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第五章 親愛なるものたちのために

第七百三十九話 魂吸竜のホムンクルス

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 ――――再び魂吸竜の許へ向かうと、上機嫌でエルバノと話をしていた。

「ぎゃっはっはっはっは。何千年もこんなとこにおって、ちともうろくしたんじゃないかぁ、お主」
「何をいうかァ! もうろくしておるのは貴様のほうだァ。あの時の軍買鬼は
わしの勝ちじゃったろうがァ!」
「引き分けじゃったろう? お主とわしの戦績は一緒じゃ。じゃから最後の試合を
何度しようとしても、腹が痛いと暴れとったじゃろう」
「うむう。あのような食あたりが起こるとは思わなかったからなァ。
まさに地獄とはああいうものをさすのだァ! 死んだら極楽だったぞォ」
「ぎゃっはっはっはっは! じゃがお主、なんでこんな手甲持っとったんじゃ?」
「わしを封印しにきた神の落とし物じゃァ。尻尾巻いて逃げていきよったがなァ。
さしづめそれで封印でもしようと思ったんだろうがァ。無駄な事だったなァ」
「ふぅーん。お主の魂の強さを考えれば、確かにこれ一つで封印は無理じゃな。
わしは封印されてしまったがな。ギャーッハッハッハッハ!」
「あのー、取り込み中悪いんだけど」
「おうルインではないか! 良いところに。爆酒、持ってきてくれんか? 
こやつと飲みたくてのう」
「矮小なる魔族よォ。まだ何か用事かァ?」
「だからあんたを封印するんだって。そのための準備をだな……ちなみに
この町事、移動させることになったからこの町を結界で覆う必要はもうなくなる。
ただ結界外が危険な状態らしいから、封印自体は一週間後になるかな」
「何ィ? 町事移動だとォ? つまり貴様はァ……死霊族を保護下に置くという
ことかァ?」
「……既に置いてるんだけど。シカリーも俺の町にいるし」
「ふうむ……いいだろう。先ほどの約束をたがえなければァ……封印されてやろう」
「お主、まっことこやつを封印するつもりか? 妖魔の封印であるならば、もう
二度と会う事叶わんか……」
「俺の封印は特別でね。特にしばりはない。自由に生きられる。だがサイズ的にでかすぎる。
その竜の体ってわけにはいかないんだろうな。後はベリアルに任せるよ」
「確かに我はァ。少々大きいがァ……」
「少々!? 少々じゃと? ギャーッハッハッハッハッハ! ばかでかいわ、あほう!」
「あほうだとォ! 貴様ァ! 消し炭にしてくれるゥ!」
「やめろって! んな事で喧嘩してる場合か! 少し大人しくしててくれよ。
爆酒っての、手配しとくから。後、魂吸竜なんて物騒な肩書だし、これからは
別の呼び方でよぶからな……なんて呼ぶのがいいかな」
「でかぶつで十分じゃろ。ぎゃーっはっはっはっは」
「そんな呼び名、呼び出す俺が恥ずかしいわ! ……ギオ・マ・ヒルドだし、やっぱギオマか?」
「うむ。我を呼ぶなら偉大なる魂吸竜ギオマと呼ぶがいいぞォ」
「ダメ。長い。ギオマね」
「うむう。こやつ、なかなかに実直なやつよォ……」
「なんじゃつまらんのう。もっと面白いあだ名をつけんかぁ!」
「ハクレイ老師じゃあるまいし……面白がってつけたあだ名で消滅させられたらどうすんだ! 
はぁ……んじゃベリアル。後は頼むぞ」

 クックック。俺ならでかぶつを選んだかもしれねぇな。
 さて……触媒もあるし始めるとするか。こいつをホムンクルスに入れておくだけなら
結界は消えねえだろ……だが、ベオルブイーターとやりあうならまだ、必要な駒があるな……。

 どれ……肉体はそうだな。魔族らしさと竜らしさを併せ持つ肉体。
 背は俺よりちょいでかいくらいにするか。
 空を飛べないと怒りそうだから翼はいるだろうな。
 後は……そうだな。瞳の色はやっぱ黒だな。
 角は邪魔だからいらねえ。牙もいらねえな。多少は尖らせておくのもいいか。
 髪は威嚇にもなるし伸ばすか。これも黒だな。
 よし、なかなかいい感じじゃねえか。

「できたぞ」
「早いな! もうできおったのか? どれどれ……お主、これは少々格好良くしすぎでは
ないか?」
「おお。矮小なる魔族だが、これならば入ってやっても良いぞォ。精工なものは
好きだからなァ」
「ああそうだ。依り代はこの石。言っとくが神話級アーティファクトを依り代に
すりゃ、そのアーティファクトの力を使えるようになる。俺の仲間にも託したヤツがいてな。
まだ使いこなせてねえが……サーシュは化けるぜ。四幻の中でもな。クックック」
「悪い笑い方をするのう。じゃが、お主はどう見ても悪にそまっておるようにみえんのが
不思議じゃのう」
「別に悪さをして回ってたわけじゃねえ。ちょいとプライドが高いせいで敗北して
魂を作り替えられたまぬけな魔族……そんだけだ。準備はいいか? ギオマ」
「構わぬゥ。幾千年の時を得、ついに肉体を得ようとはァ。まずは……」

 巨大な姿を模していた竜が、跡形もなく消えていく。
 一つの大きな白く輝く塊だけがぽつりと残り……それがベリアルの構築した
肉体と、依り代となる石の上へと重なった。

「良い! 実にすがすがしい! この体なら味覚はあろうなァ? 美味い酒と飯だァ。早速食いにいくぞォ」
「ふう。これでも相当な魔を消費するんだぜ……改めてよろしく頼むぜ、ギオマ。
封印に関しては戻りながら詳しく説明してやるよ」
「ギャーッハッハッハッハ! 本当に人型魔族になりよったわ。これでついに、一発殴れるぞ! 
とーりゃっ!」
「無駄だァ。この形になっても実力差は歴然だァ」

 エルバノのとっさの攻撃を軽く躱して見せるギオマ。
 しかしどうやらただの攻撃ではなかったようだ。

「うむ。よく戻ってきたのう、我が遊び相手よ。
また一緒に遊ぶのじゃ!」
「ふむう。お主……退屈しておったんだなァ! グッハッハッハ」
「まだやる事が残ってるからな。わりいがちっと……宿まで、運んでくれ……」

 どさりと倒れるベリアル。
 巨大な魂を入れる器を作るのは相当大変だったようで、完全に意識を失った。
 
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