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第五章 親愛なるものたちのために

第七百六十一話 ジパルノグの町の地図

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 ――翌朝、モジョコに薬を飲ませる。
 十分に元気になってきたようだ。
 朝食も少し控えめにするように伝えられており、薬で必要な栄養源の補給をさせた。
 確かビタミンB群の不足による昏睡の症状も出ていたのだろう。
 本当によく眠っていたから、こちらにも気づいてやるべきだった。

「ルインお兄ちゃん、もう元気になったから大丈夫なの。今日から、忙しいんでしょ? 
モジョコ、ちゃんと待ってるの」
「置いて行かないでとはもう言わないんだな。偉いぞ。今日はミットと沢山話してみるといい。
それと、もし手伝えそうな事があったら手伝ってみたらどうだ? 女将さんと
ミットには俺からモジョコの目の事については話しておいた。ちゃんと気を遣って
くれると思う」
「うん。やってみるの。モジョコにはちゃんと、ルインお兄ちゃんがいるから」
「俺だけじゃない。きっとグレンさんだって気をかけてくれる。案内が終わったらきっと、モジョコ
のところへ顔を出すだろうな」
「グレンお姉ちゃんが? どうして?」
「それは、モジョコを可愛いと思ってみているからだろう。お前がぐったり
している時、随分と心配してたんだ。元気な顔を見せてやればきっと喜ぶだろ……うん?」

 と、モジョコと話をしていたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
 あれ? 朝食に何か忘れ物でもあったのだろうか。
 本来なら食事処で食べるのだが、モジョコに気を遣って今朝の食事は部屋まで持ってきてくれたのだ。

「こほん。ルインさん、グレンだ。朝早くからすまない……その、入ってもいいだろうか」
「ああ。鍵はかかっていない。入って来てくれて構わないが、随分早いな」
「その……心配で」

 グレンさんが室内に入ると……どう考えても寝ていない顔だ。
 これはもしかして、心配で眠れなかったのだろうか。

「お早うグレンさん」
「お早うグレンお姉ちゃん。昨日は心配かけてごめんなさい」
「よかった、目を覚ましたんだ。心配したぞ、とっても」

 モジョコに近づき頭を撫でてやるグレンさん。これはすっかりお母さんだな。
 
「それにしても顔色が悪いぞグレンさん。あんた、寝てないだろう? 場所とか
教えてくれれば俺一人で出かけてくるから、モジョコの傍にいてあげてくれないか?」
「いや、しかし……案内すると約束が。これではお礼をしたことにならない」
「いや? 俺は物さえ手に入ればその工程はどうでもいいんだ。採掘場に行けば
問題なく人に案内してもらえそうか?」
「ああ。これを渡せば採掘は出来る。これが代金代わりにもなるし証明にもなるんだ」
「このブローチは……随分高そうなブローチだな」
「ベルゼレン奇石は我が家系が管理している貴重な石でね。それに
挟んでいる紙は私の実筆で書かれたものがある。でも……図書館にも案内もせず、一人で行かせる
のは……」
「いやいいんだ。モジョコと、それにミットと留守番しててくれ。ついでに借りているという本も
返却しておこうか? それと眠いならベッドで寝ててもいい。その方がモジョコも安心だろう?」
「うん。グレンお姉ちゃんとお昼寝して待ってるの」
「そうか? 何から何まで有難すぎる……逆にお礼を返さないといけないようだ。
子供を一人にしておくわけにもいかないだろうし……ではすまないがそれを
持ってベルゼレン鉱道へ向かってくれ」
「女将さんに地図をもらったんだが、どのあたりかだけ教えてくれるか?」

 地図を見せると、ついでに図書館の位置、マーグ医院も囲んでもらった。
 これで道に迷わずに行ける。
 出かける前に地図をちゃんと確認していくか。

 テーブルの上で広げられた地図にはいくつも施設が記されている。
 しっかりと書きこまれた地図だ。前世ではあるまいし、こういった町の地図を作るのは
大変だっただろう。
 いや、本来なら前世でも、とても大変な作業のはず。
 人の労のなせる業だろうな。

 さて、まず現在地は分け明かりの宿。昨日入って来た門から直進した場所にある宿だ。
 周囲は商店が並び、様々な物が売っているようだ。
 ここから直進して町を抜けると、不快魚の森という大きな森があるようだ。
 更にそこを抜けて進んだ先に分かれ道があり、片方は魔王城へと通じているようだ。
 これが友好関係にある魔王の城へと通じている道なら、国交が開いているというのはこの部分。
 つまり管理されている森なのだろう。
 それにしては不吉な名前だが……。
 採掘場となっている場所はこの分け明かりの宿からずっと東へ進んだ先。
 図書館は真逆の西だ。
 一度採掘をしたら戻って図書館へ向かうという流れかな。
 ついでに土産も買っていかないとならない。
 いや……土産を先に買っていくか。
 ミットへのお礼も含めて。
 グレンさんが残ってくれたからパモも連れてこれたし。
 先に商店街をチェックしよう。

「……よし。一通りわかった。後はこの国の統治関連や制作関連なんかの話も聞けると
嬉しいな」
「今日は宿泊していくのだろう? それなら夜にでも」
「それは有難いが、仕事は平気なのか?」
「ああ。昨日はモンスターに襲われて
それどころではなかっただろうが、物資の到着があまりにも遅い件について確認をしたんだ。
そうしたら……到着完了報告だけされていたことが発覚してね。
急ぎ文をしたためてレオに届けているところだ。
夜にはレオからの返事があるから、それの報告も兼ねてもう一度夜に落ち合いたいんだ」
「わかった。道中それらしいものと遭遇しなかったからおかしいとは思ったんだが……モンスター
にやられたとかでなければ、それはそれでよかったんじゃないか?」
「そうだな……いや、報告内容はあまりよいものではなかった。おじいさまも
きっとお怒りに……」
「そういえば気になっていたんだが、グレンのおじい様というのは権力者なのか?」
「えっと……どう説明したらいいか……それも今夜話すとしよう。あまり時間を
取らせてもよくないだろう?」
「それもそうか。それより酷いクマになりつつある。ちゃんと寝た方がいいぞ?」
「え? クマ? 私の顔にか?」
「ああ。鏡代わりになりそうなものは……ほら」

 桶に張った水を差しだすと、自分の顔に愕然とするグレンさん。
 それもモジョコを思っての事だ。笑ってはいけない。

「そうだもう一つ……この国に腕のいい鍛冶屋はいないか? この錆びてしまった
短剣をどうにかしたいんだ」
「うう……それならアボスのお店だ。それも印をつけておくよ……」
「グレンお姉ちゃん。モジョコと一緒に早くお休みするの」
「ああ……そうする。それじゃ気を付けて。後は採掘場の者に要領を聞いてくれ。
取れた鉱物は全て持っていってもらって構わない」
「それは助かる。それじゃ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。ルインお兄ちゃん」

 部屋を後にすると、女将さんとミットにも一言伝えて外に出た。
 町は既に活気よく動き始めている。
 天気も良く、この通りは人通りも多い。
 これほど人族だけ見る場所はこの世界に来て初めてだ。
 もしかしたら魔族も入っている者もいるかもしれないが……。
 まずは買い物を済ませよう。
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