上 下
675 / 1,085
第二章 仲間

間話 国に残ったひとかけらの力では

しおりを挟む
 城が移動を停止してから、丸一日が過ぎた。
 下町寸前まで迫っていた城は、あらゆる領区をなぎ倒し、壊滅させてしまった。
 多くの血が流れ、命を失った。
 下町は貴族階級のもの、平民のもので溢れかえり、食料をもとめて争いが起こる。
 店を閉めていた酒場も食料提供を余儀なくされていたが、当然持つはずがない。
 だがこの酒場に押しかけてどうこうするような愚か者は一人もいなかった。

 入口は元トループたちで固められ、守られている。
 この酒場には王女がいるからだ。

「ミレーユ。私がわかるか? コーネリウスだ」
「……」
「声を……失ってしまっているのです。傷などは癒えていますし、適切な薬も
程おされました。ですが……」
「ミレーユ……」

 王女はショックの影響か、声を発せなくなっていた。
 文字をかけるかどうかも試したが、それも難しかった。
 すべてに絶望している……そんな表情を浮かべていた。

「ミレーユの調子はどうだ、コーネリウス」
「メイズオルガ様! ……ダメです。虚ろな表情のまま虚空を見ているばかりで」
「そうか。私の事もわかっていないようだ。まさか王女に成り代わっていたものが
あのオリナス侯の手のものだったとは……」
「オリナス侯爵は見つかったのですか?」
「ああ。死体で発見された。それもかなり昔に殺害されたようだ。
あらゆる世界に混乱を巻き起こす神……か。とんでもないものに目をつけられていたものだ……」
「メイズオルガ殿下。王は、やはり見当たらないのですか……」
「ああ。執政は私がしきっていた。父は、或いはもう……」
「この国はどうなってしまうのでしょう」

 不安にかられるコーネリウスの肩へ手をやるメイズオルガ。
 一瞬びくっとなり、慌てて横を向くコーネリウス。

「案ずるなコーネリウス。もし下町ごと押し流されていれば、誰一人助からなかったかもしれん。
これを止めた者の話を聞いた。まさかあの時の青年がな……二十三領区ではなく、王城へ
案内していれば、この国をもっと早く救えたのかもしれん。私の落ち度だ」
「いえ! もし彼があの時、あの場所へ現れなかったら……王女の事も何もかも
伝えられなかったでしょう。メイズオルガ様の計らいが、この国を救ったんだと思います」

 少し微笑むメイズオルガ。だがその表情は未だ険しいままだった。

「君にそう言ってもらえると少しだけ楽になる。この国は終わらせたりせんよ。
諸国に目をつけられても、守り切って見せる。
ただ……ミレーユの婚約に関しては、破棄されてしまうだろう。
王族として、ミレーユをこのままにはしておけぬ……何せミレーユが三十領区を滅ぼした
張本人だというでたらめな話が、広まってしまった。いくら偽物だと言っても、この
ミレーユでは説明にならぬだろう」
「では、一体どうするおつもりですか!? まさかミレーユ王女を……」
「そうだな。処断せねばならぬ。王族として……だが当然だまって処断させてやると思うか?」
「では、一体どうするおつもりですか? 私はミレーユ王女を守りたい!」
「そうだな。私も守ってやりたい。そのためには……そちらの方々のお力添えを願いたいのだ。
彼らはきっと、それが出来る人材なのだろう? 今この国は未曽有の人材不足でね。
ぜひ雇わせてもらいたいのだが……」

 メイズオルガが指し示す方向。それは……シーを除く多くの仲間たち。
 出発の準備を整え、既にいずこかへ旅立とうとしている最中。
 彼らに一体何を頼むつもりなのか。
 自分はどうしたらいいのか。
 コーネリウスは考えるまでもなくわかっていた。

「その仕事、このコーネリウスが拝命します。王女と共に行き、必ず王女を守り通して見せます」
「我が義妹をよろしく頼む。この通りだ」

 深々と頭を下げるメイズオルガ。
 一介の君主として十分な力量を既に持ち、身分差を越えて礼節を知るその人物に、コーネリウスは
尊敬と憧れを覚えていた。
 
「謹んでお受けいたします。殿下もどうか、ご無事で!」

 微笑んでいた顔もすぐ引き締まったものとなる。
 メイズオルガの頭には、この惨状をどうすべきかをいち早く考え解決する必要がある。
 両侯爵は既に無く、英雄と呼ばれたオズワルもいない。
 今あるひとかけらの力では、国を立て直すのにどれほどの事をせねばならぬのか。

「やはりあの方に頭を下げるしかないか……カルシフォン・ヴァン・ヨーゼフに」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た

pelonsan
恋愛
 ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。  僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。  昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。  去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日…… ※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...