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第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十八話 雷城とベルベディシア

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 ――早朝。日記を読み終えた俺は、昨日片していなかった食べ終わりの
物を片しに行く。
 すると、既に侍女さんらしき人たちが清掃を始めていた。

「おはようございます。昨晩ご相伴に預かったものを片したいのですが」
「まぁ!? わざわざお持ち頂かなくても片付けに参りましたのに。お持ち頂いて
有難うございます」
「いえ。自分で片づけますよ」
「とんでもございません。我々の仕事ですから」
「では……よろしくお願いします」

 頭を深く下げて食器類を渡すと、とても驚かれてしまった。
 自分で食べた物を自分で片すのは当たり前だと思うんだけど。
 でも、それが仕事なら渡さないと失礼だし、困ってしまうよね。

 けれどたとえ仕事だったとしても、感謝の気持ちは大事だ。
 その方がお互い、気分良く生きられるから。

「おはようルイン殿。随分早起きだね」

 突然背後から話しかけられる。見ると、普段着のような恰好のグレンさんがいた。
 これまでのグレンさんは、常に軽装の鎧を着用していたのでよくわからなかった
が、こうして改めて見ると女の子だなと思う。
 喋り言葉も少し男性寄りだし、仕事で勇ましい感じにしていないと舐められるから
だろうか。

「おはようグレンさん。鎧姿よりそちらの方がしっくりきますね。
モジョコはまだ寝てます?」

 ……あれ? 失言だったかな。顔が真っ赤だ。
 褒めたつもりだったのだが……。

「も、モジョコはまだ眠っている。それよりも……伝書の方はどうだった?」
「ええ。恐らく成功したと思います。その……はっきりとした使い方はまだわからないけど
危険そうで」
「おじい様と特訓をするのだろう? それなら、丁寧に教えてくれると思う」
「楽しみにしてます。そういえばレオ殿と、ゴラドさん……でしたっけ。お二人はどちらに?」
「二人共紅葉洞へと向かったよ。今度こそ物資は届いているはずだ。
もう一人、ファースというのが身内にいる。そっちは物資運搬の者が殺された件について
調べているところだ」

 そういえば……結局そちらの犯人や目的が不明か。
 統治者同士の争いや、国同士のいざこざって可能性もあるのかな。

「どちらにしても、物資が届いたのならよかったですね。
俺は今日ジパルノグを経ちますが、本当について来るんですか?」
「ああ。よろしく頼む。そのために準備をこれからするから、おじい様との特訓は
残念だけど見に行けない。すまない」
「いえ。俺も勝手がわからないし、上手く扱えるかもわかりませんから」

 談笑していたところで、侍女から食事処へ案内された。
 もしかして早く起きすぎて、仕事を増やしてしまったんじゃなかろうか。
 この家のお嬢様でもあるグレンさんと来客者を立ち話させるなど、家の者からすれば
失礼にあたるだろう。
 もう少し空気を読んで遅めに部屋を出ればよかったな。
 片付けないと気が済まない性格が仇となってしまった。
 
 案内された方へ向かおうと思ったが、グレンさんは部屋へ戻っていくようだ。
 ……モジョコが心配なんだろうな。グレンさんがいなければ俺もそうしていた。
 でも、モジョコは女の子だし女性が世話をしてあげた方がいいに決まっている。
 ただ、モンスターを惹きつけるような能力があるのは間違いない。
 どう説明したものかな……でも小さいスライムがいるのは気にしてないから、受け入れて
もらえると信じよう。
 そう考えていると、ランスロットさんがやってくる。
 心なしか疲労した顔に見える。
 あまりよく眠れていないのだろうか。
 あの後もまだ仕事をしていたかもしれない。
 この国の事は未だ深くは聞いていない。
 あまり首を突っ込むと、俺の性格のせいでルーンの町へ戻れなくなるかも
しれないからだ。
 
 ……でも、知り合った人がこんな疲れた表情をしていたらやっぱり気になるな。

「お早うございます。ランスロットさん。あの……昨晩は良く眠れなかったのでは?」
「お早うルイン君。これでも良く眠れた方だ。最近問題事が多くてね……いやすまない。
朝から君に話すべき事では無かった。その表情を見ればわかる。どうにか
手助けが出来ないか、考えているような表情だ」

 ぎくっとした。経験則で表情を読み取るのが上手いのかな。
 まさにその通りだ。でも……俺を心配して待ってくれてる奴らもいるし、あちらで
頼んだ仕事の報告も受けないといけない。
 ランスロットさんが町へ来るなら、道中話を聴くか……。

「こっちの事は心配しなくてもいい。そちらはテオドールに頼むつもりだ」
「テオドール?」
「五つの統治者のうちの一人。テオドール・ウィニィー。ウィニィー家は代々、格闘の
天才として知られる家系だ」
「格闘の天才……格闘といえば、フー・トウヤ氏が最強だと聞いた事があります」
「闘技大会の話かね? シフティス大陸東側からデイスペルへ向かうのは困難を極める。
ウィニィー家は一度も参加したことが無いはずだ」
「確かに……ここからデイスペルへ向かうのは骨が折れそうですね。神風の影響も
あるでしょうから、空からも向かえませんし……」
「南側は神風の影響を殆ど受ける事がない。しかし、シフティス大陸東側を、南から北上
しようとすれば、雷撃の絶魔王の怒りを買う。雷城ベルベディシアに墜落させられるだろうね」
「……今、何と?」
「雷城の主、絶魔王のベルベディシアだ」

 恐ろしい事を聞いてしまった気がする。
 雷城の主? 絶魔王が存在することは知っていた。
 墜落? あの城から目視できるとでもいうのか? いや、雷が降りしきる場所が
それとは限らないのか? ……どう考えてもあの場所だろう。
 とてもじゃないが、信じられない。
 事実だとしたら、そんな相手に目をつけられれば黒焦げにされ、瞬殺だろう。

「恐れるのも無理はない。ベルベディシアは均衡を崩しかけている程の実力者だ。
本来この町を支配していてもおかしくはない存在。だが、絶魔王同士の均衡が保たれて
いる限り、この町は安全だ」
「……それが、崩れかけているとするなら、良くない事態だということですね」
「……今の君に深く話すべきではないと思ったが、私が君の町に同行したいと
考えるのは、支援を願い出る事が可能か判断することも含まれている。
幸いこちらには貴重な鉱掘資源もある。取引相手としては困らないはずだよ」
「取引は嬉しいんですが、例え取引が無かったとしても協力関係にありたいと、既に考えて
いるんです。ただ、町の中には人間に対して良くない感情を持っている奴らもいます。
理由は……襲われた亜人たちがいるからです。常闇のカイナに」
「……常闇のカイナか。同じような悩みを持っているのだね。実はこの町にも……」
「いるんですか!? 常闇のカイナのやつらが? どこに!」
「落ち着き給え……余程の因縁があるのかね。君らしくも無い。
正確には、居た……だ。統治者の一つ。排除の統治により抹殺されたよ」

 驚いた……ここに来て常闇のカイナの情報が入って来るとは思わなかった。
 レミを通じて常闇のカイナの情報は入って来る予定なのだが、今は出産前。
 そういった話は聞いていない。
 ここでも暗躍していたのか……。

「さて、そろそろ食事も済んだかね。君の力、見せてもらおう」
「はい。よろしくお願いします」

 といっても昨晩同様エルバノとプリマに遠慮してあまり食べれなかった。
 食事より何よりも伝書の力が気になる。
 昨晩の出来事も一応話しておこう。
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