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第二章 仲間

第五百七十話 バンドールの焦り

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 こんな時にいい医者が手に入るとは、まったくもって運がいい。
 しかもコーネリウスを無事男に出来れば、我が領区も安泰だ。
 フィルミナのお陰で随分と事が上手くいったわい。
 しかしあいつめ。一体どうやって性別転換の秘薬など手に入れたのか……。
 試し飲みさせる薬のほうは間違いなく性別変換が起こった。

 かなりの金額を要求されたが、仕方あるまい。
 それにしても問題はエビルイントシケートの方だな。
 我が領区にこれほど蔓延しておるとは。
 
 族に入った娘も面白い能力を持っておった。
 まんまと食事に盛った睡眠薬で眠ってくれたが、紛れもない竜種だろう。
 美しい緑髪の娘は逃げられたが、惜しいことをした。
 
「伯爵様。エビルイントシケート用の薬、追加調合が完了しています。
スピアはまだ眠っていて起きないのですか?」
「おや先生。これはどうも。お連れの方はまだ起きませんな。
調子が悪いのでしょうが、先生は特効薬制作でお忙しい身。
そちらは我々で看病しますから」
「いえ。この納品分で依頼分は全てです。忙しい身の上、助手をたたき起こさねば
なりません。案内してもらえませんか?」
「ええ!? もう全部お作りに? いやぁ、そういえばもっと必要だったような」
「残念ながら材料がありません。材料の判別も私が行わなければならず、外の者に
持たせてあるのです。お返し願えませんか」
「それはもちろん! ですがその前に先生もお疲れでしょう。お食事などお取りになり
休憩を。なんでしたら侍女にも相手をさせますから……」
「いいえ。遠慮いたします。先ほどもお伝えした通り忙しいのです。荷物をまとめて参ります」
「あっ……先生!? ……くそ、このまま手放してなるものか」

 部屋に戻ってしまった先生を逃したくないバンドールは、少し思案してポンと手を打つ。
 どうせなら先生の性別を変えてしまい、この世に同じ人物がもう存在しないことに
すればよいと考えた。あわよくば自分の侍女として屋敷で飼い殺しにするのもありとの算段。

「絶対に手放さんぞ。あれほどの医者、そうは転がっておらん!」

 フィルミナにもらった性別変換薬の残りを手に取ると、ゆっくりシュイオンの部屋へ向かうバンドール。
 バンドールの今いる部屋は、普段執務を執り行う部屋の奥であり、入り口は一つしかない。

 また、かなり奥まった部分にあり、静かに作業をすることを好むため、部屋の入口に衛兵などは
配備していなかった。

「なっ!? なんだ? 扉が開かぬ。ええい、どうなっている!」

 どんどんと叩くがまったくびくともしない。そして、バンドールは異様なほど部屋が寒い事に
気付いた。

「なな、なんという寒さだ。凍え死んでしまう!」

 急激な寒さに襲われると、人は自然と震えという生命の恒常性現象が起こる。
 手にしていた性別変換薬の残りを床に落としてしまったバンドール。

「ああ! 貴重な性別変換薬が! 一体何が起こっている!」
「君はさ。腹黒いよね」
「なな、何だ?」
「しばらくそこで、寒さに震えて過ごすといいよ。考えなしの行動が招いた結果を
反省する意味でもね」

 ぶるぶる震えながら何度もドアを開けようとするバンドール。
 手は凍傷し、歯をガチガチさせている。

「アネさん。そのくらいで。こいつを殺すわけにはいかない。
聞き出す事が沢山ある」
「しょうがないね。お尻を触られた仕返しをしたかったんだけど。
後で引っぱたくくらいはいいかな?」
「ああ。それくらいなら」
「なな、何者だ! 男の声? だだだ、誰だ」
「殺……す」
「ひっ……こここ、コーネリウス? ななな、そんな馬鹿な! なぜここへ! 
男性化はまだまだ時間がかかるはずだぞ?」
「はぁ? 何言ってるんだ、こいつは。ドア開けるぞ。捕縛の準備はいいか?」
「平気だよ。後ろ、逃げようがないだろう?」

 バンドールがいる扉が開くと、カチカチのバンドールが勢いよく飛び出てくる。
 すぐさま取り押さえられ、押さえつけられた。

「イ、イライザ!? お前がこいつらを連れてきたのか!? 一体何を……コーネリウス! 
なんだその顔色は!? しっかりしろ! 貴様らがコーネリウスを!?」
「いいや。犯人は恐らくお前自身だ」
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