上 下
706 / 1,085
第三章 幻魔界

第六百三十話 あいつの中で見てきたベリアル

しおりを挟む
 ――――数十年前の話。

 ベリアル様ともあろうものが、死ぬときはあっけねぇもんだ。
 魂を消し炭にされるってのはひでぇ感覚だ。
 だが、これでよかったのかもな。
 いちいち神のやる事に腹を立てずに済む。

 だが、結局気に入らねえままだった。
 俺たちはただ命令され動くだけの傀儡じゃねえ。
 自由に生きて何が悪いってんだ。

 くそ野郎を踏みつぶし、従わせて規律を作るのが悪いってのか。
 率いられねえとまともに生きられねえ奴を、率いてやるのは悪いってのか。

 結局答えはわからねえままだった。
 だがもういい。
 楽に、なれるんならそれでよ。

 ――――――――――――――――――――――――――――。


 ああ。そういうことかよ。
 転生させ、更生させ、神に従順な魂になるまで、何度でも作り変えるつもりか。
 しかも、別の魂の中とは。
 力は……封印されてやがる。
 しかもこいつ、目が見えてねえ。
 それどころか、生まれた時から絶望しか感じてねえ。

 こういう奴を俺が引き取って従わせてきた。
 中には言う事を聞かねえやつもいた。
 別にそれはそれでよかった。
 放っておけば死ぬ。
 だが死ぬよりはましだろう。
 こいつも……放っておけば死ぬ。
 そしたらまた、作り変えられるのか。
 こんな事に何の意味がありやがる? 
 わからねえ。神のすることはやはり理解できねえ。

 何年もの年月、こいつは孤独に過ごした。
 よく耐えられるもんだ。本来ならとっくに死んでるだろ。
 生れながらの孤独耐性でも持ってやがるのか。
 残酷な仕打ち。それを残酷と思わない神。
 どちらにしろ……ネウスーフォ。タルタロス……許さねえ……。
 
 そして……こいつは捨てられた。
 森の中。降りしきる雨。死ぬには最高の条件だな。
 短けぇ間だったが、何も無かったな。
 時折こいつの感情が流れてくる。
 次生まれ変わるなら、光を……か。
 考えた事ねえな。そもそも生まれ変わりなど起こらない方が、幸せだったろうが。
 願うなら無だろう。
 どうせ転生してもよ。またあいつらの道具だ。
 そんなことに何の意味がありやがる。苦しいだけだろうが。

「お前、そんなとこで寝てたら死んじまうぞ。こっちへ来いよ」
 
 ……おいおい。こんなやばそうな状態の奴に声かけるか? 
 いや、その台詞。
 俺も昔よく使っていた台詞だ。
 そういや何人も拾って来たな。
 利用してえって事か。それならわかるぜ。
 だがこいつは目が見えねぇ。
 拾ったところで大した事はできねえだろう。
 中にいる俺なら別だがな。


 それから……拾われたこいつは、そいつに尽くすようになった。
 拾ったやつは、こいつを利用するために拾ったんじゃなかった。
 拾ったやつもこいつと同じ、孤独だった。
 どっちにも、何もねえ。
 俺から言わせりゃどっちも虫けらだ。いつ死んでもおかしくねえ。
 だが……あんなに不幸だったやつが、幸せそうなツラになりやがった。
 なんでだろうな。こいつが幸せそうにしているのを見るのが
悪ぃ気持ちじゃなくなっていた。

 ――――いつしか俺は、こいつが怒る時に反応して、怒るようになっていやがった。
 そして、こいつが大切なものが俺にとっても大切なものと感じるようになった。
 どんな苦境でも、拾ってくれた奴の事を思い動くこいつを、羨ましいとさえ思うようになった。

 【魂の共鳴】

 神の狙いはそれだったのかもしれねえ。
 
 とっくにくたばると思っていたこいつは、逞しく、そして強くなった。
 だが、見てて危なっかしい場面が幾度もあった。
 そのたびに少しずつ、力を貸していたみてえだ。
 そして……俺の力に気づいたあいつは、俺を恐れるようになった。

 無理もねえ。ベリアル様の力は神でも恐れるからな。
 だが……こいつにそんな風に思われる事が気に入らなかった。

 俺たちは長い年月を共に過ごした。
 こいつの行動、思考。魔族なのに人間らしいところが気に入った。

 俺に無いもの、そして俺に出来ない事をこいつは出来る。
 他者を利用する力じゃねえ。他者を守る力で、困難をいくつも乗り切って見せた。

 ――――そして今! 

  
「だからよ。両方合わせて困難を乗り切ってみせようぜ。 
俺たちは、共鳴者。いくぜ……生罪の剣、今ここに。ペカドクルード!」

 闇を打ち払う超曲刀の斬撃。それは既に過去のすべての技を越えていた。
 ルーニーを追っていた黒い鳥を全て消滅させるだけの規模を誇る分厚い斬撃。
 それはそのままバラムへと襲い掛かった。

「悪ぃな。時間はかけてられねえ。一気に行くぞ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...