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第二章 仲間

第五百七十二話 漆黒の笑顔

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 王宮、塔の一角。
 ここからは三十領区、三十一領区双方を見渡す事ができる、非常に高い塔。
 どちらの領区も優美であり、堅牢な作りとなる城が存在する。
 それらの城がかすむ程の王城がここ、グラズヘイム。

「お兄様。随分と具合が悪そうですのね」
「ミレーユか。執政を行えぬ程では……ない」
「無理をされず、休まれた方がよいのではありませんか?」
「この程度で休んでいれば、ミレーユが嫁いだ後にでも、無能な兄だと民に笑われてしまう」
「それは無いでしょう。お兄様の信は既にお父様より上ですもの」
「私など、父の統治に比べれば足元にも及ばぬよ……ゴホッ、ゴホッ……」
「……そう考えているのは、お兄様だけですのに。それよりお兄様。サーカス団はいつ頃到着
するのですか?」
「報告によると既に二十三領区まで来ているようだ。まもなく三十一領区へ入るだろうな」
「まあ……楽しみですわ。無事来れればよいのだけれど」
「二十三領区は安全だろう? バンドール伯爵がいたずらでもしなければ、問題なく辿り着けるはずだ。
今日はもう遅い。ミレーユも早く休みなさい」
「……ええ。そうですわね。明日には到着しているとよいのだけれど」

 にっこりと微笑むミレーユに、わずかながらの不安を覚えるメイズオルガ。
 やはり体調が優れぬかという表情で、水を飲むと、再び執務を開始する。
 
 頭痛の種は二十領区、オズワル伯爵領区の件。
 信じられない報告が上がり、眩暈がするほどだった。
 調査員を送ったが、未だ誰一人戻ってきていない。
 
「オズワル……まさかな。ゴホッ、ゴホッ……仕事が終わらぬ」

 執政としての仕事を行い始めて五年。王族は数も少なくなり、まともに執政を行えるのはメイズオルガ
ただ一人。
 年月を追うごとに伯爵、侯爵の発言力が増していき、王族の発言力は弱くなる一方だった。

「このままでは私の代で王族が滅んでしまう。そうなる前にミレーユだけでも、国の外へ……つらい選択を
したと思ったが、ミレーユはそこまで落ち込んでいないように見える。
この国を愛してやまなかったミレーユにも、わかってくれる時がきたのだな……ゴホッ、ゴホッ」

 自分の手を見ると、血がべっとりとついていた。
 身近な布で拭きとると、すぐさままた、仕事へと戻るメイズオルガ。

 魔力の高い彼は、あらゆる場面で魔術を行使している。そのため進行は著しく早かった。

「父上……もしかしたら私は、あなたより先にもたなくなるかもしれぬ。
この国の行く末、誰に託すべきなのか。どうか見極めをお間違いなく」

 ――――――――――――

 部屋に戻ったミレーユは、満面の笑みを浮かべたままだった。

「ご機嫌ですな。主」
「そう見えるかい? 別に機嫌がいいわけじゃないんだけど。こうしてる方が彼も喜ぶと思ってね。
ああ、でも。もうじきサーカス団がくるから、そっちの件では機嫌がいいかな」
「開催が合図ですからな。我らも待ちくたびれております」
「ごめんねー。でもさ、楽しい祭りは待ちくたびれるほど待った方が楽しいだろ?」
「そうですな。それはよくわかります。我らの準備は万端。いつでも祭りに参加しましょうぞ」
「ふふふ。そうだね。いよいよ取れるかな。フラドガル……あの王の首級を」
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