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第二章 仲間

第五百八十八話 邪念の塔 俺はもう、失いたくはない

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 ミズカルドとルッツ。二人は一緒に任務をするうち、互いに信頼しあう仲間となった。
 ある日、いつものように任務を請け負った。
 俺たちの任務は国外周辺の地脈操作と鉱山経路の巡回だった。
 大がかりな任務で複数の領区から出撃命令が出ていた。
 二人は鉱山周辺に向かう部隊へ配属された。
 
「なぁ兄貴。今回の任務って鉱山まで行くのか? もし行くなら少しくらい鉱石とか持って帰っても
ばれねーかな?」
「どうだろうな。あの鉱山は廃鉱になる予定だと聞いたぞ。落盤事故やモンスターの出現が多いらしい」
「ちょっとばかし欲しい物があってさ。兄貴そろそろ誕生日だろ? 臨時報酬取って盛大に祝ってやりてぇんだ」
「おいおい。自分の年齢がいくつかもよくわからないし、誕生日って言ってもおおよそしかしらないんだぜ」
「俺なんておおよそすらよくわからないからなぁ」
「だからお前がパンを盗んだ日を、誕生日にしたんだろ」
「へへへ。自分を改められるようにってね。俺はもう盗んだりなんかしねえ。今は逆だ。兄貴みてえに
パンをくれてやる立場になったんだ。俺だって……」
「ん? 何か騒がしいな。様子が変だぞ?」
「鉱山の方かな? 俺ちょっと見てくるよ! 兄貴は少し待っててくれ!」
「まったくせっかちだなルッツは。あいつ武器も持たずに……」

 しかししばらくしてもまったく帰って来る気配が無いルッツ。
 それどころか先発していた部隊も戻ってこない。

「おい。どうなってるんだ? 鉱山の方で何かあったのか?」
「毒ガスが噴き出たらしい。こちらの偵察隊も戻ってこないんだ」
「何だと? モンスターじゃなく毒ガス?」
「ああ。俺たちの部隊は報告に戻る。あんたはどうするんだ?」
「仲間が向かったまままだ戻らない。確認してからそちらへ合流する」
「わかった。気をつけてな。命あっての物種だぞ」

 他のトループたちは別の場所へ移動。一人残ったミズガルドは、急ぎ鉱山方面へ向かう。
 すると……トループらしき人物が、民間人を襲っているのが目に入った。

「やめろ! 一体なにしてやがる! くそ、麻痺弾で……」

 しかし麻痺弾を撃ち込んでも止まる気配がみえない。
 よく見ると、その動きは人間のような動きはしていなかった。
 モンスターと判断したミズガルドは急ぎ玉を込めて頭部に狙いを定め、乱射した。
 
「やめろーー!」

 銃弾を何発も打ち込むと、そのモンスターは二人の男女を既に殺しており、一人の少女へと遅いかかる
寸前だった。
 
「はぁ……はぁ。なんだこいつは。麻痺弾が効かないアンデッド……か? ……ああ、あああ!」

 ミズガルドが駆けつけると、少女は少しぐったりして気絶している。
 そして……少女の両親と思われる男女は絶命。その横に倒れているモンスターは……ルッツそっくりだった。

「は、ははは……なんの冗談だよ、これ。おい、ルッツ……? ルッツだよな。おい……おい! 
なんだよこれ! ふざけるなよ! 俺が……俺が殺したのか。俺が……ルッツを……俺が……俺が! 
ああ……ルッツ! ルッツ……しっかりしろ、何が、何があった……」
「あに……き。すまね……ドジっち……まった。俺、でもさ……止めてくれて……ありが……あの子、たすか……あに……き。いまま……あり……」
「おい! しっかりしろ! ああ、うわああああああ!」

 ミズガルドに抱かれたまま、ルッツは息を引き取る。辺り一面にミズガルドの大声が児玉した。
 そして、すぐさま他の異常な行動を取るトループが目に入る。
 それらはミズガルドと少女を狙い、襲い始めた。
 急ぎ少女を担ぎ上げたミズガルドは、銃を乱射しながら急いで移動する。
 
 おそらく毒ガスはただの毒ガスではなく、精神や行動に異常をきたす作用があるものか、ゾンビ化させる
ようなものだろう。
 だが今のミズガルドにとってそれはどうでもよかった。
 なぜあの時ルッツを止められなかったのか。
 自分がもっと早く行動すれば、少女の両親も、ルッツも、助けられたのかもしれない。
 自分を責めながら、必死に他のトループを探した。
 すると、上官が一人目にとまる。いつも任務説明をする上官だ。
 真面目なトループで、働きもよい。ルッツもこの上官のお陰で比較的楽に受け入れてもらえた。

「上官。モンスターに襲われてる……ところを一名保護しました。
両親は死亡……どこか、安全な場所へ! 俺は……まだ残っているモンスターを倒しに行ってきます」
「お、おい。まさか一人か? 他のトループはどうした」
「みな、逃げました。俺はまだルッツを……」
「わかった。気を付けていけよ。直ぐに援軍も手配する。無茶はするなよ」
「はい。その子の事、お願いします」
「任せておけ。里親を募る手筈もしておこう……まさかこのような場所で親を失うとは……可哀そうな子だ」
「……」

 上官に少女を託したミズガルドは、かかとを翻して単騎もと来た場所へ戻る。
 その場にいた全モンスターを駆逐すると、ルッツと少女の両親の亡骸の許へ戻る。

「助けられなくて、すまなかった……俺は、お前の十字架を背負って生きていく。
あんたたちも、助けられずに……許してくれとは言えない。だがあんたたちの娘だけはきっと、大丈夫だ。
すまない、すまない……」

 穴を掘り、埋めてやると、ルッツの墓標に持っていた食料からパンを出し、立ててやる。
 ぽろぽろと涙が流れ落ちるミズガルドは再び大声で泣いた。
 
 ――――――――――――

「俺には、資格が無い。あの子の両親を殺したのは俺も同然だ。
ルッツを殺したのだって! だけどよ! そうやって責めてくれたら、どれだけ楽だっただろうか! 
お前みたいに俺を責めてくれたらどれほど楽だっただろうか! 俺は、俺は謝りたくて……なのにそのきっかけすらつかめない。俺は、いつまでたっても止まったままだった。
そんな俺の背中を押してくれたのはツイン……いや、ベルアーリただ一人だ! あいつのために俺は
全てを振り払う。今一度、俺に出来た仲間として! 今行くぞ、ベルアーリ!」
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