上 下
767 / 1,085
第四章 シフティス大陸横断

第六百八十七話 プリマ対ルイン、ロブロード戦、決着

しおりを挟む
 手に入れた質問権。これは後にとっておくことにした。そしてルールや地形の内容を
把握し、プリマと話し合った結果……地形を森林、勝敗条件を
三回のヒットか落下……とした。

 盤上の様子がガラっと変わり、縦に長い盤上の側面が、ガサガサと音を立てながら、無数の
森林地帯へと切り替わる。
 側面だけに木が生えているというわけではなく、マップ中にいくつも木が邪魔をしている形と
なる。

「さぁ始めようか。先手は君からだ。存分に楽しもう」
「それならまずは、ラージャから動かす。アメーダ。悪いが位置読みを頼む。
俺はレェンと同じ条件でやるから」
「……?」

 ゆっくりと目を瞑る。この感覚は久しぶりだな。
 アタックピースの前に手を置くと、アメーダは察して相手側ピースの位置を口頭で伝えた。

「あなた様から見て東手前、土巣死斗。西手前にユグドラシル。それよりわずかに後方、中央付近に
地殻変動。後方西に死食いのカリョーネ、東に死食いのミリョーネ。ロードはミリョーネの直ぐ後方付近
でございます。森林部分については……」
「大丈夫だ。ピースの位置だけでいい。さっき盤上に森林が出現したときの音で、位置は全て把握した」

 ラージャに指を添えると、盤上が激しく揺れ出す。
 相手のアーティファクト、地殻変動の効果だが……こんなに揺れるのか? 
 これはかなり狙い辛くなるな……まずは西のカリョーネがいるあたりへ向けて、ラージャを弾いた。
 
 シュッと鋭い音と共にカチィンという音が聞こえる。

「アタック発生でございます。死食いのカリョーネが後方へ押し出され、森林に激突。
燃焼、濃霧、混乱状態となったのでございます」
「……見てないよね。いくらアタック範囲が二倍、貫通を持っているからといって、こんな
距離があり、地殻変動もあるのにどうして正確に狙えるのさ。この盤上には神ですら能力
行使を出来ないんだよ」
「勘だ」
「勘……? まぁ、いいよ。まだ始まったばかりだし、次はプリマの番だよ……なのに、なんだあの
エグゼキューションってアタックピースは!」

 プリマが叫ぶのも無理はないだろう。プリマの番になったら勝手に動くピースが一つある。
 それは俺のもう一枚のアタックピース、エグゼキューション。どうやら盤上を勝手に動いているようだ。

「くそ、早く撃たないと。あのアーティファクトをどうにかしないと……なのにその位置に
邪魔な煉獄トウマがいる。まるでアーティファクトを守る守護者のようだ……えいっ!」
「プリマ様が放ったアタックピースは土巣死斗。ギリギリのラインを通し、アーティファクト
ピース、ティラーナにアタック。アーティファクト、ティラーナは二ターン土に沈みます」
「よしっ! プリマだって君に負けないぐらい練習してるんだ。これくらいはやってのけないとね」
「練習……したことないな」
「はぁ?」
「現状のルールになってから、ロブロードをやるのは初めてなんだ。俺の町にいるあいつは、俺なんかより
遥かに上手くなってるんだろうな……さぁ次をやろう」
「現在アーティファクト、ティラーナの効果は失われているのでございます。エグゼキューションの位置まで
手引きするのでございます」

 そう告げると、俺の手を引き、エグゼキューションの位置まで指を添わせてくれる。
 おおよその位置はそれだけでわかった。かなり進行しているな……あの時間でこれだけ進むのか。
 それなら相手はかなり焦るだろう。

「そうか、君のラージャは一ターン動けないからエグゼキューションしか撃つピースがないんだね。
そうかそうか……ククク」
「今回は大雑把に撃てばいい。狙う位置は死食いのミリョーネだ」

 俺はおおよその位置を想定して揺れる盤上からエグゼキューションを弾いた。
 
「アタックでございます。死食いのミリョーネを後方の森林へ弾いたのでございます」
「いいのかい? 今のはロードを狙えたんじゃないかな?」
「ロードを狙って攻撃した場合、ロードを落とせなければ消滅するんだろう? なら、これでいい」
「ふぅん。まぁいいけど。これでゆっくり撃てるよ。さて、どうしようかなー。
やっぱユグドラシルを動かそう。狙いは……あの邪魔な煉獄トウマだ。はじっこにおいやっちゃえば
もう怖くないし、後は落ち着いて料理できる……」

 プリマはユグドラシルを煉獄トウマへぶつけ、端においやる算段のようだ。
 
「アタック発生。ユグドラシルは状態以上煉獄を受けました。
ユグドラシルの通過部分に枝が発生。移動を阻害します」
「よしよし、これで君のほぼ負けのようなものだね。もう一匹のディフェンスピースは
ロードから離れてる。プリマは攻撃し放題。でも君の方はそうはいかないだろう? 
何せ僕のロードピースはこのルールに適している。話し合いで決めたんだし、文句はないよね」
「ああ。文句はないな。だがどうやら、ピース一つ一つの特徴を理解していないな……ラージャを打つ」

 再びラージャの位置まで連れてきてもらう。このゲームはピースの間を通すのが基本だ。
 これだけディフェンスピースが開いてロードに当てやすくしてあれば、それでいい。
 俺はロード、プリマに向けてラージャをぶつけにかかった。

「アタック発生。ロードピースは森林に激突したのでございます。燃焼、濃霧、混乱を
ロードピースが受けたのでございます。プリマロードピース、残り耐久二。ラージャ、消滅したのでございます」
「燃焼は二ターンに一度ダメージを負う。濃霧、混乱はアタックピースにしか効かないんだから
意味ないようなものでしょ。ここから四ターンもかからず終わるよ。プリマは三回当てればいいんだからさ。
それに土巣死斗で邪魔なのを排除しつつロードを攻撃してもいいんだ……ふふふ、どっちがいいかな? 
やっぱりユグドラシルかな。位置からしても狙いやすいし……」
「アタック発生。プリマロードピース残り耐久一。エグゼキューション、消滅したのでございます」
「何っ!? ……嘘だ、だって位置は……」
「調整しておいた。あれだけ範囲がでかければ必然として当たる」
「くそ! 一回で二回ヒットさせればいいんだ! だからまだ終わって……」
「ロードピース効果発動」

【デカラビア、はせ参じました】
【ギーヒャヒャヒャヒャヒャ。ダンタリオン、再び降臨】

「宣言によりロードピースの効果が発動。補助ピースデカラビア、ダンタリオンをロードの
周りに配置。デカラビア、効果雷鳥により直線移動阻害。ダンタリオン、効果食い漁りにより
盤上の障害物を消滅させます。どちらも効果は一度きりでございます」
「くそ! この位置からじゃ……」

 プリマが放ったユグドラシルは、アタックが発生しなかった。
 
「効果雷鳥により、ユグドラシルの移動が阻害されました……これはもう……」
「プリマの……負けだよ。参った。負けたんだ。言い訳はしたくない……目を閉じて、地殻変動の
影響もありながらあんなに正確にピースを動かされたら、言うだけ恥だ」
「……ふう。先行を譲ってくれた事と、あんたがユグドラシルをうまく動かさなかったから助かったよ」
「どういうことだ?」
「あのユグドラシルってのを斜めに撃ち込まれたら、移動できないだろ? あれが一番厄介だった」
「あ……あああ! もう一回、もう一回やろう!」
「ダメだ。そんな時間は無い。何でも言う事を聞いてくれる事。
それと質問権を二つ。忘れてないよな?」
「忘れてない。忘れてないからもう一回!」
「これは後々の話になるんだが、俺なんかよりずっとロブロードをやりたがってるやつらがいてさ。
そいつらとなら何回でもやっていいよ」
「本当か? それが本当なら何でも言う事を二つきいてやることにしよう」
「ああ、本当だ。約束だぞ」

 肩の荷が降りたところで、王女と一体化させていたアメーダが出てくる。
 
「ふぅーん。憑りついていたから違和感があったんだ。それじゃまず、話を聞こうか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...