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第二章 仲間
間話 国に残ったひとかけらの力では
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城が移動を停止してから、丸一日が過ぎた。
下町寸前まで迫っていた城は、あらゆる領区をなぎ倒し、壊滅させてしまった。
多くの血が流れ、命を失った。
下町は貴族階級のもの、平民のもので溢れかえり、食料をもとめて争いが起こる。
店を閉めていた酒場も食料提供を余儀なくされていたが、当然持つはずがない。
だがこの酒場に押しかけてどうこうするような愚か者は一人もいなかった。
入口は元トループたちで固められ、守られている。
この酒場には王女がいるからだ。
「ミレーユ。私がわかるか? コーネリウスだ」
「……」
「声を……失ってしまっているのです。傷などは癒えていますし、適切な薬も
程おされました。ですが……」
「ミレーユ……」
王女はショックの影響か、声を発せなくなっていた。
文字をかけるかどうかも試したが、それも難しかった。
すべてに絶望している……そんな表情を浮かべていた。
「ミレーユの調子はどうだ、コーネリウス」
「メイズオルガ様! ……ダメです。虚ろな表情のまま虚空を見ているばかりで」
「そうか。私の事もわかっていないようだ。まさか王女に成り代わっていたものが
あのオリナス侯の手のものだったとは……」
「オリナス侯爵は見つかったのですか?」
「ああ。死体で発見された。それもかなり昔に殺害されたようだ。
あらゆる世界に混乱を巻き起こす神……か。とんでもないものに目をつけられていたものだ……」
「メイズオルガ殿下。王は、やはり見当たらないのですか……」
「ああ。執政は私がしきっていた。父は、或いはもう……」
「この国はどうなってしまうのでしょう」
不安にかられるコーネリウスの肩へ手をやるメイズオルガ。
一瞬びくっとなり、慌てて横を向くコーネリウス。
「案ずるなコーネリウス。もし下町ごと押し流されていれば、誰一人助からなかったかもしれん。
これを止めた者の話を聞いた。まさかあの時の青年がな……二十三領区ではなく、王城へ
案内していれば、この国をもっと早く救えたのかもしれん。私の落ち度だ」
「いえ! もし彼があの時、あの場所へ現れなかったら……王女の事も何もかも
伝えられなかったでしょう。メイズオルガ様の計らいが、この国を救ったんだと思います」
少し微笑むメイズオルガ。だがその表情は未だ険しいままだった。
「君にそう言ってもらえると少しだけ楽になる。この国は終わらせたりせんよ。
諸国に目をつけられても、守り切って見せる。
ただ……ミレーユの婚約に関しては、破棄されてしまうだろう。
王族として、ミレーユをこのままにはしておけぬ……何せミレーユが三十領区を滅ぼした
張本人だというでたらめな話が、広まってしまった。いくら偽物だと言っても、この
ミレーユでは説明にならぬだろう」
「では、一体どうするおつもりですか!? まさかミレーユ王女を……」
「そうだな。処断せねばならぬ。王族として……だが当然だまって処断させてやると思うか?」
「では、一体どうするおつもりですか? 私はミレーユ王女を守りたい!」
「そうだな。私も守ってやりたい。そのためには……そちらの方々のお力添えを願いたいのだ。
彼らはきっと、それが出来る人材なのだろう? 今この国は未曽有の人材不足でね。
ぜひ雇わせてもらいたいのだが……」
メイズオルガが指し示す方向。それは……シーを除く多くの仲間たち。
出発の準備を整え、既にいずこかへ旅立とうとしている最中。
彼らに一体何を頼むつもりなのか。
自分はどうしたらいいのか。
コーネリウスは考えるまでもなくわかっていた。
「その仕事、このコーネリウスが拝命します。王女と共に行き、必ず王女を守り通して見せます」
「我が義妹をよろしく頼む。この通りだ」
深々と頭を下げるメイズオルガ。
一介の君主として十分な力量を既に持ち、身分差を越えて礼節を知るその人物に、コーネリウスは
尊敬と憧れを覚えていた。
「謹んでお受けいたします。殿下もどうか、ご無事で!」
微笑んでいた顔もすぐ引き締まったものとなる。
メイズオルガの頭には、この惨状をどうすべきかをいち早く考え解決する必要がある。
両侯爵は既に無く、英雄と呼ばれたオズワルもいない。
今あるひとかけらの力では、国を立て直すのにどれほどの事をせねばならぬのか。
「やはりあの方に頭を下げるしかないか……カルシフォン・ヴァン・ヨーゼフに」
下町寸前まで迫っていた城は、あらゆる領区をなぎ倒し、壊滅させてしまった。
多くの血が流れ、命を失った。
下町は貴族階級のもの、平民のもので溢れかえり、食料をもとめて争いが起こる。
店を閉めていた酒場も食料提供を余儀なくされていたが、当然持つはずがない。
だがこの酒場に押しかけてどうこうするような愚か者は一人もいなかった。
入口は元トループたちで固められ、守られている。
この酒場には王女がいるからだ。
「ミレーユ。私がわかるか? コーネリウスだ」
「……」
「声を……失ってしまっているのです。傷などは癒えていますし、適切な薬も
程おされました。ですが……」
「ミレーユ……」
王女はショックの影響か、声を発せなくなっていた。
文字をかけるかどうかも試したが、それも難しかった。
すべてに絶望している……そんな表情を浮かべていた。
「ミレーユの調子はどうだ、コーネリウス」
「メイズオルガ様! ……ダメです。虚ろな表情のまま虚空を見ているばかりで」
「そうか。私の事もわかっていないようだ。まさか王女に成り代わっていたものが
あのオリナス侯の手のものだったとは……」
「オリナス侯爵は見つかったのですか?」
「ああ。死体で発見された。それもかなり昔に殺害されたようだ。
あらゆる世界に混乱を巻き起こす神……か。とんでもないものに目をつけられていたものだ……」
「メイズオルガ殿下。王は、やはり見当たらないのですか……」
「ああ。執政は私がしきっていた。父は、或いはもう……」
「この国はどうなってしまうのでしょう」
不安にかられるコーネリウスの肩へ手をやるメイズオルガ。
一瞬びくっとなり、慌てて横を向くコーネリウス。
「案ずるなコーネリウス。もし下町ごと押し流されていれば、誰一人助からなかったかもしれん。
これを止めた者の話を聞いた。まさかあの時の青年がな……二十三領区ではなく、王城へ
案内していれば、この国をもっと早く救えたのかもしれん。私の落ち度だ」
「いえ! もし彼があの時、あの場所へ現れなかったら……王女の事も何もかも
伝えられなかったでしょう。メイズオルガ様の計らいが、この国を救ったんだと思います」
少し微笑むメイズオルガ。だがその表情は未だ険しいままだった。
「君にそう言ってもらえると少しだけ楽になる。この国は終わらせたりせんよ。
諸国に目をつけられても、守り切って見せる。
ただ……ミレーユの婚約に関しては、破棄されてしまうだろう。
王族として、ミレーユをこのままにはしておけぬ……何せミレーユが三十領区を滅ぼした
張本人だというでたらめな話が、広まってしまった。いくら偽物だと言っても、この
ミレーユでは説明にならぬだろう」
「では、一体どうするおつもりですか!? まさかミレーユ王女を……」
「そうだな。処断せねばならぬ。王族として……だが当然だまって処断させてやると思うか?」
「では、一体どうするおつもりですか? 私はミレーユ王女を守りたい!」
「そうだな。私も守ってやりたい。そのためには……そちらの方々のお力添えを願いたいのだ。
彼らはきっと、それが出来る人材なのだろう? 今この国は未曽有の人材不足でね。
ぜひ雇わせてもらいたいのだが……」
メイズオルガが指し示す方向。それは……シーを除く多くの仲間たち。
出発の準備を整え、既にいずこかへ旅立とうとしている最中。
彼らに一体何を頼むつもりなのか。
自分はどうしたらいいのか。
コーネリウスは考えるまでもなくわかっていた。
「その仕事、このコーネリウスが拝命します。王女と共に行き、必ず王女を守り通して見せます」
「我が義妹をよろしく頼む。この通りだ」
深々と頭を下げるメイズオルガ。
一介の君主として十分な力量を既に持ち、身分差を越えて礼節を知るその人物に、コーネリウスは
尊敬と憧れを覚えていた。
「謹んでお受けいたします。殿下もどうか、ご無事で!」
微笑んでいた顔もすぐ引き締まったものとなる。
メイズオルガの頭には、この惨状をどうすべきかをいち早く考え解決する必要がある。
両侯爵は既に無く、英雄と呼ばれたオズワルもいない。
今あるひとかけらの力では、国を立て直すのにどれほどの事をせねばならぬのか。
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