上 下
641 / 1,085
第二章 仲間

第五百六十九話 ばったり!?

しおりを挟む
 着の身着のままで急ぎ伯爵邸へ向かった俺たち一行。
 一度サーカスの装いは解除し、ゴードンに馬車を引いてもらう。
 この方が都合よく向かえるからだ。
 目的地は隠し通路となるが、道中伯爵のトループなどがいる可能性は高い。
 
「コーネル様……だめです、ずっと動かないまま……ああ。なぜこのような事に。
私たちが閉じ込めていたばかりにこんな……」
「コーネリウスをなぜコーネルと呼ぶんだ?」
「……あなたはご存知でしょう? コーネル様は本来女性。ですが男性として育てられました。
本来のお名前はエルエレン・シュトラ・コーネリミル。兄は幼少の頃他界し、弟も死別。
直系で残られたのは、コーネル様ただおひとりなのです……」
「そうだったのか。世継ぎ無しの貴族ではという事なのだろうが、一体どうしようとしていたんだ」
「そろそろ到着します。最大限注意をひきます故、イライザは案内を頼みます」
「わかりました。ゴードン。私たちがここにいる事自体不自然だと思われるでしょう。
十分気を付けてくださいね」
「ふふふ。先ほどの問答後です。こちらも十分に楽しませて頂きますよ」

 ふっと笑うゴードンは、すぐさま馬車を降りて入り口のトループへと話を始める。
 さすがの伯爵邸宅。もはや城並みのサイズで、この大陸に来てからもっとも大きい外観だ。

 入り口の門は堅牢そうであり、中もよく見えない。
 
 捕縛されたコーネルを抱えると、自分とコーネルを捕縛網でガチガチに固める。
 攻撃されてはかなわないので、手や口もとあたりは入念に覆ってある。

「裏口はこちらです。ジェイクさんでしたか。道の端に停車させてください」
「俺っち、ここで待機していていいじゃん?」
「ええ。お願いします。何か言われたら、ゴードンを待っていると伝えれば問題ありません」
「わかったじゃんよ。やってみるじゃん」
「わしらはどうすればいいんじゃ?」
「老師もここで。いざとなったらジェイクを頼みます」
「ふむ。暴れてもよかったんじゃがのう」
「私たちも大人しくしていますね」
「ここにもエビルイントシケートが流行ってるのか……」
「お前らだけで行け。俺とブネは遠慮しておくぜ」
「素直に言ってはいないが、エプタにはグールパウダーについて調べてくるよう命令を出した。
あれは理を変える神の遺物だ。一体だれが持ち寄ったのか……」
「あ、ああ。わかった」
 
 頷きはしたものの、随分とよくない状況のようだ。ブネは無表情だが、エプタの顔色は悪い。
 馬車を道端につけると、レッジ、レッツェル、老師エプタ、ブネを馬車へ残し、一斉に外へ出る俺、ビー、イライザ。
 三人といっても封印内には既に、ファニー、サニー、レニー、負傷したメナスがいる。
 
「今から防音魔術を施します。そのままお待ちを……雄大なる魔の世界より這い出て力となれ。
汝を包むは寂しき闇。無の鼓動を持ちその闇を分けよ。
スペクターハッシュ」

 イライザの詠唱が終わると同時に、魔術で包まれる俺たち。
 一瞬影のようなかたどりをされたかと思うと、直ぐにその影は消える。

「これでいいわ。といっても聞こえないからここからはジェスチャーね」

 ハンドサインで俺たちを誘導し始めるイライザ。
 これはかなり便利な魔術だ。後で教えてもらうべきか……。

 伯爵邸の壁に沿うように進んだ場所で、一度止まるイライザ。
 あたりを少し見渡した後、誰もいないことを確認して、下から二番目の壁部分を蹴りこむ。
 しかし無音であり、何も起こってはいない。
 次に右上部を叩き、再び同じ位置の壁を蹴りこむ。そのうえで俺たち二人の手をつかむと、壁に思い切り
激突させた! 

「うわぁ!」

 声を思わずだしたが、周りには聞こえていないように思える。そして、俺たちは壁の中にいた。
 まるでウォーラスに取り込まれた時のような感覚。
 これは壁の一部分がおかしなことになっているようだ。
 すぐさまイライザもやってきて、ハンドサインを送り始める。

 壁の抜けた先には部屋があり、すぐさままずはその部屋へと侵入した。
 どうやら倉庫のようで、人がいるような部屋ではないようだ。

 しかし……慌てて入ったその倉庫には、とんでもない者がいた。

「ええっ!? エーじゃないか? なんで縛られて倉庫にいるんだ?」
「ムグー! ムングググ!」
「落ち着け、エー。ムググ族になるにはまだ早い! と言っても聞こえないんだった」
 涙目のエーにわかるよう口元に指をあてるビーが、縄をほどいてやる。エーは声が大きい。
 一度防音を解除してもらい説明をする必要があるが……ここは安全なのかどうかもわからない。

 イライザは察したのか、俺の防音を解除してくれたので、エーの説明を聞く事にした。

「エー。静かに話してくれ。一体どうしたんだ」
「まずいのであります。あのフィルミナとかいう女にはめられたであります!」
「フィルミナ? あの時の取り巻きの一人か」
「ああ! そちらはコーネリウス殿でありますか? 無事救出できたでありますね。
なのにこちらは……面目ないであります……」
「それよりスピアーはどうした? アネさんもこっちへ来なかったか」
「自分が不甲斐ないばかりに……どちらも、きっと今頃……自分、自害するであります……」
「ちょ、落ち着けって。どっちもどうにかなるような相手じゃない。スピアーなんて変身戻したら
この建物破壊しまくってるはずだから大丈夫だ」
「そうなのでありますか? ビー、シー。自分、まだ役に立てるでありますか?」
「当たり前だ。一緒に来い!」

 シュイオン先生の居場所をエーに聞き、再びイライザに防音魔術を展開してもらう。
 探す手間が省けたのはエーだけだが、俺の仲間たちならきっとうまくやっているはずだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

【R18完結】愛された執事

石塚環
BL
伝統に縛られていた青年執事が、初めて愛され自分の道を歩き出す短編小説。 西川朔哉(にしかわさくや)は、執事の家に生まれた。西川家には、当主に抱かれるという伝統があった。しかし儀式当日に、朔哉は当主の緒方暁宏(おがたあきひろ)に拒まれる。 この館で、普通の執事として一生を過ごす。 そう思っていたある日。館に暁宏の友人である佐伯秀一郎(さえきしゅういちろう)が訪れた。秀一郎は朔哉に、夜中に部屋に来るよう伝える。 秀一郎は知っていた。 西川家のもうひとつの仕事……夜、館に宿泊する男たちに躯でもてなしていることを。朔哉は亡き父、雪弥の言葉を守り、秀一郎に抱かれることを決意する。 「わたくしの躯には、主の癖が刻み込まれておりません。通じ合うことを教えるように抱いても、ひと夜の相手だと乱暴に抱いても、どちらでも良いのです。わたくしは、男がどれだけ優しいかも荒々しいかも知りません。思うままに、わたくしの躯を扱いください」 『愛されることを恐れないで』がテーマの小説です。 ※作品説明のセリフは、掲載のセリフを省略、若干変更しています。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

Sランクパーティーから追放されたけど、ガチャ【レア確定】スキルが覚醒したので好き勝手に生きます!

遥 かずら
ファンタジー
 ガチャスキルを持つアック・イスティは、倉庫番として生活をしていた。  しかし突如クビにされたうえ、町に訪れていたSランクパーティーたちによって、無理やり荷物持ちにされダンジョンへと連れて行かれてしまう。  勇者たちはガチャに必要な魔石を手に入れるため、ダンジョン最奥のワイバーンを倒し、ドロップした魔石でアックにガチャを引かせる。  しかしゴミアイテムばかりを出してしまったアックは、役立たずと罵倒され、勇者たちによって状態異常魔法をかけられた。  さらにはワイバーンを蘇生させ、アックを置き去りにしてしまう。  窮地に追い込まれたアックだったが、覚醒し、新たなガチャスキル【レア確定】を手に入れる。  ガチャで約束されたレアアイテム、武器、仲間を手に入れ、アックは富と力を得たことで好き勝手に生きて行くのだった。 【本編完結】【後日譚公開中】 ※ドリコムメディア大賞中間通過作品※

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...