上 下
639 / 1,085
第二章 仲間

第五百六十七話 フィーユ・ド・ロワの鐘が示す意味

しおりを挟む
 ラーンの捕縛網を発動すると、海水のような透き通る青色の水がコーネリウスへまとわりついていく。
 使用者によって大きく変化するというアーティファクト。以前俺が使用した時とは比べ物にならない形状へ
昇華している。
 相性もからむようだが、今の俺のモードは海水が主。相性はよかったのだろう。
 水の捕縛網で拘束されたコーネリウスは、未だに敵を探しているようだった。

 だが、拘束され徐々に落ち着きを取り戻しているように見える。
 しかし、正気ではない。顔色もとても悪く見える。
 ラーンの捕縛網はそう容易く解けるものではないし、魔術を唱えようとすれば
阻害するのは簡単だ。幻術と違い術詠唱を必要としているからだ。
 重力を操るコーネリウスだが、両手両足を動かせない以上、発せられる場所が
 非常に少ない。
 暫く拘束を続けよう。

「シー! 平気か。一体どうなってるんだ、コーネリウスは」
「コーネル様! なんといたわしい……」
「ゴードン。直ぐお召し物を。水に付けても動きやすいものでお願いします。あなたたちも
コーネル様を落ち着かせていただいたのは感謝します。ですが嫁入り前の女性の肌をこれ以上
見ないであげてくださいませんか」

 慌てて後ろを振り向く俺とビー。そうだった。コーネリウスは女だった。
 特にビーは動揺しすぎて目もあてられない。

「この水は……アーティファクトですね。詳しくはおききしません。これには何か沈静効果でも
施されているのですか?」
「わからないが……使用者によって効力が大きく変わるとは聞いている。
海水に含まれるマグネシウムあたりが影響している可能性もあるが……」
「そうですか……ゴードンがきたようです」

 急いで持ってきたそれはどう見ても水着にラッシュガードのようなもの。この状況であれば仕方がない。

「もう大丈夫です。それにしても一体コーネル様に何が……」
「俺たちの事もわかってなかった。忘却の薬や忘却の魔術などに心当たりは?」
「いえ、私たちには……食事はいつも侍女が運んでおりますし。
……そういえば先日、不思議な出来事が。バンドール伯爵自らがお越しになりました。
お会いにならないとお伝えはしたものの、構わぬといい、部屋の前まで案内しました。
ですがバンドール伯爵が何かを盛るなどとは考えづらいでしょう。それに……」
「それに?」
「申し上げにくいのですが、コーネル様のお力は、この領区随一のもの。先ほど振るわれたお力の一端を
体験されたあなた方ならわかると思いますが、気性も激しいお方です。
しかし記憶がないというのはおかしいですね」

 伯爵が何かしらを行った可能性は考えられないわけではないが、そもそも
会ったかどうかも怪しいとうことか? あるいはほかの何かか……。

「そういえば、伯爵が伯爵であることは確認したのか?」
「いいえ。統治者を確認するなど出来ぬ身分故」
「それもそうだよな。だからこそつけいる隙がある……か。それならば近くにいてもおかしくはない」
「どういうことでしょう?」
「コーネルは何者かに薬をもられたか、操られているか何かで、おかしくなっていたのは事実だろう。
……監視して対話を試みる隙を探していたのかどうかまではわからないが」
「何かおっしゃいました?」
「いや。このあたりに、この屋敷がよく見える高台は……あそこか?」
「あれをご存知なのですか?」
「うん? いや、俺は知らないけど」
「シー。さっき話していたフィーユ・ド・ロワの鐘はあれだよ」
「そういえば、ビーが問答していたな。あれはどういう意味だったんだ?」
「王女が親友のために作った鐘だ。聞いた事のある話だったが、事実だったようだ」
「……そういうことです。王女が嫁ぐとともに、取り壊しが決定しました」
「……あの場所へ行っても構わないか?」
「ええ。制限はしておりません。鐘は鳴らないよう固定されていますし、二十三領区は安全で、入り方も
特殊ですから」

 俺は急ぎ、鐘のある場所へ向かった。
 きっとあそこに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

進化転生 転生したら召喚獣ウルフィでした ~召喚獣が召喚の力を執行する~

紫電のチュウニー
ファンタジー
【サブ連載、土曜日二本更新中】 シロと二人、パン屋を営みながらゆったりと過ごしていた白井 杏珠。 シロのふわふわを感じながら寝ていたら、謎の進化する白い生物 ウルフィに転生してしまう。 その世界でルビニーラという召喚術士に突如契約され、従魔となる。 彼は召喚獣なのに奇妙な召喚術を使える異能者だった。   ウルフィを手にした彼女の夢は、召喚士としての頂点である紫電の召喚士。 成長と冒険の旅が始まろうとしていた。 オリジナル世界観で描くローファンタジーなストーリー をお楽しみ頂ければ幸いです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...