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第五章 親愛なるものたちのために

第七百三十三話 この先向かうべき場所は

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 ――――翌早朝。

「えいっ! はっ!」
「いいぞ。その間合いだ」
「先生。俺、間合いより斬撃を飛ばすやり方を覚えたいです」
「ダメだ。戦闘において大事なのは間合いの取り方。基本中の基本だ。
己の武器が刀で、自分の手の長さと刀を当てれる距離。これを無意識的に把握し続けなければならないんだ」
「なぜです? 踏み込んで切れば伸びますよね?」
「相手も踏み込んできたらどうする?」
「それは……ええと、こちらが一早く刀を出せば」
「では、少し下がって構えていろ。封剣!」
「なんでごじゃろ朝っぱらから……眠いでごじゃろ……」

 俺は早朝、エンシュの稽古に付き合っている。
 今日から本格的に訓練開始だ。
 まずは俺がシーザー師匠に習った基礎から。

「お前の抜刀術において、いかに間合いが大事かを教えてやろう。
エンシュから攻撃を仕掛けようとしてみろ。ここだと思う間合いで刀を振るう。
俺がどのタイミングで動くかは言わないぞ」
「わかりました! 行きます!」

 少し左右にフェイントをかけながら俺へと突っ込んでくるエンシュ。
 昔の自分を思い出すような踏み込み。当時の俺よりいい踏み込みだ。
 本来待ちのスタイルである抜刀術ならこんなことをする必要はないのだが。

 まだ刀を抜くには遠いと見ているようで、抜刀する素振りは見せていない。
 姿勢は低く、とにかく見づらい位置にいながら動くようにはなってきている。
 ちゃんと学習している証拠だ。細かいところまでは教えていないのに。

 俺はティソーナを前に出したまま、踏み込む姿勢だけを見せる。
 そして……エンシュが俺の懐に入ろうとしたタイミングで
後方に大きく踏み込んだ。

「えっ……」

 自分の間合いに入ったと思ったエンシュは抜刀しており、刀は当然空を切る。
 振りぬいているが故に大ぶり。急いで再び納刀しているのも見て取れる。
 その隙に今度は前方に大きく踏み込み、一気に間合いを詰める。

「こうなるわけだ」
「……参りました」

 当然あてるわけではないが、エンシュが俺の剣でばっさりきられる位置で
姿勢だけ作り、ぴたりと動きを止める。

「これでわかったか。間合いとは想定。
動かぬ者相手に間合いを図るんじゃない。相手が四方八方に動く事を想定して
間合いを図るんだ……まぁ何の手段も講じずに上空へ逃げるやつならいいカモだが」
「上空へはどうやって攻撃を? ……ああ、刀を投げるんですね」
「いやいや、それはない。そういった戦い方もあるにはあるが、相手にその刀を
取られたらおしまいだろう。空中は身動きがとれない。
なら着地地点を予測して待ち構えたり、着地地点に罠を設置すればいいだろう」
「そうか、それも間合いなんですね」
「そういうことだ。斬撃や術を行使するなら追撃するのもいいが、それは
回避されやすいからな。着地を狙うのが上等手段だ。空中に居続ける奴は、また違う対処に
なるだろうけどな……」
「わかりました。間合いの練習、がんばります!」
「さて、朝の修業はこれくらいにして今日は仕事を済ませるから俺は留守にする。
エルバノに酒鬼魔族の事を教わったらどうだ?」
「それが師匠も先生についていくみたいですよ? 俺はジュディさんと留守番ですね」
「プリマも置いていくつもりだけど、仲直りできるといいな」
「え、ええ。でも、話してくれるかな……」
「それはエンシュ次第だろう。プリマは食べ物とかが好きみたいだし、その辺りで
釣ってみるといいんじゃないか?」
「そうしてみます。ありがとうございました!」

 エンシュの肩に手を置き、宿に戻ると、遠目に見ていたラルダさんが
出迎えてくれた。

「あの子、プリマちゃんに気があるのかしらねぇ……うふふ、プリマちゃんはぁ、あげないわよぉ……」
「どうだろうな。プリマを傷つけてしまったことに責任を感じているのかもしれない。
それよりも俺たちは花を手向けに来たんだが、詳しい話をアメーダから聞いてないんだ。
アメーダはどこにいる?」
「アメーダちゃんなら、水浴びをしていて、もうじきもどるわぁ……王女様に憑いていたからぁ。
王女様の方はぁ、口呼びの儀式を行うんでしょぉ?」
「口呼びの儀式? それを行えば話せるようになるのか?」
「時間はかかるけどぉ。少しずつ話せるようになると思うわよぉ。口呼びはあなたが行うの
かしらぁ……」

 ……どうもわからないことが多いな。
 口呼びの儀式、手向けの花、ここで行う事を順を追って聞いていかないと。

 まずは……「お待たせしたのでございます。順序だててお話が必要でございますね」
「……」
「先読みされたな……王女様もご機嫌麗しゅう。出来れば簡潔にこれからの話を頼めるか」
「承知したのでございます。ではまず……」


 この町の象徴である魂吸竜ギオ・マ・ヒルドへの挨拶。そして
手向けの花をギオ・マ・ヒルドのいる場所の真裏へと供える許可をもらう。
 そこに群生するあるものを煎じて王女に飲ませ、何もない部屋で口呼びの儀式を
行うという。


 目的地へ向かうのは俺とアメーダ、プリマ、ミレーユ王女、エルバノの五人。
 そういやライラロさん、戻って来てないんじゃないか……? 
 また問題を起こしていそうで怖いな……。
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