上 下
644 / 1,085
第二章 仲間

第五百七十二話 漆黒の笑顔

しおりを挟む
 王宮、塔の一角。
 ここからは三十領区、三十一領区双方を見渡す事ができる、非常に高い塔。
 どちらの領区も優美であり、堅牢な作りとなる城が存在する。
 それらの城がかすむ程の王城がここ、グラズヘイム。

「お兄様。随分と具合が悪そうですのね」
「ミレーユか。執政を行えぬ程では……ない」
「無理をされず、休まれた方がよいのではありませんか?」
「この程度で休んでいれば、ミレーユが嫁いだ後にでも、無能な兄だと民に笑われてしまう」
「それは無いでしょう。お兄様の信は既にお父様より上ですもの」
「私など、父の統治に比べれば足元にも及ばぬよ……ゴホッ、ゴホッ……」
「……そう考えているのは、お兄様だけですのに。それよりお兄様。サーカス団はいつ頃到着
するのですか?」
「報告によると既に二十三領区まで来ているようだ。まもなく三十一領区へ入るだろうな」
「まあ……楽しみですわ。無事来れればよいのだけれど」
「二十三領区は安全だろう? バンドール伯爵がいたずらでもしなければ、問題なく辿り着けるはずだ。
今日はもう遅い。ミレーユも早く休みなさい」
「……ええ。そうですわね。明日には到着しているとよいのだけれど」

 にっこりと微笑むミレーユに、わずかながらの不安を覚えるメイズオルガ。
 やはり体調が優れぬかという表情で、水を飲むと、再び執務を開始する。
 
 頭痛の種は二十領区、オズワル伯爵領区の件。
 信じられない報告が上がり、眩暈がするほどだった。
 調査員を送ったが、未だ誰一人戻ってきていない。
 
「オズワル……まさかな。ゴホッ、ゴホッ……仕事が終わらぬ」

 執政としての仕事を行い始めて五年。王族は数も少なくなり、まともに執政を行えるのはメイズオルガ
ただ一人。
 年月を追うごとに伯爵、侯爵の発言力が増していき、王族の発言力は弱くなる一方だった。

「このままでは私の代で王族が滅んでしまう。そうなる前にミレーユだけでも、国の外へ……つらい選択を
したと思ったが、ミレーユはそこまで落ち込んでいないように見える。
この国を愛してやまなかったミレーユにも、わかってくれる時がきたのだな……ゴホッ、ゴホッ」

 自分の手を見ると、血がべっとりとついていた。
 身近な布で拭きとると、すぐさままた、仕事へと戻るメイズオルガ。

 魔力の高い彼は、あらゆる場面で魔術を行使している。そのため進行は著しく早かった。

「父上……もしかしたら私は、あなたより先にもたなくなるかもしれぬ。
この国の行く末、誰に託すべきなのか。どうか見極めをお間違いなく」

 ――――――――――――

 部屋に戻ったミレーユは、満面の笑みを浮かべたままだった。

「ご機嫌ですな。主」
「そう見えるかい? 別に機嫌がいいわけじゃないんだけど。こうしてる方が彼も喜ぶと思ってね。
ああ、でも。もうじきサーカス団がくるから、そっちの件では機嫌がいいかな」
「開催が合図ですからな。我らも待ちくたびれております」
「ごめんねー。でもさ、楽しい祭りは待ちくたびれるほど待った方が楽しいだろ?」
「そうですな。それはよくわかります。我らの準備は万端。いつでも祭りに参加しましょうぞ」
「ふふふ。そうだね。いよいよ取れるかな。フラドガル……あの王の首級を」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...