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第三章 幻魔界

第六百二十五話 個の力と多の力

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 全身の動きを今一度確かめる。
 派手に血を流した影響か、少しふらふらしたが、パモが収納していた栄養価の高い食べ物を
沢山出してくれた。
 とにかく今は補給がしたい。必死になって食べたが、食べている傍から少女二人が
飛び出てきて、がっつき出す。
 一人はナナー。角眼鬼族の娘。齢は十歳くらいだろうか? 
 もう一人はビュイ。こちらは幻浅の玄。こちらもナナーと年齢は同じくらいに見える。
 二人揃うと、まるで座敷童みたいだ。
 どちらもとても可愛らしいが、戦力としてはかなり高いだろう。
 
「おいずるいぞ! こんなに美味そうな食べ物を隠しているなんて!」
「うまいだ。これ、地上の食べ物だ? こんな美味いもの毎日食べてるだ?」
「あ、ああ。毎日じゃないが地上の食べ物は美味いよ」
「ふうーん。別に食べ物でつられたわけではないが、貴様とも少し話がしてみたくなった」
「ご主人様は寝てるだ?」
「お前たちは言わなくてもベリアルと俺の違いがわかるんだな」
「当然だろう。何も一致するところがないではないか」
「一応外見は同じはずなんだけど」
「全然違うだ。ご主人様はもっと偉そうにしてるだ」
「それと、もっと興味無さそうな目つきをしている。常に遠くを見ているような感じだな」
「俺自身……あいつを直接見ているわけじゃないからよくわからない。だが……魂が二つあるってのは
おかしな感覚だな」
「そうか? 魔族にはそれなりに魂を複数もっている輩はいるぞ。特別な事ではない。
人間にもおるだろう?」
「……ああ。でも人間の場合は強い引き金があって起こる事だ。生まれつきというケースは非常に
少ないだろう」

 そう話している間に、殆どの食事を平らげてしまう二人。
 パモも驚いている。本当によく食べるな、この二人は。

「もっとないのか?」
「今はこれだけだ。地上に戻ったらまた沢山食べさせてやるよ。その代わり協力して欲しい」
「ふん。本来ならベリアルには協力するが……今回は特別だぞ。お前が私たちの力をうまく使えるのか
見定めてやる」
「俺の話、聞いてたのか」
「当たり前だ。全部聞こえてきただ」
「そうか。なら話は早い。まだ治療している白丕とサーシュにも協力してもらう。
幻奥の青を取り込み、地上へと戻る」
「他者を取り込むのに抵抗はないんだな」
「あるに決まってるだろう! だが今回は……土下座でも何でもしてきてもらうつもりだよ」
「ほう。それは見てみたい。果たして幻奥の青は協力するかな」
「でも幻深の朱の方が強いんじゃないだ? そう聞いただ」
「実態の無い朱は確かに強いが、青はどのような力を持っているのか楽しみだな。
単純な接近戦能力であるなら私や白丕の方が確実に上だろう」

 大した自信家だが、確かにビュイは格闘術をかなり扱えるようだ。
 ナナーもベリアルから与えられた武器を巧みに使う。
 俺にこいつらをうまく使いこなせるのか? 
 今はまだわからない。だが……仲間を頼らない戦い方はいけないんだ。
 ここからは、ベリアルを見習って戦おう。

「お怪我の具合はいかがですかな。こちらの治療は終えました。
さて、そろそろ……このルジリトも取り込んで頂きましょうか。それとも
私だけ置いて行かれるのですかな?」
「……いいのか? 俺に取り込まれれば……いや、お前の主人を取り込んだ以上、ここでお前を
野放しにしてしまうのは違うか。わかった。協力感謝するよ」
「いえいえ。私の主は白丕様と決めています。あの方と共にある道を与えてくださるのなら、どのような
協力も惜しみません」
「まさか幻魔の国でこれほど多くの仲間と巡り合えるとは思わなかった。
角眼鬼族のナナー。幻浅の玄。幻中の白丕、沖虎、彰虎。猫眼鬼族のルジリト。幻深のサーシュ。
お前たちを歓迎する。全員封印したら出発する」
「ようやくふっきれた様な顔になりましたね。では私もしばし封印に入ります。
あなたの力の使い方。じっくり体験させてもらいましょう」
「殿方殿。倒れてから丸一日経過しておる故、お急ぎを」

 転移のある場所を聞くと、クリムゾンを覗くメンバー全員を封印した。
 多くの仲間と共に最奥……幻奥の青に会いに行く。
 力を、我が魂の兄弟がために。
 そして……その力を、地上にいるみんなのために。
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