上 下
829 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百四十三話 アルカイオスの思い

しおりを挟む
 泉から出てきた俺は、死霊族の思いを理解した。
 自分たちの先祖が思い描いた未来とは異なる未来が今の世界。
 だが絶対神は既にこの地を様々な生命が住まう世界として認識しているんじゃないのか? 
 俺が会った絶対神、イネービュとスキアラは少なくとも、魔族を受け入れているし共存している。

 よく思っていないのは恐らく、ネウスーフォなのだろう。
 それともう一柱、ウナスァーだったか。
 よくわからないのがベリアルが戦っていたあの情景だ……あいつはそんな昔から
生きていたのだろうか。
 聞いてみる必要はあるが、答えてくれるかどうかはわからないな。
 そして……ウガヤ。まさか元々は原初の幻魔だったのか? 
 それともただ、同じ名前なだけなのか。
 そういえば以前、アルカイオス幻魔をゲン神族という名称で語られていた記憶を見た。
 彼らは神に近しい存在だったのかもしれない。
 
「あなた様……あなた様」
「う……うう。ここは……」
「泉の中でございます。あなた様」
「お前……泣いているのか?」

 俺を揺り動かすアメーダ。その表情はいつも通りの笑顔だったが、紅色の瞳からは
絶え間なく涙がこぼれ落ちていた。
 アメーダの顔は……あの中に出てきた、シカリーの傍にいた少女に少し似ている。
 遠い祖先なのかもしれない。
 そういえばアメーダとシカリーの関係もよくわからない。
 どれほどの長い年月、死霊族として存在していたのかもしれない。
 けれど、いつも笑顔でいるアメーダは、確かに涙を流している。
 それも……変わらぬ笑顔のままで。

「わからないのでございます。ですが、あなた様の中に眠る幻魔の宝玉が、アメーダにも
同じ光景を見せてくれたのでございます。それは恐らく、シカリー様にも、或いは
他の死霊族の者にも見て取れたかもしれないのでございます。
やはりあなた様に眠る力は……ウガヤ様の者だったのでございますね……」
「ウガヤは幻獣、或いは神の部類だとずっと思っていた。
まさか、原初の幻魔だったのか……それでメルザにあんな力があったのか」
「恐らくは最後の生き残りのアルカイオス幻魔。そのお方に会う前にどうしても、私たちの
過去を知って欲しかったのでございます。そして……ウガヤと泉を紫苑で繋ぎ、得た物がございます」
「……その花が?」
「はい。この泉はかつてアルカイオス幻魔が戦果を逃れるために造った道のようなものでございます。
そしてこの花は……シカリー様が育てた花でございますから」
「あの時見た花がそれか。その隣にいたロギアという少女は……?」
「アメーダにはわからないのでございます……シカリー様の依頼はこれで達成でございます。
後はこの花をシカリー様に渡すだけでございます。ですがあなた様のそのお顔。
決意を露にされたようなお顔でございますね」
「ああ。俺は……あのカイオスという始祖の意見に賛成だ。
絶対神には絶対神の考えもあったのだろうが、先住民を根絶やしになどしていいはずがない。
イネービュに直接問いただしてみる。その方がより話を聞けるだろう」
「そうでございますね……シカリー様もイネービュには警戒せず接していた
ようでございますし……問題となるのはやはり……」
「地底だな。それでここから地底へと行ける……んだよな?」
「少々お時間はかかるのでございますが、この泉は特別なのでございます。
地底のある場所へ出る事が出来るのでございますよ」
「そうか。それなら……俺にしろベリアルにしろ、目的を達成できそうだ。
これから先暫くは……戦いの日々になるかもしれない。
アメーダには引き続き協力してもらえると助かる。
それに……子供も」
「そうでございますね。忙しくなるのでございます。
まずは泉を領域へ繋げますので、あなた様はお休みして欲しいのでございます」
「休むといってもまだ日は登ったところだろ……あれ? 何でもう日が沈む頃なんだ?」
「あなた様。泉で経過した時間は長かったのでございます」
「……あの泉での出来事はそんなに長かったんだな……わかった。
戻って休ませてもらう。アメーダも無理はしないように」

 泉から出て上空を見上げる。
 済んだ綺麗な世界。
 その世界は誰かの犠牲で成り立ったもの。
 それは、どの世界、どのような時代でも同じなのかもしれない。
 それでも世界は平等を求め、常に動いている。
 永劫続く安全安心な世界などない。
 だからこそそれを求め、暮らしていけるのかもしれない。


 ……よお。懐かしいもの、見せてくれたな。どうだったよ。みじめな俺の姿は。

「……やっぱりあれはベリアルだったのか。なぁ、教えてくれ。
お前が戦っていた場所は地底だろ? 地底を構築したのがネウスーフォだよな。
なぜあそこで戦っていたんだ?」

 簡単な話だ。俺は元々、絶対神側。
 気に入らねえ神に歯向かっただけだ。
 強制的なやり方に嫌気がさし、その許を離れた。
 俺たちはソロモンに立てこもり誓った。
 原初の幻魔側につく。
 たてつく奴らは容赦しねえ。魔族でも神でも関係ねえ。
 何も考えずぶち殺しまくる殺戮兵器になるつもりはネェとな。
 
 結果は……あの様だ。ざまぁねえだろうよ。
 だがな、俺たちは神の道具じゃねえ。
 どう生きようが、どう死のうが俺たちの勝手だ。
 だがよ、もう負けねえぜ。
 なにせ俺は、おめえっていう最強の魔族ったらしを手に入れたんだからな。
 ククク……本当に凄ぇやつだぜおめえは。

「よせよ。別に俺が凄いわけじゃない。俺がこう在るのはあいつに貰った力。
そして……あの時みたウガヤの力あってこそだ」

 まぁそりゃそうだな。あの女がいなけりゃとっくに俺たちお陀仏だったぜ。

「だからこそ、これからもちゃんと守ってやろう。俺たちの力で」

 ふん。言われなくてもわーってるよ。


 俺だけの力で守り切れるかわからない。
 だけどベリアル。お前のの力もあれば、残された原初の幻魔を
守ってやれる。
 俺はそう信じている。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...