上 下
800 / 1,085
第四章 シフティス大陸横断

第七百十七話 石碑を継ぐもの

しおりを挟む

「そうか……この地形、反射して同じ岩に見えるが、視界に見えるのは反射して映った他の岩か」
「その通りです。いい目を持ってるんですね……これも無機人族を知らない俺の無知のせいか……」

 エンシュの指示した箇所へ突進すると、確かにそのまま透過して先へ進めた。
 内部は黒い地面の道のままで、ヴァンピールの下位種が数匹いる。
 それらを薙ぎ払い先に進むと、少し開けた場所に出る。
 そこから右手に曲がり、登り坂を進むと……大きな石碑と広い空間の場所へ出た。
 ここで俺の行使した術も限界。コウテイたちに礼を言って別れを告げる。

「ここがお話していた九弦の洞穴入り口です。石碑の下に洞穴へ入る道があります」
「修業場所ってことはモンスターもいるってことか」
「ええ。先に進めば進むほど強力なモンスターがいます」
「あなた様……この方角ならもしかすると……洞穴というのはここから東方面へ繋がっているので
ございますか?」
「どうでしょう。俺の実力だと入り口で戦うのが精々で……」
「行ってみる価値はあるかもしれないのでございます。もしかしたら神兵に絡まれず、目的地へ
行けるかもしれないのでございます」
「その前に……ジュディ、限界だろ。お前のその神風を見る目……相当疲弊するようだな」

 コウテイに乗って前を進んでいたジュディは、既にコウテイへ寄りかかっているのが限界だった。
 急いでコウテイに駆け寄ると、ジュディを抱えて降ろす。

「ひとまず洞穴の中へ。アメーダはプリマを頼めるか」
「それなら俺がやります!」
「やめておけ。殴られるぞ。さっきも言っただろ? プライドが高いんだよ、プリマは。
そう簡単に許してはくれないだろうが、めげずに頑張るんだ」
「はい……」

 さて、九弦の洞穴とやらの中は……石碑の下と言っていたが、この巨大な石碑は何の石碑だ? 
 見た事が無い文字が刻まれている。
 入り口は見当たらないから、エンシュじゃないと開けないのだろうか。
 他の神兵は来ないと言っていたな……。

「ここは母さんの先祖を祭ってある場所なんです。
強い魔族でしたが、絶滅しました。
母さんの墓もこの中にあるんです」
「つまりエンシュの母の種族は、エンシュ以外もういないのか……」
「はい。でも寂しくはありません。強くなることが全てですから」
「……強さが全て……ね。今はそれでもいいか。それで、どうやって入るんだ?」

 エンシュは持っている太刀を石碑の窪みにはめると、石碑が上にスムーズに
動き、中へ入れるようになった。

「どうぞ。直ぐにしまりますから」

 エンシュに案内され、ジュディを担いだまま石碑の奥へと進んでいった。
 全員が入り終わるとエンシュは石碑がしまったことを確認する。
 内部は点々と明かりが灯っており、開けた空間となっている。
 入り口……といっていいかはわからないが、その空間には大きなテントが張ってあり、外には
火をたく場所もある。
 洞穴で火を焚いて平気か? と思ったが、奥の方の風通しはいいようで、風を感じられる。

「妙に生活環があるな」
「俺はここで暮らしてますから」
「一人でか?」
「はい。両親はどちらも死にました。村長からは月に一度招集があるので、それまではあちこちで
修業しています」
「神兵の村か。あの橋を管理しているのもエンシュの仲間なのか?」
「いいえ。あの橋はそもそも管理なんてされてません。
時期が良ければ偵察も必要ないんです。ただ……」
「神風が強いモンスターを呼び込む……でございますね」
「その通りです。だからこそ、月に一度招集がかかるんです。
戦士は少しずつ少なくなってます。このままだと、神兵の村も無くなります。
だから強くなりたいんです! 俺は村を守りたい!」

 エンシュの目的はなんとなくわかった。
 村に思い入れがあるんだな。
 父も母も無く一人修業にうちこむ毎日か……。
 なんだか、懐かしい。俺も必死だった。
 だが俺には守りたいと思うものは村や町の大勢の人なんて立派なものじゃない。
 メルザたった一人守れればそれでいい。 
 最初はそう考えていた。
 だがカカシやファナ、ニーメ、シュウやベルド、ベルディア、ミリル……皆思い思いに
違う目的で行動するやつらと知り合い、メルザだけを守ればいいという考えは変わっていった。

 守りたいものが増えた。失って恐れるものも増えた。
 だが、だからこそ……強くなったんだ。

「エンシュ。お前が守りたいものは何だ?」
「俺が……守りたいものですか? 俺は村を、この場所を守りたくて……」
「それはお前一人で守れる程、容易い場所なのか?」
「……だからもっと力を」
「どれほど強大な力をもってしても、守りきれない事はある。
圧倒的な物量の前に、自身だけの力はあまりにも無力だ。
そしてそれは、俺もそうだった。今でも自分が何人もいれば、あちこち駆けずり回っているだろう。
だが、俺は託す事にした。だから今、ここにいるんだ」
「ルイン先生。俺にはよくわかりません。それこそ絶対神のような強さがあれば、この村一つくらい
簡単に守れるでしょう?」
「……お前、全然わかってないな。絶対神なんてでくの坊だぞ。プリマの方が数倍強いに決まってる」
「あらあら。プリマ様、それは言い過ぎでございますよ。ですがあながち間違ってもいないのでございます」
「どういう……ことだ?」
「……立ち話もなんだろう。皆今日はここで休もう。エンシュ、テントは使えるのか? 
もし使えるなら借りたいんだが。ここの天井では神の空間が使えない」
「ええ。勿論です。そのためにここへお連れしたんです。ちゃんと非常食だってありますから」
「食事の心配はしなくてもいい。むしろ手を出すとアメーダの機嫌を損ねそうだからな……」

 エンシュとはもっと話しておく必要がある。
 ……いや、俺がそうしたいだけなのかもしれない。
 もっと早くから仲間を頼れれば……そんな後悔が俺にあるからこそ
エンシュを導いてやりたいのかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...