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第五章 親愛なるものたちのために
第七百八十八話 残酷な絶対神
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カカシの死を受け入れられない俺に、ブネは更に追い打ちをかける。
聞きたくない。そんな話聞きたくはない。やめてくれ。
せっかく戻って来て。これから子供が産まれる。
メルザも帰って来て、ブレディーも戻って来て。
それで幸せに暮らす。
いいじゃないかそれで。
なぜブネが死ぬ? 何が起こってるっていうんだ。
「落ち着いて聞け。メルザはもうじき両腕を戻し、子供を抱えて
貴様の腕の中に戻るだろう。大切なアルカイオスの子。そして……子を
持てぬこのブネの子供のようなものだ。メルザも、その子供もな。
貴様にはその子を、そしてメルザを大事にするのだぞ。
ルインよ。イネービュ様を恨まず、イネービュ様を助けて欲しい」
「何を言ってる。何でブネが死ななきゃいけない? 一体何をした。お前は……」
「ブネに宿る生命力、その全てを、メルザとその子供に注いだ。半年間かけてな」
「……じゃあ最初から死ぬつもりで、そうしたっていうのか!」
「その通りだ」
「それを、イネービュは知っていて、そうさせたっていうのか……」
「その通りだ。子を孕めばメルザは確実に死ぬ」
「だったら子供を産まず、生きていく方法だってあったはずだ!」
「それはならぬ。アルカイオスの血が絶えてしまう。そのようなことを
イネービュ様は望んではおらぬ」
「そんな……そんなことって……」
「よいのだ。このブネはイネービュ様に創造され、初めて叶えられた事がある。
子は、よいものだな……ずっと温かみを感じられた。今なら……」
――俺は、ブネが笑うところを見た事が無い。
ずっと……無表情だったブネ。
だが、今のブネの目には、涙と笑顔両方が感じ取れる。
「不思議なものだ。ここでカカシを看取ってからのことだ。
そして、もうじきメルザに会えると思うと嬉しくなるのだ。
今まで一度も感じられなかった。しかし今ならそれがわかる。
さぁ、手を出せルイン。お別れだ」
「嫌だ……お別れとかいうなよ。お前だって俺の……仲間じゃないか」
「貴様と初めて会った頃が懐かしいな。キゾナの大陸。イネービュ様の庵に
来た貴様は、まだひよっこだったな。やっぱり貴様は、ファルクによく似ているな……」
「やめてくれよ……ウワアアアアアアーーーー!」
ブネに腕をつかまれ……俺は泣き叫んでいた。
そして……ブネの冷たい手の感触だけが残り、俺はメルザを抱き締めていた。
その、子供と共に……。
戻って来た主。だが俺は、一体こいつに何て話したらいいんだ。
大切なものを二つも失ったと知れば、メルザはどうなってしまうんだ。
俺だってこんな状態だ。メルザが耐えられるはず、ない。
「無責任にも、程がある……どうして結末を黙っていた。ああ……でも、メル
ザと、ブネの子供……可愛い……なぁメルザ、メルザ……うぅっ……」
メルザはまだ、意識が無い。
子供は紅色の髪をした、元気そうな女の子だった。安らかに眠っているように
見える。この子の名前は考えてあった。
でも俺は、その名前を飲み込み、名を付け替える事を決意した。
メルザもきっとわかってくれるはずだと。
「なあメルザ。この子の名前。カカシのカと、俺たちのルとブネのネを
とって、カルネにしよう」
まだ意識戻らぬ我が主。大切なものを二つも失った俺は、ぽっかりと
心に開いた穴を埋めるように、皆の許へと走った。
涙が頬を伝い、しぶきとなって流れていく。
子供にはパモが布を取り出しかけてくれた。
パモもとても寂しそうにしている。
ブネは言っていた。もう戻らないと。
でも俺は……諦めたくない。
今までだって不可能を可能にしてきた。
今度だって……どうにかしてみせる。
あの時だって、地底から帰って来たじゃないか。
俺は絶対に諦めないぞ、ブネ。
そしてイネービュ。プリマたちが絶対神たちに怒りをぶつける気持ちが
今の俺にはわかる。
こんなの、やるせなさしか残らないじゃないか。
駆け足でルーンの安息所まで向かった。
全員とても驚いている。
俺が裸の子供と女性を抱えているからだ。
直ぐに察したのはベルディア。
俺に素早く駆け寄ると、着ていた服をメルザにかけて、そのまま受け取ってくれた。
サラは次に子供を預かり、掛けている布をうまく結んで洋服のようにしたてる。
俺の表情を見て……余程良くない事が起こった事を皆は察してくれた。
「イネービュは、いないか」
「う、うん。来てないと思う」
「カカシとブネが……死んだ」
「えっ? ……やっぱり、そうだったのね」
「気づいていたのか……」
「カカシが、もうわしは長くないって言ってたの。
年だから仕方ないって。でも、このタイミングで……」
「俺が到着した時にはもう……ブネは、メルザの子供の代わりに……死んだらしい」
「実はね。私たちはブネから聞かされていたの。黙っていてごめんなさい。
覚悟は、していたのよ。でも最後に、お別れ位言ってくれても……」
「知らなかったの……俺だけなのかよ……」
「ごめんなさい。口止めされてて……最後に、何て言ってたの?」
「メルザと子供……双方を自分の子だと。だから頼むって、俺に……言い残して」
「そう……それならしっかり、育ててあげましょう。私たち皆で」
「ああ……わかってる。わかってるんだ。だけど、目から涙が止まらないんだ。
俺はどうしたら……」
皆まで言う前に、ファナが抱き締めてくれた。
お前だって、悲しいはずだ。サラとベルディアはカカシの事を良く知らない。
でもファナやニーメは違う! 俺と……同じ気持ちだ。
だからお前も悲しいはずなんだ。なのに俺を慰めてくれる。
俺は……こんなにも死に弱かったのか。
こんな夫じゃ、情けなくて務まらないだろう。
もっと強くならないといけない。
だけど今だけは……こうしてもらっていてもいいか……。
立ち尽くす俺を、ファナは必死に励ましてくれた。
俺の主に、こんな情けない姿は見せられない。
メルザはもっと泣くだろう。その時は俺が……泣かずに支えてやらないと
いけないのだから。
聞きたくない。そんな話聞きたくはない。やめてくれ。
せっかく戻って来て。これから子供が産まれる。
メルザも帰って来て、ブレディーも戻って来て。
それで幸せに暮らす。
いいじゃないかそれで。
なぜブネが死ぬ? 何が起こってるっていうんだ。
「落ち着いて聞け。メルザはもうじき両腕を戻し、子供を抱えて
貴様の腕の中に戻るだろう。大切なアルカイオスの子。そして……子を
持てぬこのブネの子供のようなものだ。メルザも、その子供もな。
貴様にはその子を、そしてメルザを大事にするのだぞ。
ルインよ。イネービュ様を恨まず、イネービュ様を助けて欲しい」
「何を言ってる。何でブネが死ななきゃいけない? 一体何をした。お前は……」
「ブネに宿る生命力、その全てを、メルザとその子供に注いだ。半年間かけてな」
「……じゃあ最初から死ぬつもりで、そうしたっていうのか!」
「その通りだ」
「それを、イネービュは知っていて、そうさせたっていうのか……」
「その通りだ。子を孕めばメルザは確実に死ぬ」
「だったら子供を産まず、生きていく方法だってあったはずだ!」
「それはならぬ。アルカイオスの血が絶えてしまう。そのようなことを
イネービュ様は望んではおらぬ」
「そんな……そんなことって……」
「よいのだ。このブネはイネービュ様に創造され、初めて叶えられた事がある。
子は、よいものだな……ずっと温かみを感じられた。今なら……」
――俺は、ブネが笑うところを見た事が無い。
ずっと……無表情だったブネ。
だが、今のブネの目には、涙と笑顔両方が感じ取れる。
「不思議なものだ。ここでカカシを看取ってからのことだ。
そして、もうじきメルザに会えると思うと嬉しくなるのだ。
今まで一度も感じられなかった。しかし今ならそれがわかる。
さぁ、手を出せルイン。お別れだ」
「嫌だ……お別れとかいうなよ。お前だって俺の……仲間じゃないか」
「貴様と初めて会った頃が懐かしいな。キゾナの大陸。イネービュ様の庵に
来た貴様は、まだひよっこだったな。やっぱり貴様は、ファルクによく似ているな……」
「やめてくれよ……ウワアアアアアアーーーー!」
ブネに腕をつかまれ……俺は泣き叫んでいた。
そして……ブネの冷たい手の感触だけが残り、俺はメルザを抱き締めていた。
その、子供と共に……。
戻って来た主。だが俺は、一体こいつに何て話したらいいんだ。
大切なものを二つも失ったと知れば、メルザはどうなってしまうんだ。
俺だってこんな状態だ。メルザが耐えられるはず、ない。
「無責任にも、程がある……どうして結末を黙っていた。ああ……でも、メル
ザと、ブネの子供……可愛い……なぁメルザ、メルザ……うぅっ……」
メルザはまだ、意識が無い。
子供は紅色の髪をした、元気そうな女の子だった。安らかに眠っているように
見える。この子の名前は考えてあった。
でも俺は、その名前を飲み込み、名を付け替える事を決意した。
メルザもきっとわかってくれるはずだと。
「なあメルザ。この子の名前。カカシのカと、俺たちのルとブネのネを
とって、カルネにしよう」
まだ意識戻らぬ我が主。大切なものを二つも失った俺は、ぽっかりと
心に開いた穴を埋めるように、皆の許へと走った。
涙が頬を伝い、しぶきとなって流れていく。
子供にはパモが布を取り出しかけてくれた。
パモもとても寂しそうにしている。
ブネは言っていた。もう戻らないと。
でも俺は……諦めたくない。
今までだって不可能を可能にしてきた。
今度だって……どうにかしてみせる。
あの時だって、地底から帰って来たじゃないか。
俺は絶対に諦めないぞ、ブネ。
そしてイネービュ。プリマたちが絶対神たちに怒りをぶつける気持ちが
今の俺にはわかる。
こんなの、やるせなさしか残らないじゃないか。
駆け足でルーンの安息所まで向かった。
全員とても驚いている。
俺が裸の子供と女性を抱えているからだ。
直ぐに察したのはベルディア。
俺に素早く駆け寄ると、着ていた服をメルザにかけて、そのまま受け取ってくれた。
サラは次に子供を預かり、掛けている布をうまく結んで洋服のようにしたてる。
俺の表情を見て……余程良くない事が起こった事を皆は察してくれた。
「イネービュは、いないか」
「う、うん。来てないと思う」
「カカシとブネが……死んだ」
「えっ? ……やっぱり、そうだったのね」
「気づいていたのか……」
「カカシが、もうわしは長くないって言ってたの。
年だから仕方ないって。でも、このタイミングで……」
「俺が到着した時にはもう……ブネは、メルザの子供の代わりに……死んだらしい」
「実はね。私たちはブネから聞かされていたの。黙っていてごめんなさい。
覚悟は、していたのよ。でも最後に、お別れ位言ってくれても……」
「知らなかったの……俺だけなのかよ……」
「ごめんなさい。口止めされてて……最後に、何て言ってたの?」
「メルザと子供……双方を自分の子だと。だから頼むって、俺に……言い残して」
「そう……それならしっかり、育ててあげましょう。私たち皆で」
「ああ……わかってる。わかってるんだ。だけど、目から涙が止まらないんだ。
俺はどうしたら……」
皆まで言う前に、ファナが抱き締めてくれた。
お前だって、悲しいはずだ。サラとベルディアはカカシの事を良く知らない。
でもファナやニーメは違う! 俺と……同じ気持ちだ。
だからお前も悲しいはずなんだ。なのに俺を慰めてくれる。
俺は……こんなにも死に弱かったのか。
こんな夫じゃ、情けなくて務まらないだろう。
もっと強くならないといけない。
だけど今だけは……こうしてもらっていてもいいか……。
立ち尽くす俺を、ファナは必死に励ましてくれた。
俺の主に、こんな情けない姿は見せられない。
メルザはもっと泣くだろう。その時は俺が……泣かずに支えてやらないと
いけないのだから。
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