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第三章 幻魔界

第六百二十二話 襲われた理由

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 クリムゾンが地面に書いたのは地図のようなものだった。
 幻浅の位置と現在地である幻中の場所。そこから幻深の位置に幻奥の位置。
 それぞれ上に登っていくルート以外に、転移する場所から目的地に行くルートがあるらしい。
 現在地である幻中の白の場所を正確に知る事が出来れば、転移場所から行けば、時間短縮につながるようだ。
 これを用いず向かおうとしていた目的として、やはり幻深の朱が気がかりだったのだろう。
 それにしても幻深の朱がなぜここに来ていたのか。
 そちらの方が気になるところだ。

「ひとまず話を聞いてみたいところだが、あちらの傷は平気そうか?」
「ルジリトに傷を治させてる。恐らく平気だろう。幻深の朱は大して傷ついていねえよ。
ただあいつのモードはかなり強力な火。水で痛めつけりゃ相当疲弊はするだろうから
しばらくは起きねえかもな」
「ディーン様が産み出した幻魔の中でも最強と聞きましたが……」
「俺がバロムのやつの産み出したものに負けるわけねえだろ……おっと悪ぃな。
おめえらの存在もそうか」
「いいえ、事実でしょう。あなたは強い。まだ実力のほとんどを見せていない
気がします。彼が自信を失うのも無理はありません」
「魂ってのはよ。どれだけ追い込まれたかで強さが変わりやがる。
俺とあいつの差は経験値の差だな。あいつも相当追い込まれてきてるのは
間違いねえ。だがあいつはその経験を内側に閉じ込めて鍵をかけてやがるのさ。
ぶっ放しちまえば楽になるってのによ。まぬけな話だぜ」
「それが殿方殿のいいところでもあるのだろう? ……さて、無駄話はこれくらいにして
そろそろ目的地へ向かう支度をしよう」
「ああそうだな。あいつを起こして取り込まれるか確認しねえとな」
「おや? 容赦なく取り込んだものとばかり思ったのですが」
「意思あるやつは無理やり取り込んでも意味がねえ。協力しあえなければ
何の力も引き出せねえからな……」

 そう話し終えた時、封印から黒色の虎が飛び出てくる。
 幻中の白がいる方へわき目も降らず飛んで行った。

「姉御ぉーー!」
「おいおい、さっきまで眠ってたのか? まぁいいか。おめえらも出てこい」
「もう少し寝るのだ」
「同じくもう少し寝る」
「……俺も疲れたし、ここで今日は休んでくとするか」

 再びルジリトの許へ戻ると、意識を戻した白丕、沖虎が体を持ち上げて
礼を言おうとしていた。

「そのまま寝てろ。傷が開くぞ」
「いや、助けてくれた礼くらい言わせろ。あのままなら確実に燃やされていた」
「感謝する。我らの身命はあなた様にあります」
「礼儀正しい弟だな、こっちと違って」
「彰! 何度も言っているだろう。礼儀を学べ!」
「でもよぉ、姉御ぉ……」
「ええいひっついて泣く出ない!」
 
 蹴り飛ばされる彰。
 沖は彰と大分違う雰囲気だが、本当に兄弟なのだろうか。

「ところでまだ起きてねえが、何で朱色のやつに襲われたかわかるか?」
「幻深の朱。その役割は幻魔界の異常事態を取り除く事。
つまり私が原因だろう。ここで……地上へ出る研究をしていた」
「おめえらを地上へ出してやれると言ったら反応したのはそのためか」
「もう、この領域で暮らすのは嫌なのだ。この場所は偏ったものしか存在
しない。自由な……世界が見てみたいと思うのは悪い事なのだろうか」
「子が親離れしたいと思うようなものだろうな。おめえらはバラムの世界から出たいが
出る術がねえ。だがバラムは転移させるような方法をここに残してるんだろ? 
それを知らせておいて襲わせるのか」
「ディーン様はそのような事をなされるとは思えない。
それに私にはそれぞれの階層を守っていると聞きました」
「それは間違っていない。確かに守護者であることは認める。
我々に意思が芽生えたのはここ数年の事だ。それまでは人の形も
かたどってはいなかったのだ」
「……なるほど、少しわかって来たきがするぜ。つまり最近になって芽生えた
意思が、お前らを大きく変え、行動させたってことか。
ビュイもおめえもまだ子供みてえなものってわけだな。そんじゃ
もう一匹、幻奥の青ってやつは……どう行動してやがると思う?」
「わからない。だが幻奥の許へ向かう道ならわかる」
「この辺りに転移の道があるだろう?」
「ああ。竹林の奥だったのだが……もう燃えてしまって竹林はないな。
果たして使えるかどうか……」
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