上 下
855 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百六十九話 急襲

しおりを挟む
 鍛冶屋から外へ出た俺は、一通り装備品を収納して……歩き出してから直ぐに、異常事態
であることに気付いた。
 先ほどまでは何一つターゲットに反応は無かった。
 つまり外に出た瞬間狙われたようだ。
 おまけに霧のようなものまで出てきた。
 これはまずい……が、ここで暴れるわけにはいかない。

「……プリマ、エルバノ、パモ。何が起こってもじっとしててくれ。
狙われてる。俺の命が落ちるような状況になりそうだったら、その時は手助けを頼む」

 返事は無いが、きっと把握してくれただろう。
 ターゲットに反応している数が多い。
 こちらを狙ってきているのは恐らく……人だ。
 こんなところで斬りあったら、町中で殺人者として認定される。
 それだけは避けたい。
 なるべく穏便にやり過ごさないと……くそ、鍛冶屋によらず、真っすぐ帰るべきだった。
 いや、むしろ見破られた事によって装備を収納できたのは不幸中の幸いかもしれない。
 とはいってもエルバノの手甲やベルトは収納してない。
 さっきの三本の杖に、錆びたナイフも所持したままだ。
 ……直ぐに攻撃をしてこないところを見ると、こちらの様子を伺っているのだろう。
 
 どうしたものか……ひとまず宿の方へ向かうのはまずいだろう。
 どこか一本道になるような道はあったか? 

 ……思案しながらも、気づいてないフリをして歩く。
 あちら側の足音などはちゃんと聞こえる。つまり暗殺者などの類じゃない。
 そうすると、あの家紋のうちのどれかの集団……権力者のうちのどれか……か? 

 この場所からは入り口の門が近い。そちらに回れば門番や入国用の人がいるかもしれない。
 そこまで向かって助けを求める……か……あれ、何か違和感が。

 何……だ……意識が……何か、されたの……。

「よし、運べ」
「こんな人数必要だったんですか? ただの人間に見えますけど」


 ……突然頭の中で、何かが兒玉するように聞こえた。
神の加護セイキ プロスタシア

 ――なんだ今のは。急に眠気が来て……いや、起き上がるべきじゃない。
 意識ははっきりしてる。どうやら眠らされたようだ。
 ここらに漂ってたのは、霧じゃなく周囲に散布された眠り薬か何かの類か。
 用意周到なことだ。つまり計画的に確実にさらうための方法だろう。
 危なかった……。

 ここで起き上がり、振り切って逃げる事も可能かもしれないが、それは安全とはいえない。
 モジョコはきっと、グレンさんがついてくれている。あちらは大丈夫だと信じよう。
 今は、大人しく捕まってやるか。
 ……こんな風に捕まるのは久しぶりだな。
 よくわからない男二人に担がれる。
 目を閉じているからはっきりとはわからないが、背丈は俺位。
 声も聞いた事が無い声だ。
 さて、一体どこへいこうというのかね。

「この杖二本、どうします?」
「その辺に捨てておけ」
「もったいないな……でも足がつくか。どうせこいつ、処理されるんじゃないんですか?」
「さぁな。命令に従っただけだ。罪人じゃなかった場合、その所有物を盗難
したらお前が捕まるぞ」
「へいへい。打ち捨てておけば問題無いですね」
「さっさと連れて行くぞ。他の奴は持ち場に戻らせろ。急げ」

 どうやら予測通りか……ターゲットの反応は消えた。 
 しかし……もう少し丁寧に扱ってくれないかな。
 無実の罪で捕らえたら、本来ただじゃすまないだろ? 統治国家なら。
 ……いや、しかし。グレンさんやレオさんの反応からして、前世のような
統治国家とは違うか。
 例え法で統治されている国だとしても、権力者はもみ消す算段に長けている。
 これは、洒落にならないかもしれない。
 
 ずるずると体を引きずられた後、何かに乗せられた。
 運び込んだ奴もそれに乗りこむ。
 まさか……町の外に出るつもりか? 
 それならば好都合だ。理不尽な暴力に対して、何もできないわけじゃない。
 もし町を出た気配がしたら、そこで抜け出す事は可能だ。
 
「ピキュアー!」

 ……今のはナチュカの声だ。
 ナチュカに引かせる乗り物? 馬車のようなものか。
 そうすると……図書館へ向かう方面にあった道か? 
 移動している経路、方向……思い出せ。見えてなかった俺なら出来るはずだ。
 倒れた位置、担がれて乗せられ、走り出した方向……間違いない。
 図書館からの帰りに使用した道のはずだ。
 つまり、治安が悪そうだと感じた方向と一緒だ。

 どうせなら治安の悪いエリアについても確認しておくべきだった。
 もし町の外に出るんだったら、こいつらの意識だけ刈り取り、モジョコを
連れてダッシュで逃げれたかもしれないのに。
 
 ……いや、暴れるなら目的や場所などを確かめてからでも遅くはない。
 仮に相手が襲ってきても、グレンさんやレオさんが隊長格とするなら、俺に倒せない
相手じゃない。

 落ち着け……冷静に周囲を把握しろ。慌てるな……シーザー師匠の修業を思い出せ。
 少し、力に頼りすぎて、ぬるま湯に浸りすぎだ……。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...