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第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十九話 伝書の力を確認す

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 場所を移動しながら――昨晩の話をランスロットさんにすると、目を見開き驚いていた。
 これまでそんな話を聞いた事が一度も無いという。
 俺は念のため広い場所で練習することを提案した。
 しかし、そこまで案ずる必要は無いというランスロットさん。

「もし昨晩見た君の出来事が、夢ではなく伝書が見せたとするならば間違いなく
強大な力だ。伝書には大まかに分けて三つの種類が存在すると考えている」
「三つの種類……ですか? 実は、お部屋にあったある書物を見させて
もらいました。先にお詫びします。その本に……ランスロットさんが旧約の
力を持つと書かれていました」
「その通り。私が持つ力は旧約の伝書、アドミム。その力については演習場で話そう」

 バーニィ家の館を出て裏手へ周り、暫く進むと、整備された土地があった。
 運動会でもやれそうな程の十分なスペース。こんな空き地を持っているのか。
 これはつまり、組織的に何かを動かす事が出来る証拠だろう。

「ここでは統治者の代表を集め、それぞれが推薦する有能な人材の実力を図るため
使用している。多い時で五百人程招集されることもある」
「それだけの人数を管理するのは大ごとですね。伝書の力を試すのに、これだけの
スペースがあれば十分そうです」
「まず伝書の力は制御が大変だ。君の話を聞く限り、文字がどのように吸い込まれ
放出出来るか。それがわからないだろう」
「ええ。視界では勝手に行使されてました。青白い文字が体から出て……人を貫いて
燃やしたり。後は巨大な青い炎の渦が後方で上がったり……」
「その力は恐ろしくもある。だが、制御出来ねば使用出来ないだろう。どのような力にも
当然使用するのに制限がある。そうでなければとっくに世界は滅んでいるからね」
「疲労や使用制限ということですか?」

 ランスロットさんはゆっくりと頷いて応じた。

「多大な疲労を伴う。何せ体から伝書の文字を放出するのに血液を媒介にするからね」


 それを聞いてピンと来た。血を混ぜて飲んだ命真水。つまり血液中に伝書の文字が刻まれた
ということか。

「そうすると出血多量で下手したら死ぬ……ってことですか?」
「いや。放出した文字は血液量による。命を落とす程の血液は放出されるわけではない。
文字が戻れば失われる事も無いが、その放出に労力を用いる。使い過ぎれば疲労して
動けなくなるだろう」

 そうすると……術の行使に近いのか。あれは血液を媒介にしているわけじゃないが……伝書
の方がわかりやすいな。
 ……考えている間にランスロットさんの手のひらに文字が浮かびあがるのが見えた。
 あの時見たのと同じ、赤色の文字だ。
 ランスロットさんの話では、その力は地を這いずり相手を拘束したり、急な斜面などを
文字が創設し、道を造ったりもできるらしい。他にも色々な事が出来るようだが、割愛して
まずは俺自身の伝書の力を試してみるため、詳しく伝書の使い方の説明を続けてくれる。

「このように浮かび上がる文字を使用する。我々はこの文字をカオスと読んでいる」
「カオス……」
「カオスを行使させるには、手先が都合がいい。むろん慣れれば体全体から放出が可能だ。
最初は十文字も捻りだせば十分な位だ。手先に集中し、塵となった伝書を想像してみなさい。
文字が浮かび上がるはずだ」

 言われた通り、手のひらあたりに意識を持っていく。
 塵になった伝書……あの本もそういえば青っぽい表紙だったな。
 ああいう色とかで見分けがつかないのかな? 

 そう考えていると……夢のような場所で見たような青白い色の文字が次々と
手のひらに浮かびあがってきた。
 それは、俺が前に突き出した左の手のひらから甲、手首、前腕へと這いずる
ように、らせん状に広がると後腕あたりまで伸びてくる。
 
「……十六文字。速い……やはり旧約の力。いや、それ以上だ。そのまま左手と右手を
手のひらで結び合わせなさい」
「……はい。こうですか?」

 言われた通り、胸の前で手のひらを合わせる。ヨガのシャンディーのポーズのようだ。
 すると、左腕に巻き付いていた文字が、体ではなく反対側の右手へと流れていく。

「……三十二文字。さぁ手を放して前方に、君の伝書の名前を飛ばすのだ!」
「……ラモト!」

 俺が両手を前に出し、そう告げた途端……両腕にらせん状に絡みついていた文字が前方へ
飛ばされる。それは正面にある壁まで飛んでいくと、壁は小さい三十二の青白い炎の渦を
あげて燃え盛る。
 途端に膝をつく程の疲労感に見舞われた。

「初めてで三十文字以上。疲れるのも無理はない。実に実践的で攻撃的な伝書だ。
ラモトか……聞いた事が無い伝書だね」
「これ……結構しんどいですけど、幅数百メートルの炎の渦を上げて、千人はいる兵士を
焼いている光景をみたんです。そんな事も出来るんですか?」
「伝書は使い方次第だ。恐らく……その力であれば可能だろうね。
これも提案なのだが、君が上手く伝書を使えるようになるまで、指導させて欲しいのだ」
「それは……やはり息子さんの事が原因ですか? お話しにくかったのですが、俺が
読んだのは息子さんの日記みたいで」
「……そうだ。私は今でも後悔している。息子が所持していた伝書の力。
もっと上手く強さを表現させられていたら、今でも隣で笑っているのではないか……と」
「息子さんは憧れていたんでしょうね、ランスロットさんに。わかりました。
本来ならこちらからお願いしたいくらいです。よろしくお願いします」

 俺は息子さんの代わりにはなってやれない。でも、ランスロットさんの
後悔の念を和らげてやることは出来ると思う。
 伝書の力……まだまだ手探りだが、上手く使いこなしておかないと。
 いつまた、常闇のカイナやライデンが襲って来るとも限らない。
 ベルドやミリルは大丈夫だろうか。
 色々心配事も多いが……まずは紅葉洞まで戻り、ギオマを呼ぶとしよう。
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