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第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十話 少し匂う牢屋

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 謎の集団に襲われた俺は、ナチュカが引く乗り物に乗せられ、一時間
程経過したところで担がれて降ろされた。
 寝たふりをするのって結構難しい。
 今のところ装備を略奪されたり、捕縄されたりはしていない。
 
「おい手伝ってくれよ。一人じゃ抱えるの大変だ」
「今行く。少し待ってろ」

 さて、どうしたものか……俺一人抱えてられない程度であるなら
秒殺は可能だろう。
 だがそれではあっという間に指名手配の人殺しだ。
 ……やっぱ大人しく捕まったフリをするしかないのかな。
 どうにかして脱出し、モジョコを連れてベリアルに頼み、一気に移動
を……いや、ベリアルの様子はおかしかった。
 あいつはなぜか、地上だと長く活動できないみたいだ。
 幻魔界にいた時は全然平気そうだったのに。
 ……理由などが明白じゃないからわからないけど、ベリアルの力を頼るべき
じゃない。
 俺の移動速度でも速く離脱はできると思うが、またデバイスモンスターと
やらに襲われたら洒落にならない。
 
 どうにか穏便にやり過ごす方法はないものかね……。

「おい、こいつ縛ってないじゃないか。いいのか?」
「まだ罪人と決まったわけじゃない。だが、捕えろと言われた人物は
こいつで間違いなさそうってんで、急ぎで捕らえに向かったんだよ。
捕らえるだけで、外は一切何もするなと言われている」
「おいおい、随分とやばい命令だな。俺は関わりたくないから、他の
奴に手伝わせろ」
「なんだよ、俺一人で牢屋に放り込むの大変なんだから、それくらい
手伝ってくれてもいいだろ?」
「やなこった。それじゃあな」
「ちっ。おいそっちのやつ! 手伝ってくれ!」

 ……なんで俺を運ぶ役割だけで断られてるんだ、こいつは。
 統制が取れてない団体だな。
 運ぶならさっさと運んで一人にしてくれ。
 抜け出せないだろ。

 ――もう一人呼ばれた奴は文句を言わず運ぶのを手伝いだす。
 今度は足と体を持たれて空中に浮かせられた。
 異世界でこんな運び方をされるとは。救急隊員に救急車で担がれた
時を思い出す。。

 ブラブラと体を揺らしながら、どこかへ運ばれていく俺。
 外傷を与えられたり、物を盗られたりしないのであれば……このままが
最善だろう。


 ――しばらくして、硬い地面にどさりと降ろされた。
 地面は冷たいし、何か少し匂う場所だ……。

「ふぅー。後は報告するだけだ。ちゃんと取り分は渡すよ」
「にしても、本当にいいのか? あの杖とかも取り上げなくて。魔術師の杖だろう?」
「いいんだと。この牢屋ならきっと大丈夫だろ……二本程捨てて来ちゃったんだよ。
勿体なかったな」

 ……歩きながら話しているのか、そいつらの会話がどんどん遠ざかっていく。

 よし! ……薄目でゆっくり周囲を見渡す。
 ほのかに明かりがある薄暗い部屋だ。
 鉄格子の牢の中ってわけじゃない。しかし窓などがない銀色の部屋……か。
 間違いなく扱いとしては牢屋だろう。
 大きめの銀色の扉はあるが、ドアノブのようなものがない。
 ぴったりと壁に挟まれた、まるで絵のような扉だ。
 あの男たちの声からして、防音もばっちりってところかな。

「さて、どうするかねぇ……エルバノ、プリマ」
「ぎゃーははははは! お主、見事に捕まっておったのう。
あんなやつら、全滅させるのは容易いじゃろうに。何が狙いじゃ? 
なんなら今からわしが全員退治してきてもいいかの?」
「プリマ、お腹空いたな。早く家に帰ろう。エンシュと
ロブロードもやりたいし。冒険飽きたぞ」
「二人とも……大人しくしててくれたら、買った土産
ちゃんとあげるから」
「むむ。ならば大人しくしておるかの。しかしおぬしは本当気をつけておっても
狙われるのう」
「えー。プリマはお土産よりもう帰りたいぞ」
「新しいロブロードのピースを、エーナに頼んでやるから。な?」
「それなら協力してやる! 何でも!」

 ……プリマは案外ちょろい。
 エルバノは酒の前ではもっとちょろい。
 
 二人に協力を正式に仰いだので、壁に寄りかかる姿勢をとる。
 ……眠りから目覚めてどうにか壁に寄りかかった……という姿勢作り。
 ここからは演技が大事だろう。
 
 俺を捕らえた奴の犯人を考える。
 候補を挙げてみると……まずは貧困層の物盗りを考えたが、この説は消えた
といってもいい。
 杖三本のうち二本を捨てていった。
 盗みが目的なら俺が所有している全ての売却できそうなものを盗むだろう。
 打ち捨てていったら簡単に痕跡が残る。
 
 鉱道で知り合った、また俺に直ぐ会う事になるといっていた男。
 こちらの採掘を見ていたゴラド……だったか。
 こいつはどうだろうか。
 俺の動きを見ていたなら、捕縛はする……か? 
 それとも、レオが俺を狙っていた可能性はどうだろうか。
 こちらへ向かわせて、捕縛を試みる……だが、考え辛い。
 危険な思想の人物とは到底思えなかったし、レオはグレンさんの親族。
 モジョコをしっかり見てくれているグレンさんが、そのような行動にでるのはおかしい。

 それ以外だと、レンブランド・カーィ。
 この人が俺の所有するアーティファクトを狙って……だが、知り合った直後から
そんな怪しい動きは見せていない。

 他にも常闇のカイナの可能性、ライデンの可能性、ロキの可能性などを考えた。
 しかしどれも辻褄が合わない。
 ……もしかしたらと考えていた時だった。
 外からの足音が、わずかに部屋へ聞こえてきた。

「ここに入れてあります」
「ご苦労」

 ……知らない声だ。若い男の声だろう。
 こいつが命令したやつなのか。
 果たして、一体誰だ……。
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