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第五章 親愛なるものたちのために

第七百五十四話 ルイン、初めてナチャカへ騎乗

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 中央のテントを後にしたルインは、入り口の大きなテントのある場所へと急いだ。
 確かに一際大きいテントが入り口方面の端にあり、そちらへ向かうと微かに泣き声の
ような声が聞こえた。

「ピキュア?」
「……家畜っぽいような匂いがするからここであってるよな。レオさん、いるか?」
「……はーい。待ってましたよ。どうぞ入ってください……おっとっと」

 一際大きいテントに入ると、中は広々としている。設営するのは大変だっただろう。
 テントの中にはそこら中にマルクタイト鉱石を入れたランタンがある。
 ここで多くのマルクタイト鉱石を使用するんだな。

 それにしても……ナチャカというのを初めて目の当たりにするが、これは確かに面白い動物だ。
 体長は一メートル程だろうか。もっふもふの毛並みはサイベリアン
そっくりで、耳は狐のようにぴんと立っている。体つきはがっしりしたチーターのよう。
 いうなればもふもふ耳ピンな超大型チーターのような生物だ。

「これは随分と可愛いな。とても人気があるんじゃないか?」
「ええ。ナチャカは女性にも大人気で、飼いたがる人が多いんです。ただ、気難しく
気まぐれな性格で、餌もしっかりあげないと直ぐ機嫌を悪くするんですよ。扱いがとても
難しいんです。それで、途中で投げ出してしまう人も多くて」
「どう見てもネコ科だしな……気難しく気分屋なんて、まさにソレだな。
しかし、いい毛並みだ」
「綺麗好きでもありますからね。水で洗ってやると喜ぶんですよ」
「ほう。そこは猫科とは違うな。猫毛は水を弾きづらいから大抵水が苦手なのだが」
「どうです? 少し触ってみては。気になるのがいますか? この五匹の中のどれかに
試しに乗ってもらう予定なんですが」
「そうだな……」

 一通り見てみる。一番相性がよさそうなのは、こちらに興味をどれだけもっているか
で判別するといいんだが……どいつも俺に興味津々のようだ。やっぱ匂いとかで
わかるんだろう。それなら……「そのとびかかりそうなナチュカにしよう。
俺がここへ入る前に、泣いてたのはそのナチュカだろう」
「ピキュア!」
「よくわかりますね。こいつはなかなかに暴れん坊ですけど、いいんですか」
「遊びたくて仕方ないって感じがする。ちょうどいいだろう」
「それでは乗り方を説明します。訓練されたナチュカは右の手綱で前進、左の手綱で
停止します。右の毛を撫でてやると右へゆっくり曲がり、左の毛を撫でてやると
左へ旋回します。ジャンプするときは両足で軽くトンとやってやれば跳躍します。
後は……慣れですね。今外しますんで少々お待ちを……おわっ!」

 逃げ出さないようにする紐を外すと、あっという間に俺へとびかかって来た。
 訓練していてもいたずら好きは治らない。そんな感じだな。
 だが、かなりの巨体だ。しっかりと押さえつけられる力が無いと操れない。
 つまり小さい子供や細身の女性では難しいだろう。

「よーしいい子だ。これからお前の力を借りる、ルイン・ラインバウトだぞ。
よろしくな。えーと……人の騎乗物だから名前をつけるのはよくないな。道中よろしく
頼むよ」
「ピキュア!」

 片手で暴れるナチュカを抑えると、ぴたりと動きが止まった。
 どうやら十分な力を持つ者として認められたようだ。
 背中にまたがると、もっふもふの毛に包まれたソファーのような感覚だった。
 これなら鞍も必要ない。素晴らしい乗り物だ。

「どうですか、乗り心地は。動けそうですか?」
「いい乗り心地だ。右の手綱をゆっくり引くと……おお、歩き出した。
もう少し右に旋回してもらって……よし、その位置だ」

 ゆっくりと歩行してテントを出る俺とナチュカ。
 どれ、速度を上げてみようか。

「この辺りを少し走ろう。お前もテントの中にずっといて、体を動かしたかったんだろう?」
「ピキュア!」

 右の手綱をぐいっと引くと、機嫌よさそうにナチュカが走りだす。
 風を切ってご機嫌に走るナチュカの毛はふわふわと風になびき、地を走る雲の
ようだった。
 数分程走った後、再びテントまで戻って来ると、レオは驚愕していた。

「本当に初めてなんですよね。随分と手慣れているというか……」
「要領がわかればこれくらいは出来る。動物だって人と同じく生き物なんだ。
感情もある。こいつの気持ちを考えてやればちゃんという事聞いてくれるさ」
「そういう人ばっかりだったらどれだけナチュカにもよかったことか。
結構酷い扱いする人もいるんですよ。これなら道中も大丈夫そうですね。
わっしは残ったこいつの管理をしないといけませんので、道はグレンが案内します。
道中気を付けて行ってきてください。餌の説明書きを書いてこいつに乗せておきます。
後で見ておいてください。物資が届き次第、わっしも向かいますんで」
「わかった。俺が騎乗していない時は、こいつはどうしたらいい?」
「顎を三回撫でてやって、ロープを適当な場所に結んでください。
それでここへ待機なのかっていうことが伝わりますから。それ以上撫でてると単に可愛がって
くれてるのかと思い、じゃれてくると思うので回数は間違えないように」
「そうか……よし。随分と賢いんだな。少しだけ休んでてくれ。直ぐ出発するからな」
「ピキュアー」
「すっかり気に入られたようですね。遊んでもらえてよかったな」
「ピキュアー……」
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