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第二章 仲間

第五百七十九話 サーカス団イーニーの披露

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 メイズオルガを馬車で休ませつつ、そのまま移動を開始する俺たち。
 正面奥には背中に槍を持つリトラベイが一人いるだけ。
 場へは真っすぐ続く一本の道があり、外壁はとても高い。
 
 メイズオルガが馬車から出てこない事態でも、顔色一つ、動き一つ変えてなどいないのだろう。
 すべては成り行き通り。そんな雰囲気がこの男にはある。

「それじゃ、開始しようか。先陣は俺が……」
「だめだよ。君はいつもそうやって味方を頼ろうとしない。先陣はドーニーと私が行く」
「ちみは後方支援にまわりなさい」
「私とサニーも続くわ。置いていかれたから暴れたりないの」
「相手が一人じゃ取り合いじゃない」
「共に戦おうぞ。もう、後戻りは出来ぬ……後悔も未練もない」
「落ち着けって。まずはサーカスだ。王女が来て、サーカスの隙をつき正体を暴こう」

 そんな話をしながら進んでいるときだった。上空を竜が飛び始める。
 あの時見た黄竜だけではなく、赤、黒、青い竜が数匹羽ばたいていた。
 側近のような者がもう一人見える。

「ようやく来てくれたのね。歓迎するわ。さぁ私に最高のサーカスを見せて」
「あれが、王女……? 姿はあのときみたものと同じだ」

 サーカス団を呼ぶくらいだ。さぞかし大勢のトループが見る中で行われると思ったが……王の
姿もない。見物人は王女を含めてたったの三人だ。

「開園が待ち遠しいの。早く支度をしてくださる? 馬車の中にいる兄は預かりますわ」
「すぐに支度をして参ります。ですが……メイズオルガ様は容態が優れぬためこちらでお預かりしたいと思います」

 上空の王女に向けて声を発する。その目は怪しく輝き、口角は吊り上がっていた。

「まぁ大変。仕方ありませんわ。待ちきれないのでサーカスを始めてくださる?」
「……それが大変な親族へ心配する顔かよ」

 馬車内のブネに合図を送り、音楽を奏でさせ始める。
 それに合わせてレッジとレッツェルが魔術を行使し始めた。
 下町で見たものとは違い、炎を両手で紐のように持ち上げ輪っかにするレッジの輪炎へ、虎の形をした
炎を飛ばしていく。

 その後ろでは、ファニーが投げるナイフをサニーが邪術釣り糸で吊るしあげている。
 そのナイフを念動力でドーニーが動かす。
 それらを的として正確にビーが打ちぬいていく。
 キンキンと高い音が鳴り響き、ブネが奏でる音楽と調和していった。
 跳ねたナイフをイーニーが空中で受け取り、全て俺へと投げつける。
 
「氷塊のツララ」

 全てを氷塊のツララで叩き落すと、貫通した氷のツララが王女の脇を掠めた。
 しかし満面の笑みのまま。むしろ益々口角が吊り上がっていく。
 
「全然楽しくないですわね。わたくしが見たいのはそんなものではありません。
そのまま続けるおつもりかしら? それともまだ、あの時襲った力を隠すおつもりかしら?」
「あんた一体何者だ。隠しているのはどっちだよ。いい加減正体を表したらどうだ!」
「主に対して無礼な物言いは許しませぬ!」
「……」

 俺の物言いに不服そうな男二人がこちらを睨む。一人はリトラベイ。
 装甲車のような鎧と、長い槍をたずさえている。
 もう一人は黒い軽装の無口そうな男。鋭い目つきを持ち、短槍を握りしめている。

「二人とも、ダメだよ。うふふふ、教えてあげてもいいけどその前に話をしたいの。
お近づきになってもよろしくて?」
「ダメに決まってるじゃない! うちの旦那に何するつもり?」
「そーよそーよ! 主ちゃんがいなくなってからというもの、ちっとも近づけないんだから!」

 息まくファニーとサニーの頭を後ろから撫でると、王女には聞こえないようにこう囁いた。

「怪しい動きを見せたら、俺ごと殺すつもりでやってくれ。頼む」
「……出来るわけないでしょ、そんなの……」
「それで俺が死ぬと思ってるのか? 二人とも」
「……わかったわよ。ちゃんとご褒美はもらうからね!」
「ああ、頼むよ」

 ゆっくりと地上へ降り、竜も下げさせた王女に近づく。
 傍らに控えるリトラベイと短槍の男はこちらを凝視している。

「リトラベイ、ターレキフ。下がりなさい」
「し、しかし……」
「あら。いう事が聞けないのかしら?」
「……承知しました」

 おずおずと下がる二人。これでこいつと二人。
 口角はまだ、吊り上がったままだ。

 さて、こいつは俺に一体どんな用なのか……。
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