上 下
860 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十四話 水、術、排除、秩序、そして防衛

しおりを挟む
 グレンさんにバーニィ家の館へ案内されつつ、歩きながら話を聴く。
 その内容は、結構ヘヴィなものばかりだった。

 まず、モジョコを自分の娘として育てたいという話。
 これに関しては、モジョコが既に受け入れてくれているようで、俺も賛成出来る。
 モジョコは目が不自由だ。そこをしっかり理解して育てて欲しいとも伝えた。
 一つ問題があり、モジョコは俺と離れる事を望んでおらず、どうにかして
バーニィ家に住めないかという相談。これは即答で不可能であると告げる。
 俺の主はメルザだ。それに領域には家族が沢山待っている。
 ブレディーの件もある。ここに移住なんて到底考えられない。
 
 更に話は続き、ジパルノグの統治体制についてだ。
 これは触りしか聞かなかったが、かなり重い話だった。
 そして……「出来れば君の住む場所まで、おじい様と共に案内してもらいたい。
お願い出来ないだろうか。それ次第では私も移住を考え、モジョコと共に
暮らしたいと思っている」
「グレンさん。気持ちは嬉しいけど、俺の町へ向かうならそう簡単にここへは
戻って来れないと思う。何せここシフティス大陸東側にある俺の町への
戻る方法……その場所が悪いんだ」

 どう説明すれば上手くいくのか、よくわからない。
 あの状況をゼロから説明するのなんて大変だ。
 そう思っていると、食事を取るような長テーブルのある部屋へ案内された。
 次々に食事が並べられていく。既に準備されていたのだろう。
 遠慮せずに食べるよう指示を受けるが……プリマやエルバノたちに食べさせられないこの状況。
 俺はなるべく食べず、話を進めていよう。
 モジョコにはグレンさんが傍についてゆっくり食べさせてくれている。 

 さて、先ほどの話をどう説得するか……そう思案していると、ランスロットさん
が話を切り出してきた。

「孫娘が自分のやりたい事を告げるのは初めての事。
ルインさん。どうかこれの我儘を叶えてやってはもらえないかね」
「ですが……そういえば、この町の付近にも命真水があると、伝書に関する
本で読みました。あれは事実ですか?」
「ああ。アーク・ウェイドスタンが管理役を担う泉だった。
彼が一任されていたようでね。国の統治方法は話した通りだ
が、水、術、排除、秩序、そして防衛。
これらの統治方法の代表が管理をし、国を動かしている。
それぞれの代表は、世襲制でもあり、民意でもある。
アークは水の管理者の下で働く者。奴は秩序と防を大きく乱した事になる。
もう命真水の管理は出来ないだろう。今回の不祥事を得て、防の総督である
私が一名、その水源の管理を命じさせてもらうつもりだ」
「それであるなら……驚くかもしれませんが、その泉から俺の町へ向かう事が
出来るかもしれません」
「……それはどういう事かね? 地下工事を行うとでも?」
「いえ。説明が難しいのですが、そういう手段だと思ってください」
「ふむ……いや、書物で見た記憶がある。
あれは……幻魔に纏わる本だったはずだ。だが、本当にそんな事が可能
であれば、孫娘を泉の管理者として置くのも手かもしれない」
「おじい様? 私には何の事かさっぱり……でも、この町の直ぐ近くから
本当にルイン殿の町へ? だとすれば、私がルイン殿の町に行っても問題は!」
「いや、問題はあるんだよ。俺、妻が五人なぜかいてね……これから子供が五人産まれる
予定なんだ」

 あくまで正直に話すべきだと判断して、腹をくくって正直に話す。
 しかし二人ともそれが何か? という顔だった。
 ……やっぱり前世とは大分、考え方が違うのかな。
 いや、前世でも四百年前位はそれが普通だったんだっけ。

「出産を前に、この地へ向かったという事は余程大事な仕事だったのだね」
「ええ。出産を遅らせるためのある方法があって。間に合わないと判断して
依頼をしていたんですよ。その引き換えの仕事……ですね。それについては
あまり……」
「ああ。聞かない方がいいだろうね。それにしても、君は真面目だね。
子供が産まれるというのに、幼子を助け、仕事をこなして。
そんなさ中、事件に巻き込まれても冷静でいられる。余程の精神修業を
してきたのだろう」
「それは……確かにきつい精神修業はしてきた気がします。叩きあげ
られたって言う方が正確なのかな」
「そんなさ中、幼子を連れて孫娘と町へ向かえば勘違いされる……か。
だが、私が説明すれば問題なかろう。連れて行ってもらえるだろうか」
「実はおじい様、一度言い出したら引かないんだ。当然私も引くつもりはない」

 困ったな……ギオマは何というだろうか。
 いや。俺はランスロットさんに伝書について聞かなければならない。
 助けてもらった上、教えてもらえたら、はいさようならなんて絶対に出来ない。

「……わかりました。とても驚く事ばかりになると思います。
それに、俺の町は獣人や亜人、闇の種族も多く住んでます。
でも、みんな幸せに暮らせるようにしてやりたいんです。だから……」
「勿論君の町の事は、しばらく伏せる事になる。
安全である事を確認し、私の信頼出来る総督から説得していけば、何れ交流が
結べると私は確信している。何せ君は……暖かい。本来なら縛り付けて我が家
を継いでもらいたい程にだ」
「……やっぱり思っていた通り、おじい様に気に入られてしまったね」
「そう言えば、グレンさんが跡取りというわけではないんですか? もし
グレンさんが跡取りなら困るでしょう? レオさんが跡取りなのか?」
「跡取りなら既に会っているはずだよ、ルイン殿」

 はて……俺がここで知り合った顔は多くない。
 後は……そうか! あの時鉱道で俺を見ていた人か。
 門前で会った後、レオさんとどこかへ行ってしまったけど。

「ゴラドは未だ経験不足。ランスロットの跡を継ぐのは随分先になるだろうね。
彼はまだ、伝書の力に耐えられないだろう」
「伝書の力に耐える……資質のようなものが必要なんですか?」

 だとするなら、俺にその資質があるのだろうか。
 ……と考えていたら、モジョコがとても眠そうな顔をしていた。
 無理もない。もうじき深夜になる。
 グレンさんにお願いして、モジョコを寝かせつけに行ってもらう。

 残ったのは俺とランスロットさんだけだ。
 この人は、眠そうな素振りなど全く見えない。

「すまないね。君も疲れているだろうに。そろそろお休みになるかね?」
「いえ。もう少し……伝書について確認したいんです。俺が図書館で見た
本の内容は正しいのでしょうか?」
「ふむ。君は伝書の力を発現させたいのかね。伝書はもし三つ以上発現させ
ようとすると、体が飛散してしまうと言われている。その伝書を一度読み
解けば、その者が息絶えるまで効果は永続し、破棄する方法は無い。
それでも発見した伝書を読み解くかね?」
「ええ。一つも会得していないですし、用いてみないとわかりません。
俺には……守るべき対象が多くなった。今や、守るべき対象の方が強い者も
いるかもしれません。俺の中にはもう一つ強い力が眠ってます。でも、俺は
こいつも守ってやりたいんです」
「……そうか。ならば君に、伝書の解読を行うための方法を教えよう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...