715 / 1,085
第四章 シフティス大陸横断
第六百三十六話 幻魔界から出た先は、何処?
しおりを挟む
幻魔界を抜け出したルインたち一行。
ジェネストが幻魔界へ来るときは、ホムンクルスの血を用いてくるのだと言う。
それと同様の事を目の当たりにしたルインは、少し青ざめた。
「そんなに……血がいるのか」
「ええ……おや? 話し方が戻りましたね。ベリアルはお休みですか」
「力を……借りていただけだ。だが、どうやら俺も休まないとダメらしい」
「そうでしょうね。ここからは我々があなたを守ります。暫く休んでいなさい」
「はは……そういうだろうと、ベリアルと話していたんだ。俺は……恵まれて……るな……」
「どこがですか。本当に恵まれている人が、あなたのような努力をする必要などない。
もっと楽に生きている。それにあなたは誰かに恵んでばかりです。自重して欲しいものですね」
だが答えは無かった。既に気絶しているルインを背負い、血にまみれたジェネストは、彼を
担ぎながら幻魔の領域を後にした。
「ジェネスト殿。私に変わらせてもらえないだろうか。私の背であれば楽に寝かせておけるはず」
「あなたは……白丕でしたね。傷はもういいのですか? 平気そうならお願いします」
「大丈夫だ。随分と一人だけ長く、休ませてもらった。本当に幻深の朱には殺されるかと思った」
「やはり恨んではいない……というよりむしろ尊敬しているようにも思えます」
「ああ。彼女は私より強い。そして、恨むような事はない。逆らえぬ力により行動していたのだろう。
それは私も同じだと思う。あの……幻獣を見た時、震えが止まらなかった」
「ウガヤですか。あの存在はあまりにも危険ですね。しかしメルザ殿が行使なされた時とは明らかに違う。
あれは同じウガヤなのでしょうか?」
「あの力を使う者を知っているのか!?」
「ええ。少々心当たりがあります。それは彼も知ってのところだと思いますが……そろそろ到着します。
それなりの衝撃がありますので気を付けてください」
「ああ。あなたとは後ほどゆっくりと話したい。ついに……地上か」
ジェネストと白丕は幻魔界を出ると、見知らぬ場所へと降り立った。
そこは緑に囲まれた自然豊かな土地……ではなく、上空に雨雲があり、絶えず雷が鳴っているような場所。
「ここは何処でしょう? おかしいですね。許の場所へ出るはずですが……移送を歪められた?」
「ここが地上……なのか?」
上空から降る雨に白丕は少し戸惑っている。
外は肌寒く、雷光は恐ろしく見えた。
「ひとまず近くにある木陰に避難しましょう。広い場所は落雷の危険があります。
群集している木の方がまだマシです」
「わかった。飛ばすとしよう。ジェネスト殿も乗ってくれ。
主殿が振り落とされぬよう抑えていて欲しい。飛ばしていく」
「わかりました」
ジェネストがふわりと虎の背に乗ると、ルインを抑えながら少し離れた場所にある木の密集地帯を
目指す。
途中何度か落雷にあいそうになるのを回避する白丕の動きは美しいものだった。
ここは一体どのあたりなのかを確認したいが、今のところはさっぱりわからない。
木陰に入ると、ナナー、ビュイ、ルジリト、そしてサーシュが封印から出てきた。
全員地上へ出てくるのは初めてで少々戸惑っていたり、寒がっていたりする。
「ここが地上ですか。いきなり雷術でお出迎えされるとは思いもしませんでしたな」
「随分と用向きが変わってしまったようです。申し訳ありません」
「ジェネスト殿。先ほどから謝ってばかりだが、どうされたのかな」
「いえ。なにせ主がこの体たらくでは……」
「確かに、幸せそうな顔して寝てるだ」
「本当だな。顔に落書きでもしてやろうか」
「上空に調べの兆しアリ。確認が必要?」
「ふふっ。あなたたちは初めての地上にも関わらず、普段通りでいられるのですね。羨ましい」
それぞれ思い思いの行動を取ろうとする四幻のメンバーを見て、少し笑みをこぼすジェネスト。
この状況において、自分一人では無かった事に安心感を覚えている事に気づく。
「やっぱり……少し変わりましたね……私は。ホムンクルスにも関わらず、多少なりとも
情が出た様です。不思議ですね……さて皆さん。あまり良い状況ではありません。
周囲の確認、情報が欲しい。動いてくれますか?」
「当然ですな」
「任せて欲しいだ。食糧とってくるだ?」
「私も食糧をとってこよう」
「ここで彼を守っている。沖と彰は周囲の警戒を」
「空から偵察を」
「ぱ、ぱみゅ!」
皆、思い思いに行動を開始する。
主を守るために。
ジェネストが幻魔界へ来るときは、ホムンクルスの血を用いてくるのだと言う。
それと同様の事を目の当たりにしたルインは、少し青ざめた。
「そんなに……血がいるのか」
「ええ……おや? 話し方が戻りましたね。ベリアルはお休みですか」
「力を……借りていただけだ。だが、どうやら俺も休まないとダメらしい」
「そうでしょうね。ここからは我々があなたを守ります。暫く休んでいなさい」
「はは……そういうだろうと、ベリアルと話していたんだ。俺は……恵まれて……るな……」
「どこがですか。本当に恵まれている人が、あなたのような努力をする必要などない。
もっと楽に生きている。それにあなたは誰かに恵んでばかりです。自重して欲しいものですね」
だが答えは無かった。既に気絶しているルインを背負い、血にまみれたジェネストは、彼を
担ぎながら幻魔の領域を後にした。
「ジェネスト殿。私に変わらせてもらえないだろうか。私の背であれば楽に寝かせておけるはず」
「あなたは……白丕でしたね。傷はもういいのですか? 平気そうならお願いします」
「大丈夫だ。随分と一人だけ長く、休ませてもらった。本当に幻深の朱には殺されるかと思った」
「やはり恨んではいない……というよりむしろ尊敬しているようにも思えます」
「ああ。彼女は私より強い。そして、恨むような事はない。逆らえぬ力により行動していたのだろう。
それは私も同じだと思う。あの……幻獣を見た時、震えが止まらなかった」
「ウガヤですか。あの存在はあまりにも危険ですね。しかしメルザ殿が行使なされた時とは明らかに違う。
あれは同じウガヤなのでしょうか?」
「あの力を使う者を知っているのか!?」
「ええ。少々心当たりがあります。それは彼も知ってのところだと思いますが……そろそろ到着します。
それなりの衝撃がありますので気を付けてください」
「ああ。あなたとは後ほどゆっくりと話したい。ついに……地上か」
ジェネストと白丕は幻魔界を出ると、見知らぬ場所へと降り立った。
そこは緑に囲まれた自然豊かな土地……ではなく、上空に雨雲があり、絶えず雷が鳴っているような場所。
「ここは何処でしょう? おかしいですね。許の場所へ出るはずですが……移送を歪められた?」
「ここが地上……なのか?」
上空から降る雨に白丕は少し戸惑っている。
外は肌寒く、雷光は恐ろしく見えた。
「ひとまず近くにある木陰に避難しましょう。広い場所は落雷の危険があります。
群集している木の方がまだマシです」
「わかった。飛ばすとしよう。ジェネスト殿も乗ってくれ。
主殿が振り落とされぬよう抑えていて欲しい。飛ばしていく」
「わかりました」
ジェネストがふわりと虎の背に乗ると、ルインを抑えながら少し離れた場所にある木の密集地帯を
目指す。
途中何度か落雷にあいそうになるのを回避する白丕の動きは美しいものだった。
ここは一体どのあたりなのかを確認したいが、今のところはさっぱりわからない。
木陰に入ると、ナナー、ビュイ、ルジリト、そしてサーシュが封印から出てきた。
全員地上へ出てくるのは初めてで少々戸惑っていたり、寒がっていたりする。
「ここが地上ですか。いきなり雷術でお出迎えされるとは思いもしませんでしたな」
「随分と用向きが変わってしまったようです。申し訳ありません」
「ジェネスト殿。先ほどから謝ってばかりだが、どうされたのかな」
「いえ。なにせ主がこの体たらくでは……」
「確かに、幸せそうな顔して寝てるだ」
「本当だな。顔に落書きでもしてやろうか」
「上空に調べの兆しアリ。確認が必要?」
「ふふっ。あなたたちは初めての地上にも関わらず、普段通りでいられるのですね。羨ましい」
それぞれ思い思いの行動を取ろうとする四幻のメンバーを見て、少し笑みをこぼすジェネスト。
この状況において、自分一人では無かった事に安心感を覚えている事に気づく。
「やっぱり……少し変わりましたね……私は。ホムンクルスにも関わらず、多少なりとも
情が出た様です。不思議ですね……さて皆さん。あまり良い状況ではありません。
周囲の確認、情報が欲しい。動いてくれますか?」
「当然ですな」
「任せて欲しいだ。食糧とってくるだ?」
「私も食糧をとってこよう」
「ここで彼を守っている。沖と彰は周囲の警戒を」
「空から偵察を」
「ぱ、ぱみゅ!」
皆、思い思いに行動を開始する。
主を守るために。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる