上 下
782 / 1,085
第四章 シフティス大陸横断

第六百九十九話 目的とは異なる場所。ラウンズの墓場

しおりを挟む
 泉から外へ出ると、聞いていた通り外は吹雪いている。
 気温差が三十℃はあるだろうか。
 十二分に支度はしていたので、ここからはプリマ頼みではある。

「それで話してた目的地ってどこだ?」
「覚えてないのか? パトモスっていうここから北西……いや、アースガルズから見てずっと
北西にある場所だ。その場所からずっと東に進んでいくつもりだ」
「ラウンズの墓場付近でございますよ。プリマ様」
「なんだ、それなら……こうだな。よし、入っていいぞ」

 そう言うと、あの恐ろしい鎌で空間を切り裂き、歪みをその場に覗かせる。
 本当になんていう術を持ってるんだ、こいつは……。

「ほら、早く入れ。閉じちゃったら労力の無駄だろ」
「わ、ちょっと押すなって……」

 俺とアメーダを押し込むように歪の奥へとおいやると、自分も後を追って入った。

 
「……ここはラウンズの墓場でございますね……」
「……おい」
「ここに来たかったんだろ? こんなところに来てどうするんだ?」
「だから違うって! 行きたかったのはパトモスって言っただろ!?」
「だからパトモスってどこなんだよ?」
「あなた様は少々勘違いしているようでございます。プリマ様には町の名前など伝えても
その術で向かう事は出来ないのでございますよ」
「そうなのか? 町には興味がないとか?」
「いいえ。そういうわけではございません。死霊族は霊と密接に関わるような場所に通ず……でございます」
「つまり、町の名前じゃなくて教会とか町の墓地の名前とかを伝えなきゃいけないのか。うん? アメーダが以前俺にマーキングしたっていうのは……プリマと似たような事が
出来るって事? つまり俺も霊と密接に……考えるの、やめとこう……」
「異なるものではございますが、そういうことでございます」
「……さすがの能力も、万能ってわけにはいかないってことかな。でも、あの泉付近には来れたよな」
「あの場所はそもそも、元々は鉱山の墓場だった場所でございますから」
「なんだよ。ここから近いんだろ? だったらさっさと行けばいいじゃん。
ほら行くぞ」
「わかったから引っ張るなって。まるで子供だな……」


 辺りを見渡すと、かなり大きい墓地だ。先ほどと違ってこの辺りは吹雪いていないが、雪は
積もっている。
 戦後に沢山の墓が出来て埋葬した場所……なのだろうか。
 こんなに多くの墓……今まで見た事が無い。

「ここは死霊族にとって知られている場所なのか?」
「ええ。シフティス大陸がどういった大陸か、ご存知でございますか?」
「魔王や人、神々などが激しく争う地……って聞いた事がある」
「そうでございますね。パトモスへ向かうまでに知っておいた方がいい情報もあるのでございます。
僭越ながらお話させて頂きたいのでございます」

 プリマは墓の上に乗りながら、次々と墓へジャンプして遊んでいる。
 死者を冒涜するなと注意したいところだが、そもそもプリマも死者だった……。
 混乱しそうなので辞めておいたが、雪で滑ると危ないだろうと告げて、普通に歩かせることにした。

「ラウンズ……それはここシフティス大陸で起こった大規模戦争の名称でございます。
多くの者が命を落とし、そして多くの時代が失われ、そして大きな力が産まれたのでございます」
「大きな力が、産まれた?」
「お前、何でこの大陸で永遠と戦闘が起こってるか、知らないのか?」
「知らない。争いなんて無い方がいいに決まってるだろ?」
「争いが起こらず全員生きてたら、食糧が枯渇するだろ」
「だったら生産すればいいだろ? これだけの大陸なんだし」
「芽吹かないのでございます」
「芽吹かない……?」
「大地ってのは栄養が無いと芽吹かない。還元されないと土地は死ぬ。土地が生まれ変わり力に
なるにはそこへ栄養がいきわたらないといけないだろ」
「それってまさか……」
「あなた様のお考えとは違うのでございます。安心して欲しいのでございます」
「それは力の行使。血や肉じゃないぞ」
「変なもの想像させるなよ。墓場で心臓に悪い……」

 少し嫌らしく笑うプリマ。これはわざとやったな……。

「だったら殺しあう必要はないって今、考えただろ。食糧や土地を奪い合うのなんて
どの世界でも一緒だ」
「それは……確かにそうかもしれない。食糧を、温かい土地を、幸せを、より贅沢を願うのが人だ。
この世から争いが消えぬ事もその心理から来るのは事実だが……」
「それでも法があればどうにかなるはずだ……と考えているのでございますね。
ですが話しあいがまともに行われるのは、意思疎通や行動原則、道理、倫理間が重なって
初めて起こり得るものでございます」

 言わんとしていることは理解できる。
 でも殺し合いにならないよう、動いた者だって沢山いただろう。

 俺がそう考えると、アメーダは首を横に振る。
 まるで俺の考えを見透かされたようだった。

「それほど、根深い戦争か……」
「その通りでございます。そして今も尚、その争いは続いているのでございます。
さぁ、そろそろ墓地の外でございますよ」

 そう言われて辺りを見回す。
 白い雪がシンシンと降り注ぎ、辺りを真っ白な世界に変えている。
 とても遠くに見えるのは……廃屋が乱立して見える街並みだった。

「あれがパトモスなのか……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...