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第三章 幻魔界

第六百二十三話 目に見える程の力

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 再びルジリトの許に行くと、まだぴくりとも動けないが、目だけ開いている
朱色のそれがいた。

「さて、何から聞くかな」
「早く殺すか……取り込むかすればいい。役目に終わりアリ」
「アリでも何でもいいけどよ。おめえ、なぜここへ来て暴れやがった」
「言ったはず。幻魔界に異常アリ。その根源を排除しにきた」
「そのように、造られたってことだろうな……おめえも。
いや、おめえら全員か」
「……負けた私に価値は無し。助けられ生き延びる程の価値も無し」
「アリの次は無し無し言いやがって。おめえらが何十年、何百年ここでうだうだ
してたのかは知らねえ。だが……これからはもっと面白おかしく生きる術を
俺が教えてやる。いっそ、全て朱色のそれで焼き払ってやってもよかっただろうよ」
「だが私は……実体無し。取り込まれれば露と消える」

 ベリアルが朱色のそれに触れようとするが、触れる事は出来なかった。
 実体のない存在。それがこの朱色のそれに与えられた使命のうちの一つなのだろうか。

「……肉体がねえから、暴れて、誰かに止めてもらって、楽になりてぇ。
おめえの気持ち、痛い程わかる。俺とお前は……同じだ。見捨てたりしねえ。
おめえは無価値かもしれねえ。だが俺はよ。おめえを取り込み価値あるものにしてえ。
ジェネスト! ホムンクルスの造りかた。おめえ知ってるよな」
「……本気ですか? あなたの体は確かに幻の能力があるようですが」
「ああ。本気だ」

 少し困惑して考えるような仕草を取るジェネスト。

「……いいでしょう。私も協力してあげます。大量の魔で器を作り、幻術で形をイメージしなさい。
神話級アーティファクトでそれを留め封じるのです。この仮面のように。
そこへ、大量の主となるものの血が必要です」
「器に使うものは何でもいいのか?」
「ええ。器はいつでも移しかえられます。おすすめはしませんが」

 ベリアルは少し歩くと笹の葉を一枚取り笹笛を鳴らす。
 ピーといういい音が鳴り響いた。

「器はこれだ。鳥の鳴き声みたいだろ。おめえが飛ぶ姿は美しかった。
この音色のような綺麗な……そうだな、サーシュ笹朱……ってところか。
新しいお前の名前だ」
「サー……ジュ?」

 笹の葉に魔を込めていくベリアル。
 ジェネストがその手の上に手を置くと、肉体が徐々に構築されていった。
 ジェネストが手を貸しているからか、まるでジェネストのような肉体へと変貌していく。

「後は大量の血が必要ですが」
「早くやれ。今更だろうが」
「わかりました。大量に必要ですので覚悟してください。アニヒレーションズ!」

 容赦なく自らの技をベリアルに叩き込む。
 全身の力を抜き、ジェネストの斬撃を無防備で受け入れるベリアル。

 ボタボタと鮮血が飛び散り、造られた肉体へと注ぎ込まれていく。
 ベリアルは眉一つ動かさず、ラーヴァティンをそのホムンクルスの手に持たせた。
 ジェネストがそれを確認すると、ホムンクルスへ次々に、六指の剣で印を刻んでいく。

「いいですよ。サーシュ。入りなさい。これがあなたの肉体となります」
「私の肉体……本当に。与えられなかった肉体。本当にもらっても、いいのか」
「……早く入れ」

 朱色のそれは、言われた通りに構造されたホムンクルスへと溶け込むように入っていった。
 すると、ホムンクルスは体全体に朱色の衣で包まれて、ゆっくりと目を開けた。

「これが、ホムンクルスの肉体……これが、価値あるものの体」
「……封印、するぜ。直ぐ、出てこれるだろ……」
「まさか私の同胞ができるとは思いませんでした。ただ……」

 どさりと倒れるベリアル。無理もない。体全身から大量の血を噴き出し、魔を使い果たした。
 サーシュは慌てて外へ出て、ベリアルへ駆け寄ろうとするが、立ち上がる事すらままならず
産まれたばかりの命は思うように動かない。這いずって近づこうとする。
 急いでナナーとビュイが飛び出て、ベリアルを抱えた。
 
「まったくだらしないだ。こんなにぐったりして」
「ほんに無理をする男。そういうところは嫌いではないが。おい幻深の朱! きさまも今日から
仲間なら、先輩であるこのビュイにちゃんと従うのだぞ!」
「ふふふ、ああ言ってますが、案外あの幼子二人は優しいですよ。あなたは私が担ぎましょう。
少し、ルジリトの許で休みましょうか」

 こうしたベリアルのやり取りを見て、天を仰ぐ者がいた。
 
「いつでも傍にいられる幸せか。確かにそういった道もあったかもしれん。
だが俺には……必要な時にいつでも呼ばれる道を選んだ。それはこれからもそうでありたいと
思ったが……どうなるかな」

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