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第五章 親愛なるものたちのために

第七百四十九話 捨てられた少女

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 穴の中に手を伸ばすだけでは到底救い上げられないので、穴の中に降りた。
 この高さなら跳躍すれば這い上がれると思ったからだ。
 
 下へ降りると……わずかな窪みと多少の草、そしてスライムが一匹、そして……もう息も絶えそうな
小さな少女がいた。
 瞳に力はなく、命を諦めている。そんな表情だ。
 水は……このスライムがどうにかしていたのか? 
 食糧になるようなものは草しかない。よく生きていたな。

「あ……うぅ……あ、だ……れ」
「か細い声だ。これじゃ幾ら助けを呼んでも聞こえないな」
「もう、放って……おいて……もうちょっとで、死ぬから……」
「……理由を聞いてもいいか」
「だって……役立たずだから、私」

 その言葉を聞いた瞬間……自分を思い出した。
 捨てられた自分。死にたかった自分。
 なのに助けられた。
 あいつならどうするかわかってる。
 それが本当にいいのかわからない。
 俺はメルザと違って、不自由な所を治す能力は持っていない。
 だけど……。

「パモ。ここなら大丈夫だ。甘い飲み物を出してくれよ。即効で栄養補給が必要なんだ」
「ぱーみゅ!」
「ありがとう。いいからまずはこれを飲め。少し元気出るから。
俺に沢山話した後、死ぬかどうか決めても遅くはないだろう」

 少女の傍にいたスライムは、少女から離れない。
 これはもしかしたら召喚されたスライムか。 
 俺が少女に何かするのではと警戒しているのかもしれない。

「大丈夫だ。お前の主に危害を加えるつもりはない」
「ぱーみゅ!」
「……」

 少女へ近づき、頭を少しだけ起こすと、とっておきのジュースを飲ませてやった。
 ゆっくりと少しずつ飲ませると、わずかだが安らいだ表情となる。
 
「どうだ。うまいだろ? うちで造った特製メロンジュース……をいつのまにパモに
預けたんだあいつら……」
「ぱーみゅ」

 すると、少女の目から涙が溢れてくる。
 か細い声で、喉が痛いのか大きな声では泣けないようだ。

「なんで、私なんかに、こんな……貴重そうなものを……」
「さぁ。ただの通りすがりのお節介な奴だ。俺はこう教わった。
どんな人にも優しく接しろ。他人を傷つけるな。迷惑をかけるな……ってさ。
遠い昔の話だが、今でもそれは守ってる。それに……俺もお前と同じように
自分が役立たずだって思った事もある。その時手を差し伸べてくれた奴がいた。
俺もそうありたいと思った。それだけの話だ」

「でも、私は捨てられて……それで……」

 少女が泣き止むのを少し待つと、ようやく表情がかなりよくなる。
 メロンジュースの効果はばっちりだな。
 さて、あまり長く下にいるわけにもいかない。説得して連れ帰るか。

「俺の名前はルイン。そしてこっちがパモ」
「パ……モ? あなたは男の人なんだね」
「……そうか。いやすまない。お前、目が見えないのか」
「全部じゃない。ぼんやりと影がみえるの」
「弱視か。それなら俺と同じだったんだな……」
「弱視……? あなたも目が不自由なの?」
「今は違う。以前は……そうだった」
「そう……」
「俺の町には何も見えなくても楽しく生活してる子もいる。楽しく生きる方法はあるものだよ。
こんなところで死ぬなんて勿体ない」
「でも、私なんて何の役にも立たないし、いても迷惑なだけ。きっと捨てたくなる」
「それは俺にもブーメランなわけだが……大丈夫だ。お前がどのように生きたいか。
それを一緒に考えて、手助けしてやることは出来る」
「でも私、目が悪いだけじゃない。変な力があるから」
「変な力なら俺も持ってるんじゃないか? それも気にならないな」
「でも、私きっと、人間じゃない……」
「そうか。それも何の問題もないな。家はどこだったんだ?」
「わからない」
「お父さんと、お母さんは?」
「いない。叔母さんに育てられたの」
「参ったな。俺以上に身元不明か。無理もない。目が不自由だと景色もわからないよな。
それは俺にもよくわかる」
「私以外の目が不自由な人、初めて会った。だからなのかな。
なんか、嬉しくて、もうちょっとだけ生きてみようかなって。でも
私が死んでも悲しんでくれるひと、いないし」
「おいおい。その傍らに佇むスライムがいるだろ? そいつが水をくれたんじゃないのか?」
「うん。飲み物と食べれそうな草をこの子が。でもなんでだろう。
私、この子によくしたわけじゃないのに」
「まさか野良スライムだったのか!? どう見ても召喚獣のように懐いてるぞ」


 これは驚いた。天然のモンスターを操るどころか身の回りの世話をしてくれるなんて。
 自動でそんなこと、俺にだって出来ないぞ。
 この子については後で事情を聴くとして、念をおしておこう。

「これから上へ戻る。そこには人間二人と俺の仲間のちょっとだけ怖い大男が
一名いる。俺もその大男も普通の人間じゃない。
だが悪者じゃないから安心してくれ……あれ? こういうとなんか悪者みたいだな」
「わかった。ここで起きた事、秘密にする。メロンジュース? の話もしない」
「いい子だ。そうだ、名前くらいはあるだろう?」
「私はモジョコって呼ばれてた。なんかいっつももじもじしているように
見えたからって、叔母さんが言ってた」
「はぁ……なんという名前の付け方。性格も悪かったようだな。
いくぞモジョコ。上に言ったらちゃんとした食べ物があるか聞いてやる」
「うん。ありがとうお兄さん」

 やれやれ。鉱石を採掘にいったのに少女を連れ帰ることになろうとは。
 そうだな、これもアルカーンさんの責任だよな……。
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