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第五章 親愛なるものたちのために

第七百五十九話 疲労の原因

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  中央にある二本の剣を引き抜くと、それらの剣は音もなく燃え盛り、炎の揺らめきは
次第に強くなっていった。
 炎獣形態と化したベリアルは、後脚で勢いづけて突進する。
 いつものようにフェイントをかけながらではなく、一直線の突進。
 しかしその突進は、爆炎を伴い、デバイスモンスターやフールドランナー以上の加速を見せる。

エクリクシス爆炎進

 爆炎と共にデバイスモンスターの前輪部分を切り伏せると、プリマの戦っている騎兵の
部分へ突進する。
 武器を中央部分へ収納すると、燃え盛る手で騎兵のランス部分を引きちぎり、それを
プリマの方へ渡す。
 
「ふん。礼は言わないぞ。これはプリマの新しい武器にしてやる」
「ランスなんておめえに使えるのか」
「オゴオオオオオオオオ!」
「なんだこいつ、喋れるんじゃねえか。黙って襲ってきやがって。
まぁいい。こいつはもう動けねえし後はおめえらに任せるか」

 残った二本の腕で、ベリアルに攻撃を繰り出すが、燃え盛る手でそのまま受け止められる。
 前輪部分が大破しているが、後輪部分で動こうとする。だが、そちらは既に
エルバノにより切り落とされていた。

「やれやれ。一個でも潰れると動きが遅くなるのは欠陥じゃな」

 更に高く跳躍したプリマが、デバイスモンスターからもぎ取ったランスを手に持ち、上空高くから
騎兵部分へ目掛けてランスを突き刺すと、デバイスモンスターは動かなくなった。

「いい跳躍だ。死霊の力付きなら、とんでもねえな、おめえはよ」
「ふん。これくらい当然だ。こいつは封印しなくていいのか?」
「モンスターって名前はついてるが、こいつは封印できねえものが混じりすぎて
やがる。昔こいつと同じような奴が量産されて襲ってきやがってな。あのときゃ苦労したぜ」
「ふう……プリマは戻るぞ。急いで追いかけないといけないんじゃないのか」
「おう。エルバノも戻れ。この形態なら直ぐ追いつけるだろ。大分力は使っちまうからまた
眠らなきゃいけねえけど、まぁいいだろ。どうせしばらくは退屈な採掘だろ。俺には興味ねえからな」
「なんじゃ、お主はルインと違って細かい作業は苦手か?」
「苦手ってわけじゃねえ。だが、あんな肉体労働、よく好きでやりやがるな……とは思うけどな」
「ぎゃははは、それは言えておるのう。わしも同感じゃ」

 エルバノは手甲に戻り、プリマは取り憑くと、先ほどと同じようにエクリクシスで
進んでいく。
 
 本来は移動目的の技ではなく、かなり疲れる技だ。
 だが乗り物を招来して進むより格段に速く着く。

 しばらく爆炎を発しながら進んでいくと、より広い道へと変わっていった。

「確か旗が見えるとかいってやがったな。まだ見えねえか。
ちっ。余計な時間食っちまったせいで日が暮れてきやがったぜ」

 急ぎ前進するベリアル……だが途中で獣真化形態が切れる。
 
「やっぱ長くはもたねえな。まだまだ力が足りねえのか……?」

 旗はまだ見えないが、しばらく進んだところで一匹のナチュカが座って待っていた。

「ピキュアー!」
「なんだおめえ、俺を待っててくれたのか。いいやつじゃねえか。助かるぜ」
「ピキュア?」
「あん? おめえ、違いが判るのか。賢い奴だな。安心しろ、もうじき戻るぜ。
ちっとばかし無理やり起きたからまだ疲れてんだよ。しかしなんでこんな疲れやすいんだ……まるで
半分何かが足りねえみてえな……まさかタルタロスの野郎……」

 ドサリとその場に倒れこむベリアル。
 暫くして起き上がると、既にルインへ変わっていた。

「あいつ……地上で変わると長く活動出来ないのか? ……まだ俺もベリアルの事を把握していない。
けど、助かったよ。おかげで力をかなり温存できてる。ナチュカ。急いでジパルノグまで行こう」
「ピキュアー!」

 ナチュカに再び載り、進んでいくと辺りは暗くなっている。
 ルーニーにお願いして上空を飛んでもらい、旗を確かめる。

「ホロロロー」
「そうか。もうちょいってとこだな。ありがとう。ナチュカが夜目がきいてくれるから
助かるよ」
「ピキュアー」

 更に進む事数十分といったところだろう。巨大な門と辺り一帯を囲むような壁が目に入った。
 周囲を明るく照らす何かがあり、門前だけはとても明るくみえる。
 その門前には待ちくたびれた素振りも見せず、ナチュカの紐と少女の手を握る女性が居た。
 
「よかった……心配したぞ。戻らないようなら衛兵を何人か捜索に出させることも考えていたところだ」
「すまない。ええと……デバイスモンスターとかいうのに遭遇して」
「デバイスモンスター? それはどのような形のやつだ?」
「車輪ってわかるか? 下半身が機械で上部が人型のような騎兵をした……」
「エビルバーチャットに遭遇したのか? それは別名? 違う大陸の呼称か?」
「あ、ああ。デバイスモンスターというらしい。ええと……そう。昔兄貴に聞いたんだよははは……」

 エルバノの事は話してないので、うまくごまかすしかない。
 これならごまかせるだろうか……。

「そうだったのか。あれと遭遇してよく無事でいたな。
フールドランナーといい、どうやら見込み通りの男のようだ。ギオマ殿はそれより強いとなると、魔王
クラスの存在か?」
「ああ、えーと……そうだな……ギオマの兄貴ならきっと、もっと上かな……あーははは……」
「もっと上……もっと上か……はっ!? そうではなかった。少しモジョコの様子が変なんだ。
見てやってくれ。先ほどから急に口数が少なくなって」
「ルインお兄ちゃん? お帰りなさい……モジョコは、大丈夫なの」
「ああ、ただいま。モジョコ、嘘は良くないぞ。辛いときはちゃんと伝えないとわからない。
どこか、痛むか? 熱は……少しあるな。俺が担いで行こう。すまなかったグレンさん」
「いや、その……私としては嬉しかったというか、モジョコといる間は楽しいというかその……入国手続きを
急いで済ませて、今日は宿に泊まるといい。明日、宿を訪ねるから」
「わかった」

 モジョコを担ぎ、ナチュカを連れて門前まで行くと、無言で門を開いて敬礼される。
 既に話は通してくれていたのだろう。
 
 門は直ぐ閉まると、入って直ぐに左右から光のようなものを照射された。

「うっ……眩しいな。これは?」
「浄化の光といって、解毒作用のある光だ。入国には必ず必要でね。
伝えて無くてすまない」

 そのまま受付となる場所で書類を書きつつ、レオに書いてもらった入国許可証を見せる。
 驚いた事に、この紙があれば入国費用はかからないようだ。
 それにしても……「解毒をしてもらえるのは有難い。でも、モジョコの調子はよくならないな」
「念のため医者も呼んでおこうと思うが、手持ちはあるか?」
「ああ。金貨ならそこそこはある。呼んでおいてくれ」
「モジョコ、大丈夫なの。お金使うと、怒られるから」
「お金ってのは使うために存在するんだぞ。それでモジョコが楽になるなら、使えばいい。
それに使ったらまた稼げばいいんだ。こないだモジョコが手伝ってくれた鉱石を削るのだって、そうやって
手に入るお金なんだ」
「本当? じゃあモジョコ、一杯削るの」
「宿はこの通りを真っすぐ進んだ左手にある分け明かりの宿がいい。光を二つに割ったような
照明が目印だ。そちらにルインさん宛ての医者も手配しておく。それではまた明日。
モジョコも」
「うん。グレンお姉ちゃん、また明日ね」
「はう……ああ。また明日だ」

 どうやらすっかりグレンには気を許したようだ。
 モジョコを担いだまま、道なりに真っすぐ進んでいくと、確かに光りが二つに割れたような
照明器具が外に飾られたお店があった。

「ここが、分け明かりの宿か……今日はもう暗いし、明日の朝ゆっくり町を見てみるとしよう」
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