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第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十四話 水、術、排除、秩序、そして防衛

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 グレンさんにバーニィ家の館へ案内されつつ、歩きながら話を聴く。
 その内容は、結構ヘヴィなものばかりだった。

 まず、モジョコを自分の娘として育てたいという話。
 これに関しては、モジョコが既に受け入れてくれているようで、俺も賛成出来る。
 モジョコは目が不自由だ。そこをしっかり理解して育てて欲しいとも伝えた。
 一つ問題があり、モジョコは俺と離れる事を望んでおらず、どうにかして
バーニィ家に住めないかという相談。これは即答で不可能であると告げる。
 俺の主はメルザだ。それに領域には家族が沢山待っている。
 ブレディーの件もある。ここに移住なんて到底考えられない。
 
 更に話は続き、ジパルノグの統治体制についてだ。
 これは触りしか聞かなかったが、かなり重い話だった。
 そして……「出来れば君の住む場所まで、おじい様と共に案内してもらいたい。
お願い出来ないだろうか。それ次第では私も移住を考え、モジョコと共に
暮らしたいと思っている」
「グレンさん。気持ちは嬉しいけど、俺の町へ向かうならそう簡単にここへは
戻って来れないと思う。何せここシフティス大陸東側にある俺の町への
戻る方法……その場所が悪いんだ」

 どう説明すれば上手くいくのか、よくわからない。
 あの状況をゼロから説明するのなんて大変だ。
 そう思っていると、食事を取るような長テーブルのある部屋へ案内された。
 次々に食事が並べられていく。既に準備されていたのだろう。
 遠慮せずに食べるよう指示を受けるが……プリマやエルバノたちに食べさせられないこの状況。
 俺はなるべく食べず、話を進めていよう。
 モジョコにはグレンさんが傍についてゆっくり食べさせてくれている。 

 さて、先ほどの話をどう説得するか……そう思案していると、ランスロットさん
が話を切り出してきた。

「孫娘が自分のやりたい事を告げるのは初めての事。
ルインさん。どうかこれの我儘を叶えてやってはもらえないかね」
「ですが……そういえば、この町の付近にも命真水があると、伝書に関する
本で読みました。あれは事実ですか?」
「ああ。アーク・ウェイドスタンが管理役を担う泉だった。
彼が一任されていたようでね。国の統治方法は話した通りだ
が、水、術、排除、秩序、そして防衛。
これらの統治方法の代表が管理をし、国を動かしている。
それぞれの代表は、世襲制でもあり、民意でもある。
アークは水の管理者の下で働く者。奴は秩序と防を大きく乱した事になる。
もう命真水の管理は出来ないだろう。今回の不祥事を得て、防の総督である
私が一名、その水源の管理を命じさせてもらうつもりだ」
「それであるなら……驚くかもしれませんが、その泉から俺の町へ向かう事が
出来るかもしれません」
「……それはどういう事かね? 地下工事を行うとでも?」
「いえ。説明が難しいのですが、そういう手段だと思ってください」
「ふむ……いや、書物で見た記憶がある。
あれは……幻魔に纏わる本だったはずだ。だが、本当にそんな事が可能
であれば、孫娘を泉の管理者として置くのも手かもしれない」
「おじい様? 私には何の事かさっぱり……でも、この町の直ぐ近くから
本当にルイン殿の町へ? だとすれば、私がルイン殿の町に行っても問題は!」
「いや、問題はあるんだよ。俺、妻が五人なぜかいてね……これから子供が五人産まれる
予定なんだ」

 あくまで正直に話すべきだと判断して、腹をくくって正直に話す。
 しかし二人ともそれが何か? という顔だった。
 ……やっぱり前世とは大分、考え方が違うのかな。
 いや、前世でも四百年前位はそれが普通だったんだっけ。

「出産を前に、この地へ向かったという事は余程大事な仕事だったのだね」
「ええ。出産を遅らせるためのある方法があって。間に合わないと判断して
依頼をしていたんですよ。その引き換えの仕事……ですね。それについては
あまり……」
「ああ。聞かない方がいいだろうね。それにしても、君は真面目だね。
子供が産まれるというのに、幼子を助け、仕事をこなして。
そんなさ中、事件に巻き込まれても冷静でいられる。余程の精神修業を
してきたのだろう」
「それは……確かにきつい精神修業はしてきた気がします。叩きあげ
られたって言う方が正確なのかな」
「そんなさ中、幼子を連れて孫娘と町へ向かえば勘違いされる……か。
だが、私が説明すれば問題なかろう。連れて行ってもらえるだろうか」
「実はおじい様、一度言い出したら引かないんだ。当然私も引くつもりはない」

 困ったな……ギオマは何というだろうか。
 いや。俺はランスロットさんに伝書について聞かなければならない。
 助けてもらった上、教えてもらえたら、はいさようならなんて絶対に出来ない。

「……わかりました。とても驚く事ばかりになると思います。
それに、俺の町は獣人や亜人、闇の種族も多く住んでます。
でも、みんな幸せに暮らせるようにしてやりたいんです。だから……」
「勿論君の町の事は、しばらく伏せる事になる。
安全である事を確認し、私の信頼出来る総督から説得していけば、何れ交流が
結べると私は確信している。何せ君は……暖かい。本来なら縛り付けて我が家
を継いでもらいたい程にだ」
「……やっぱり思っていた通り、おじい様に気に入られてしまったね」
「そう言えば、グレンさんが跡取りというわけではないんですか? もし
グレンさんが跡取りなら困るでしょう? レオさんが跡取りなのか?」
「跡取りなら既に会っているはずだよ、ルイン殿」

 はて……俺がここで知り合った顔は多くない。
 後は……そうか! あの時鉱道で俺を見ていた人か。
 門前で会った後、レオさんとどこかへ行ってしまったけど。

「ゴラドは未だ経験不足。ランスロットの跡を継ぐのは随分先になるだろうね。
彼はまだ、伝書の力に耐えられないだろう」
「伝書の力に耐える……資質のようなものが必要なんですか?」

 だとするなら、俺にその資質があるのだろうか。
 ……と考えていたら、モジョコがとても眠そうな顔をしていた。
 無理もない。もうじき深夜になる。
 グレンさんにお願いして、モジョコを寝かせつけに行ってもらう。

 残ったのは俺とランスロットさんだけだ。
 この人は、眠そうな素振りなど全く見えない。

「すまないね。君も疲れているだろうに。そろそろお休みになるかね?」
「いえ。もう少し……伝書について確認したいんです。俺が図書館で見た
本の内容は正しいのでしょうか?」
「ふむ。君は伝書の力を発現させたいのかね。伝書はもし三つ以上発現させ
ようとすると、体が飛散してしまうと言われている。その伝書を一度読み
解けば、その者が息絶えるまで効果は永続し、破棄する方法は無い。
それでも発見した伝書を読み解くかね?」
「ええ。一つも会得していないですし、用いてみないとわかりません。
俺には……守るべき対象が多くなった。今や、守るべき対象の方が強い者も
いるかもしれません。俺の中にはもう一つ強い力が眠ってます。でも、俺は
こいつも守ってやりたいんです」
「……そうか。ならば君に、伝書の解読を行うための方法を教えよう」
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