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第五章 親愛なるものたちのために

第七百六十三話 素晴らしい採掘道具

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「ちょうどこの辺りです。手紙にあった通り、掘り出された鉱石の類は全てルインさんの物となります」
「ありがとう。ここからは一人で大丈夫だ」
「いえ。折角なので拝見させてください。レオが一目置くあなたを見てみたくて」
「あまり見世物になるのは好きじゃないんだが……管理されている場所じゃ仕方ないか」

 案内された場所は整備されているが、無数の穴が開いた崖下のような場所。広さとしては畳百枚以上は
あるだろう。
 渡された道具はつるはしもあるが、ロックピックハンマー、それからドリルのような形状をした道具だ。
 これを作れるって事は……かなり腕のいい鍛冶師が近くにいるということか。
 アースガルズでも思ったのだが、この大陸の文明は進んでいる。
 東側の方が機械的文明は劣ると思っていたが……アースガルズがあの状態では機械類は諦めていた。
 ここでなら十分手に入るかもしれない。

「この道具、どこかの町で仕入れたものか?」
「いや、この町の鍛冶師が作ったものですよ。いいものでしょう? 道具は後で返して頂きます」
「こんな素晴らしい道具、もらうなんて考えていないさ。相当高くつくだろう。
しかしつるはしでは削り辛いな。ロックピックハンマーもその鍛冶屋で?」
「ええ。道具は全て、鍛冶屋任せです。我が国の主力商品ですよ」


 まずはロックピックハンマーから使ってみる。
 美しい銀色の光沢を放つハンマーで、こいつは地脈調査などにも持ってこいだ。
 現在アナライズが使えない俺でもわかる。こいつは間違いなく特級品だろう。
 そして、これにも剣と馬のマークが施されている。
 見事な刻印の施しよう。文句のつけようがない程精工だ。

「手に馴染むようだ……どんどん掘れる」
「普通そんなに直ぐには掘れないんですけどね。どうです? うちの専属になりません?」
「いや。忙しい身でね。遠慮するよ……一つ取れたな。これがベルゼレン奇石か?」
「いえいえ、それはアールガンダイト鉱石。この国じゃよく出土される鉱石の一つです。そんな簡単に
掘れたら苦労しませんよ」

 黒色のようないびつな鉱石がとれたのだが、どうやらこれは違うらしい。
 ならばもっと、効率を上げよう。こちらも忙しい身の上なんで……ね。
 あんまり見せたくはないが、密かに神魔解放を行う。
 感覚が引き上げられ、身体能力も跳ね上がる。
 なんとなくこの辺にありそう……という感覚も同時に引き上げられる。
 場所を移動して、鉱石が密集していそうな場所ではなく、土質が変わる場所にロックピックハンマーを当て、掘っていく。より深いところを掘る必要もあるはずだ。そうでなければこのドリルのような物を持ってきた
意味がない。
 手前を削り出していくつか鉱石を取り出した後、ドリルをねじ込み一気に打ち付けた。
 カツンカツンと奥にねじ込まれていき、深々と突き刺さったところで思い切り引き抜くと、ボロっと
奥の方から取り出されたものがある。
 
「これは……キラキラしていて綺麗な透明の石。まるでダイヤのようだが……これか?」
「……あはは。開始して一刻も経たずに掘り出してしまいましたか……しかもかなり大きい」
「いや、もう三つ同じものが奥にある。よいしょ……っと」
「いっぺんに四つですか……」
「他にも青色の石もあるな。これもいいのか?」
「ええ。取り出したものは全てです。今搬入用の入れ物を持ってきます。お一人で持ちきれますかね」
「えーと、取りに行ってくれている間に工夫してみるよ」
「わかりました。少々お待ちください」

 ゴラドがその場を離れた隙に、ベルゼレン奇石以外の殆どの鉱石をパモに預けた。
 よし……これなら余裕で持ち帰れるな。
 さすがに突っ込まれそうだけど、体のどこかに収納したことにしておこう。

「おや? 随分と収納されたようですね。こちらの袋をお使いください」
「ありがとう。助かるよ」
「あなたのような腕のいい採掘師を見逃すなんて実に勿体ないですね……」
「俺、採掘師じゃないんだけどね……すまない、まだこの後用事があるんだ。機会があればまた会おう」
「いえ。きっと直ぐ会う事になりますよ。ルインさん」
「? 見送りにでも来てくれるのか? 悪いがこの町に滞在するのは今日までなんだよ」
「いえ。そういうことではなく。それではお気をつけて」

 妙な台詞を残し、笑って見送られた。
 ゴラドは一体何が言いたかったのだろうか。
 しかし目的のものは手に入った。
 これをアルカーンさんに渡せば目的は達成だな。
 そもそもアルカーンさんの依頼を受けたのにはちゃんと理由がある。
 俺自身がアルカーンさんに大切なお願いをしているからだ。
 
「しかし随分と遠回りをしたな……メルザ、ブレディー。もうじき、会えるかな……」

 外へ出て壁に背を預け、しばし空を見上げていた。
 たったの半年。なのに俺には数十年の歳月を感じずにはいられなかった。
 あいつの笑顔、どんなだったかな。
 もうそれすらも忘れかけている。
 俺はあいつの思う俺のまま、生きられているのだろうか。
 
「そうだ。多く取れたしこの石でプレゼントを作れないか考えよう。鍛冶屋もあるんだったな……」
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