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第二章 仲間

間話 銀髪の女狐メナス

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 私の名前はアウグスト・ラトゥーリア・メナス。
 男爵の三女。幼少の頃に顔へ深い傷を負った。
 それ以来父も、母も、元々嫌がらせをしていた兄姉たちも皆、私をさげすむようになった。

 いつしか私は、アウグスト家として認められなくなった。
 そんな私の理解者は、侍女のミネルヴァだけだった。
 彼女だけが私を支えてくれる唯一の救いだった。
 ミネルヴァはいつも私を庇ってくれて、しつこい兄たちのいじめから生きてこれたのは、彼女のお陰だった。
「メナス様。これをどうぞ。こんな形で嫌かもしれませんが、少しは嫌がらせかもしれません」
「狐のお面? これなら私にぴったり。この家では家畜も同然」
「ああ……お許しください。美しい仮面を買えば、すぐさま叩き割られるでしょう。
どうか、どうか……」
「ううん。嬉しい。物心ついてから、贈り物貰ったの、初めてだから」
 それから私は狐の仮面をつけて過ごした。周りからはバカにされ、お似合いだとけなされた。
 でもそんな言葉を浴びせられても、ミネルヴァの贈り物が嬉しくて仕方無かった。

 だが……私が誤って家の茶入れを壊してしまったのを庇い、解雇されてしまった。
 
「お嬢様、どうか、強く生きていてください。あなたをきっといつか救ってくれる方が現れる
のを、祈っております」
「嫌だよ。ミネルヴァ、傍にいてよ。嫌だよ……ミネルヴァがいないと私、死んじゃうよ……
お兄ちゃんたちはずっと暴力を振るうの。やめてくれないの。ミネルヴァがいないとやめてくれないの……」
「ああ! どうか神様……メナス様をお守りください。どうか……どうかお願いします。お願いします……」

 ミネルヴァは私の許を去ってしまった。それから、酷いいじめにあった。
 でも、みんな見ないふりをしていた。兄たちに逆らえない恐怖を植え付けられた。
 さすがに息子たちの教育上よくないと考えた父は、醜い私を剣術と魔術で鍛え、早めに働かせる
事を決める。その代わり親族に対し一切の暴力行為を振るえない呪術を先に施された。
 極めて高い魔力と特異能力を保有する私を、うまく利用したかったのだろう。
 家宝の一つを与えると、自分の手にそれは馴染んだ。
 
 けれど、それでも兄たちのいじめは治らなかった。それどころか日に日に激しくなるばかり。
 ついに父は、私を家から追放した。
 トループとして登録してやったから、九領区へ行けと。

 私は、九領区で暴れた。いじめられ、苦しめられ、さげすまれ……だが。
 ここの者たちは私の強さに平伏した。醜い汚物を見る目ではなく、羨望の眼差しを向けられた。
 いつしか私はここの統治者、銀髪の女狐と呼ばれるようになった。
 戦いを繰り返し、戦いのさ中にこそ自分が生きている、いじめられない実感が沸き起こる。
 だが負ければ自分は……。
 
 そんなある日、部下のトループが身体的不調を訴えだす。
 一人、また一人と倒れていく。ここでは激しい訓練や戦闘、いざこざは絶えず
行われている、荒れた領区。無理もない。
 だが、様子からして伝染病だとわかった。そして、自分の頭によぎるのは兄たち。
 
 忘れようとしていた怒り、憎しみがふつふつと蘇える。
 そんな折、貴族領区方面よりきた馬車が、荒くれに襲われていた。

 こいつらも、伝染病を持ち寄るものか。
 頭に血が登っていた私は、全員を容赦なく捕えた。

 ……そいつらに、私は負けた。
 変わったやつらだった。同じトループだというのに、まるでトループらしくない。
 殺せと言ったらそいつは、おかしなことを私に向けて言った。

「っ! ふざけるなよ。死んで解決できるなんて甘ったれるな。そんなの、逃げてる
だけじゃないか! 生きたいのに、生きていたいのにそうすることができない人々の気持ち、考えた事あるのか!」

 何も言い返せなかった。圧倒された。本当は、私の事なぞ知らぬくせにと言ってやりたかった。
 だが、そいつの顔はあまりにも悲しそうで、苦しそうだった。
そいつは私以上に苦しんできたのかもしれない。そう思った。

 そいつのお陰で多くの部下に慕われている事を知った。
 もっとそいつの事が知りたくなった。私はそいつらへ同行することにした。 

 驚く事に、醜い私の顔を見ても、何も触れようともせずさげすむこともない。
 不思議だった。
 そいつの周りには美しい女性も多くいた。
 比較されるものとばかり思っていた。
 だが、どの女性も私を美しいという。綺麗な髪を褒められたのはミネルヴァ以来だった。
 こんな居心地のいい場所、今まで一度も体験した事なぞなかった。
 私が生まれて体験した場所。それはいじめと嫌がらせの場所と、戦場のような場所。
 
 だが私は、再び最も居たくない場所へ引き戻された。
 兄に髪を引っ張られ、地面に押し付けられた。腹を蹴られ、泥水をかけられた。
 魔術で服の一部を焼かれた。 
 
「醜いボロ雑巾が、どの面下げて帰って来たんだ? おい、何とか言ってみろよ」
「……」
「おいおい、言葉まで忘れたのか? 頭の中まで傷だらけになって帰ってきたか。醜さに拍車がかかるな」
「……」
「おっと誰が起き上がっていいといったんだ? 地に伏せろ。そうだな、喋らないなら懐かしい話を
してやろうか。お前が昔割った茶入はな。俺が細工して壊れるようにしておいたんだよ」
「この下種が! お前のせいで、お前のせいで! ああっ!」

 決して逆らえない。家族に手を出せない呪術。忌々しい。
 永遠と続くいじめ。この人はなぜこんなことをし続けるのか。理解出来なかった。
 もう平気だと思った私の心をえぐってくる。
 ……きっと迎えに来てくれる。
 そう伝えた仲間を信じて、ずっと待っていられる自信があった私の心を深く、深く……。

「兄貴、そろそろやばいぜ。死んじまう」
「けっ。こんなやつ死んでも構わないだろ。なんで生かしておいてるのかねえ」
「死んだらコーネリウス殿に名前が知れてるから都合が悪いんだろ? そうじゃなきゃとっくに
死んでるぜ」
「はいはいわかりましたよ。今日はこれくらいで勘弁しといてやる。いくぞ」

 ボロボロに打ちひしがれた私は、部屋に戻り、うずくまるようにして膝を抱えた。
 もういっそ、死んだ方が楽になるかもしれない。
 彼らだって来ないかもしれない。こんな醜い私のためになぞ……。
 
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