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第四章 シフティス大陸横断

第七百十話 ハーブを探しと見つけた探し物

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「この辺に生えてればいいんだが……お、あったぞ! しかも群生地だな」

 俺は薪を一通り集め終わると、氷を取りに行ったプリマと、ピールを連れて
ハーブを探していた。
 寒冷地でも育つ可能性があるハーブは決して多くはないが、あるにはある。
 まず見つけたのはセリ科。日本で有名なのはパセリだ。
 こいつは耐寒性に優れていて、寒冷地でも十分に根付く。
 次に見つけたのはゴマ……ではなくルッコラだ。ほぼ間違いなくルッコラだと
言えるわけではないのだが……味としては間違いないだろう。
 毒性があるかだけ確かめたいのだが、これはピールが役割を担ってくれる。

 さらに見つけたのはカモミール……のようなものの芽だ。
 これは茶を淹れてみる価値がありそうなので、アメーダに提供する。
 さらに次は低木へ注目すると……見まごう事なきその姿。
 ローズマリーで間違いないだろう。風通しの悪い低木に少しだけ実っているのが見えた。
 こいつは寒風にとても弱いが気温の低さをものともしない、冬場に強いハーブだ。

 ……パセリ、ローズマリー……セージとタイムがあればスカボロフェアーだな……。
 
「これ、全部食べれるのか?」
「おい。そのまま食うもんじゃないぞ。ただでさえメルザに似てるんだから、同じような
行動はとるなよ……」

 口に入れそうなプリマからささっとハーブを奪い取ると、ピールに匂いを嗅がせて
もう少し集める事にした。

 ピールは鼻がよく聞き、とても賢い。
 特に数が少ないローズマリーを探すと、もう少しだけ採取することができた。
 更に俺は……カカシから聞いていたあるものを探し、入手することに成功したのだ。

「これくらいでいいか。後は……パモ頼りだ。アレ、出してくれるか?」
「ぱーみゅ!」
「何だ? その赤いものが入ったやつ。食べ物?」
「これはな……カカシが丹精込めて作ってくれた、唐辛子とトマトだ。以前種を手に入れて
瓶詰にしてくれたんだ。こいつをこうじと混ぜて寝かせると、最高にうまいものになるんだが……今回の
使用用途はそれじゃない」
「おーい、言われた通り、肉類の獲物、取って来たぜ。本当に美味い物が食えるってーのか?」

 ジュディには肉を用立ててもらっていた。この辺りの狩猟には詳しくないし、現地のものに任せるのが
一番だ。
 後は……「あなた様、室内の準備、整っているのでございます」
「どうにも小屋でその呼び方は語弊が生じるな……」
「これはさばき甲斐のありそうなスノーグースでございますね……では」

 あっという間に室内に仕留めてきた獲物を持っていくアメーダ。
 そんなに料理が好きなのか……ルジリトとコンビを組ませたら、より豪勢な食事が
楽しめそうだな。
 あちらはうまくやってくれているだろうか。
 連絡を取るだけなら、アルカーンさん経由で取れないわけではない。
 しかしあちらも多忙、こちらも多忙だ。
 今はひと時の休息を楽しむとしよう。

「アメーダ。このカモミールの芽を使って茶を淹れてくれないか? 
本来は花を天日干しにしてから淹れる茶なんだが……」
「これを茶にでございますか? そうでございますね……これは確かに面白い香りがするので
ございます。よくご存知でございますね……そうでしたか、これは……」
「また頭の中を読んだな……他にもいくつかハーブと野草、野菜がある。
その肉を使わせてくれないか。温まるスープ類を作るから」
「あなた様、その役割はアメーダに……もう一つの方も気になるのではございますが」
「そうは言っても作り方わからないだろう? ……いや、そうか」

 満面の笑みを浮かべるアメーダ。しかし横向きだ。
 ……そこまで読まれるのか……仕方ない。
 任せる事にしよう。

 アメーダは腕まくりをすると、黒鈴薔薇のエプロンにさっそうと着替え、料理を開始する。
 これは、我が主が戻ってきても、簡単に胃袋をつかまれそうだな。
 
「ここをこうで……難しいのでございます。ハーブを乾燥……微塵に。
この唐辛子というもの。凄いのでございます。辛っ! 口が痛いのでございます!」
「口の痛みとかもあるんだな、アメーダって……ほぼ人間の体と一緒か……あれ? これってもしかして
俺のせいで王女も口が痛いんじゃ……嫌な予感がする」

 怖い事はなるべく考えないようにしよう。
 今は料理ができるのを待ち、明日の橋渡りのことを考えよう。

「なんか、すげーいい匂いがしてきた……腹減った……」
「プリマももう、限界だ……」
「香辛料を使用すると、食欲を刺激するからな。さて、俺はある事柄に
挑まねばならない。少し外すぞ」
「もうだめだ―。氷食べてこようかな」
「少し待ってろって。アメーダの料理を手伝ってれば出来上がるの早くなるだろうし、出来たら
食べてていいから」

 小屋の外れ付近にある納屋のような場所まできた。
 これは偶然の産物なのか。或いは本来のものとは違うのか。
 現物では寒さに弱く、工夫と様々な工程を行わなければ出来上がらないものだ。
 それを目の当たりにしてしまった。
 トリノポート南西でも出来るというコレは、この環境下で出来ようはずもない
代物。
 それを見つけてしまったのだ。
 稲。俺がもとめてやまなかったコメを作るための原料……稲っぽいそれだ。
 もうこの際稲でいい。
 刈り取ってみるとほぼ間違いないと確信できる。
 早速……ここからも何日かかかる工程が必要だが……やれることをやって
食べれるようにしてみよう。
 
 まず乾燥がたりない。これはパモと協力して、俺の炎とパモの風で
乾燥させていく。
 さらに脱穀。さして難しくはない。こいつは力技で適当な箱に詰めたのを、ふたをして引けばいい。
 問題はもみすりだが、こいつは氷を丸形に削り、ガシガシと削っていくことにした。
 再度乾燥させる必要はでてくるだろうが、効率がいい。
 今日のところは玄米までもっていければ十分だ。精米はしなくてもいい。
 量も六人分……いや八人分もあれば足りるだろう。念のために。

 十分な量を確保し、これを鍋でうまくやれば……念願の米の完成だ! 

「そちらも随分と面白そうなものをお作りでございましたね……」
「そっちの料理の方が先に出来たと思うが、これがあればその料理も更に引き立つだろう」
「こちらはあなた様が想像されていたものと少し違う、レッドカレー……なるもので
ございます。辛みの種類が少なかったのでございますね」
「それ以外にもガラムマサラ、ターメリックあたりを投入しないと、カレーっぽさが
出てこない。とはいえ地域によっては十分なカレーになるな。どれ……うん。
カレーじゃない。辛いスープだな、これは。でも美味いな!」
「左様でございますか……いつかは挑戦してみたいのでございます。
そちらの料理はお時間がかかるのでございますか?」
「料理というより主食となる調理法……だな。
これを発展させれば料理となる」

 プリマはさすがに辛すぎたのか、美味しいとはいいつつもゆっくり少しずつしか
食べれていない。
 ジュディも同じだ。確かにあの唐辛子の効き具合。付け合わせなしでは
きついだろう。

 ふっふっふ……米の真価を発揮するのはこういった場面だ。
 穀物において辛みの受け皿となるだけの甘みを有し、かつわずらわしくない
食べ物。
 それこそが……米の力であり米の魅力だ。

 全員、米の虜になるがいい。
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