の主だからと町に家を建ててくれる予定だ。
俺たちの住む家を」
「この個室から離れてみんな一緒で暮らすの?」
「その予定だ。まだ設計してくれてるだけだけど。後、ベビーシッター役も
募るつもりなんだけど……だれがいいか迷ってて。希望とかあるか?」
「それなら……」
「間違いなくいるわね」
「思い当たるのは一人っしょ」
「誰誰? レミちゃんわかんなーい」
『イビンよね』
「……満場一致……いやレミは良く知らないんだったな。わかった、頼んでみるよ。
それじゃ、行ってくる。今日はちゃんと帰って来るから」
『行ってらっしゃい!』

 温かく見送られた。毎朝こうやって見送られたら言う事ないんだろうけど。
 ……これからの事を考えればそうもいかない。
 さて、まずはどれから片づけるか。
 全員集めて挨拶も必要だ。
 ルジリトの報告が先か? 
 ……と考えていたら、歩き出して直ぐ、絡まれる。
 逃げたい。しかし回り込まれるのは目に見えている。

「あら、ようやく見つけましたわ。わたくしたち、探していましたのよ」
「まだいたのか、あんたたち。そろそろ戻った方がいいんじゃないのか」
「貴様! 我が君に対して不遜な口を! ……いや、改めねばならんのだった。
おい貴様、もう少し丁寧な言葉を使え。貴様が改めるなら私も改める」
「うん? どうしたんだ、急に」

 こいつは確か、俺をいきなり攻撃してきたベロアか。
 頬に傷がついてるな、こいつにも。まさか、アメーダが何かしたか。

「あのアメーダという女の言う事はもっともだ。私も反省している。
だからこそ貴様も言い方を改めよ! 主をけなすは部下として断じて許せん!」
「そういうことか。対等な接し方でよければそうする。非礼を詫びよう。雷帝の王、ベルベ
ディシア殿」
「オホホホ。私は細かい事は気にしませんわ。ただ……そうですわ、そうですわよ。
そうですわね。そうに違いないですわ! わたくしは断然あなたより強い!」
「ああ。その通りだろう。今はな」
「今は? では明日にはわたくしより強くなると?」
「明日では難しい。一か月でも難しいだろう。だが、越えられぬわけでは無い。
そう考えている。一つ……面白い企画を考えていてね。ベルベディシア殿の
配下の者も参加してみないか?」
「あら。何を考えているのかしら。あなたは中々面白い事を考えるようですから
気になりますわね」
「もうしばらく……一年数か月以上も先の話だが、闘技大会が催される。それに向けての前哨戦
武闘大会だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...