上 下
863 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十七話 日記の終わり

しおりを挟む
 ボロボロの日記には、更に驚くような内容が書かれていた。

 ――シフティス歴五三互四年。
 ついに父上から伝書を読み解く許可を頂いた。
 覚悟について尋ねられたが、答えるまでも無い。
 ……私は命真水に血を垂らし、それを飲み干した。
 早く伝書を読み解きたいが、夜に部屋の中一人で読むようにと告げられる。
 それもそうだ。誰かに読まれでもしたら大変だし、伝書を読んでいる最中
邪魔をされるのは好ましくない。
 楽しみすぎて、その日の仕事はてにつかなかった。
 

 ……気持ちはわかる。だが、あの内容は人が大勢いるようなところで読み解くものでは
なかったな。
 まだ続きがある。読んでみよう。


 ……伝書の力はマダバというらしい。一文字ずつ読んでいくと、それが体に
吸い込まれていくように無くなっていく。
 最後の終わりを読み上げると、伝書は塵となって書き消えてしまった。
 不思議なものだ。一体どのように作られたのだろうか。私には想像もつかない。
 しかし、これでようやく念願の力が手に入ったはずだ。
 本日の日記を書き終えたら、父上と手合わせする事になっている。
 今から楽しみだ。


 ……あれ? 俺とは全然違う状況だ。同じなのは最後の終わりを読んだ所くらいか? 
 伝書一つ一つ、それぞれ違うのだろうか。
 残る頁は少ない。続きを読もう。


 私の力。それは、新約のものだろうということだった。
 正直、がっかりだ。この力は対象に文字を飛ばして、目を晦ます効果があるという。
 父上は、伝書の力は使いようによってとてつもない力を発揮するという。
 だが、私の調べた限りでは、新約にそれまでの力があるとは思えない。
 私は決意した。より力の強い伝書を求めて旅立つと。
 相手の目を晦ませるだけでは、この先戦ってはいけないだろう。
 父上ならきっと、わかってくれるはずだ。


 ……予想していた力とは違い、さらに精進することを考えず別の力を? 
 これは……よくないだろう。
 昔師匠にも言われた。力に頼るんじゃねえ。己の未熟さを疑え。
 どんな力でもてめえの力量が低けりゃ振り回されてるのと一緒だぜ……って。
 俺なら、目を晦ませる力なんてとても怖い力だと思う。
 暗闇の中生きてきた俺にとってみれば、誰しもが恐れる力なんじゃないのか? 

 ……そして日記は最後の一頁。最後まで、読んでみよう。


 ……父上に猛反発された。そして厳しい説教を受けた。
 父上にはわからないのだ。強い伝書の力を得た父上には。
 あれほどの力があれば、私も新たな伝書の力を欲したりはしない。
 必ず手に入れてみせる。それまではジパルノグへ戻る事はないだろう。
 旅にはリオネも同行してもらおう。置いていっては悲しませてしまう。
 善は急げだ。夜明けには旅立つとしよう。
 そして戻って来たら直ぐ、この日記に綴るのだ。
 私の新たな伝書についてを。
 今から楽しみで仕方がない。
 まずは北を目指し、交友がある魔族と交渉してみよう。
 

 ……日揮はここで終わっていた。
 そして、ランスロットさんは息子を失っていた。
 この人は……帰らなかったのだろう。
 もし伝書の力を信じて己を磨いていれば……生きていたのでは
ないだろうか。
 そしてきっと、ランスロットさんも後悔しているのかもしれない。
 息子にただ反対するのではなく、導いてやるべきだったと。

 だが、全ては過ぎてしまった事。
 悔い改めようとも、亡き息子は戻ってはこないのだから。


 日記をそっと元の場所へ戻すと、体の状態を確かめる。
 ……十分体力は回復した。眠気もない。
 やはりあれは夢だったのかもしれない。
 いや、夢であろうとなかろうと、そんなことはどうでもいい。
 あの時のアルカイオスの青年の顔は、しっかりと覚えている。
 ――どんな思いであの場所にいたのだろう。
 どのように生き、どのように暮らしていたのだろう。
 その力、必ず俺が思う正しき道として、使いこなしてみせるよ。

 そう心に誓って、胸の前で左手の拳を強く握り締めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...